入って来た俺は、ライブに満足して居た様に風祭さんに言った。
「今日の音響良かったですよー!」
「太郎くん今日もギター凄かったねぇ」
「また宜しくお願いしますね!」
「あ、こちら"サカナ"のギターボーカルの時子さんと、前座のバンド"H.B.P"のまひるさん」
「あ、よろしくお願いします!」
「よろしくお願いします」
「それで、風祭さん! 俺のソロどうでした? 今回の曲のソロ、マーティを意識したんですけどね……」
こいつマジで何を言っるんだ? 置かれてる状況わかってんのか? クソ、なんか言ってやろうか。
「ギターソロ、ペンタ主体でしたね……あのフレ……」
「おー若いのにわかる? ソロはやっぱりね、あの味を……」
ダメだこいつ。
その後も自分の理論しか話さない。
俺はこんな感じだったのか……。
一通り語り終えると、機材を直すからとそそくさと出て行った。
「な? なんとなくわかったでしょ?」
風祭さんがちょっとため息混じりに言う。
俺はその言葉で放心してしまった。
時子さんと外に出ると涙が溢れて来た。
なんなんだよあいつ。会ってないんじゃない、"サカナ"にすら全く興味を持って居ないんだ。
「ちょっとまひるちゃん? どうしたのよ?」
その後ホテルにもどる直前まで泣いた。
ホテルに着くと俺はタキオに電話をかけた。
プルルルル、プルルルル
「まひるさん、どうしました?」
タキオは落ち着いた声で電話にでた。
「今日、自分に会って来た」
「え? そうしたら記憶はどうなったんですか?」
「多分記憶にすら残す事は出来なかった」
「話しかけ……たんですよね?」
「うん、でも奴はわたしには興味を全く持たなかったから……」
「そんな事があったんですね」
タキオの声が曇る。
「僕の方も一つ、転生直前の"タキオ"の手紙を見つけたんです」
タキオはさらに声を殺し言う。
「どんな、内容だったんですか? その様子だと普通じゃないですよね?」
「よくある話かもしれないですが、自分の状況を嘆く内容でした」
状況を嘆く……確かに良くある内容かもしれないな。
「まひるさんは、転生前のその子の状況とかって何か探したりしましたか?」
「わたしは、この生活に適応する為に調べたくらいで……」
「良かったら一度探してみて下さい、共通点なんかがあれば、もどるきっかけになるかも知れないので」
「わかりました、ではまた何かあれば! あ、あとCD出す予定が決まったので、デザインををお願いするかも知れないです!」
「おめでとうございます! いつでも言ってください! 」
そういうと、続けてタキオは呟いた。
「自分はもう、嫌なんです」
「タキオさん……」
「毎日この身体で過ごすのが不快で、服もかわいい服なんかは着れないし……早く元に戻して欲しい」
「そうなんですね……」
「まひるさんはあんまり気にしてなさそうですよね?」
「うーん、わたしは慣れましたね。最近はちょっと感覚も女の子っぽくなって来てるのが戻った時心配なくらいかな?」
やっぱり気になるんだろうな。俺はつくづくこの楽観的な性格で良かったなと思うと、昔の自分も少し許せた気になった。
♦︎
部屋に戻るとかなとひなは新曲のイメージトレーニングをしていた。
「ひな、かな。わたしが調子に乗ったら全力で止めてね……」
俺は無意識に口にした。
「うん、うちがベースで殴ってあげるわ!」
「あはは」と笑うと、明日のライブに向けての準備をした。
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