「どうしたんだい?」
「いえ、気になるところはなかったんですか?」
「すまない、ちょっと木下さんのギターにテンションが上がってしまった……」
「先生のベースは、ファンク、フュージョンベースのスタイルなので、まだまだわたし達に色々あるんじゃないですか?」
少し先生は考えるように下を向いてから、「うーん、ない事はない。だけど音楽だ。君たちのレベルに私から教える事はない。これでいいかな?」
なるほど、欲しい物は聞いて来いと言う事か……。
「ただ、個人的に音楽の話はしたいと思うよ? その速さ、正確性、オリジナルのフレーズ達は異常なレベルだ、部員の中には私のプレイより好きな子は沢山いるだろうね」
そうか、好みの部分に触れて居るから教える事が出来ない……なるほど。
「今回組んだバンドは、永田の方はスカやボサノヴァが好きなメンバーだ、木下の方は
ギターロックが好きなメンバー。あの2人は君以外のバンドのギターとほぼした事無いと感じたけど、どうかな?」
「そうですね……」
「ただ、牧野さんはともかく永田ですら高校生だとかなり上手いレベル。贅沢なくらいだよ」
そうだろうな。
別に部長が下手な訳ではない。むしろ高校生ならヒーローだ。由美ちゃんに至っては同級生だったなら俺も勝てなかっただろう。
サヤみたいなのは本当に10年に1人出るか出ないかレベルの逸材。あれをメンバーに求めるのは酷な話しだ。
先生の指示通り、俺たちは別れて新バンドについて話した。
「よろしくお願いします! 六花は同じグループだね!」
だが、思うようにはスタートを切る事が出来ない。
メンバーは、
ギター3年高田先輩
ギター2年安城先輩
高田先輩と安城先輩は部長よりは弾けないが高田先輩の方が上手い。安城先輩は女性ギタリスト。
ベース3年庵野先輩
スカのフレーズを弾きこなしていた感じからも、かなり弾ける女性ベーシスト。
ドラム2年半田先輩
昔の雅人といい勝負かな? リズムがまだまだ甘いスリムなイケメン。
キーボード1年六花。
「ギターが3人もいるね……」
少し悩むと、先生が言う。
「木下はギターは弾かずに、ボーカルをしてくれないか?」
はぁ? マジで言ってんの?
「いや……」
「あくまでこのバンドで、発表の話しだ。練習は全然構わないよ」
早くも俺は武器を失ってしまう。
理由は俺が弾けばカバー出来てしまうからだろう。それとも歌に課題を感じたのか?
「曲はコピー、オリジナルは問わないから好きにやってくれ!」
そうは言われてもな……。
♦︎
俺のチームはとりあえず話し合ってみる事にした。困っていたのを察してくれたのか、庵野先輩が話し出した。
「多分、長谷さんの考え的には木下さんはギター以外で貢献しろって事だと思うんだよな……曲とかどうしようか?」
「えっと、みなさんはギターロックが好きなんですよね?」
「あたしたちは大体そう、海外のロックでも全然いいのだけど、橘さんは?」
「わたしも好きです」
「とりあえず、その辺で曲をえらぶ? オリジナルしてもいいけど……」
庵野先輩は早く曲を決めたそうだった。
俺は六花に目をやると、何かもごもごしている。
「六花、何かしたい曲あるの?」
「え、あ。わたしが言ってもいいのかな?」
「橘さん、あるなら言っときなよ!」
「そうそう! 本来は最初は1年がしたい曲をする事になってるから!」
「そしたら……ベンフォールズ5がしたいです……日本ならsuemitsuでも良いけど、ピアノがしっかり有るのが……」
渋っ! だが、ピアノを考えると良いかも知れない……。
ただ、ギターを考えるとsuemitsuの方がいいかもな……。
「うーん、ギター二つを考えるとsuemitsuの方がいいかも? ギターが面白い曲でlronyとかはどう? かなりギター出るよ?」
「lrony? 木下さんが面白いっていうなら!」
こうして俺たちの曲は決まった。
予想外だったのが上手いと思っていた六花の課題が浮き彫りになった。
◯用語補足
・ベンフォールズ5
ピアノのロックのパイオニア。
philosophyとか一度聞いて欲しい!
・suemitsu
suemitsu & the suemithの事。
過去にのだめの曲や木村カエラのバタフライなどもこのバンド。日本のピアノロック。
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