俺の音楽ここにあります

ギタリストのTS転生ストーリー
竹野こきのこ
竹野こきのこ

スランプ

公開日時: 2020年10月22日(木) 03:08
文字数:1,726

 目がさめると朝の7時50分、ひなはもう起きている様だった。


 俺はかなをそっと起こして、朝の準備に入る、洗面台を使う順番を決めた。


「なんか、今日ライブがあるって感じがしないね!」

 ひなはそう言って笑った。


 一通り準備を済ますと、俺たちは少し早く9時に待ち合わせ場所についた。


 しばらくして、"サカナ"の3人とハイエースが待ち合わせ場所に着く。


「昨日はよく眠れた?  結構いい部屋だったよね!」

 時子さんは朝から元気だった。


「はい、普通に旅行みたいなホテルで……」


「次もこれを期待しちゃダメよ!  がっかりしちゃうから」と言って時子さんは笑った。


 西田さんはみんなの分のパンを買って来てくれていて、朝食を食べながら福岡に向かう。


 今日も"サカナ"はお昼はレコードショップを周り宣伝、お昼はクミさんの見つけたパスタ屋さんでご飯をたべた。


「見たことない土地はどうだい?  福岡は結構バンドマンには土地柄上あったかいところだよ!」


 そうなんですか?


「古くはルースターズやシーナアンドロケッツ、175Rも福岡出身なんだ。そのせいか、福岡はガッツリやってるバンドマンを応援してくれる感じがするよ!」


「そうなんですね!」

 俺はさりげなく知ってはいたんだけど……


「そう、今日のライブハウスもその頃バンドをしていた人がやってるところなんだよ」


 ライブハウスに着くと確かに凄くフレンドリーだ。リハーサルのあとオーナーが気さくに話しかけてくれた。


「君たち中学生とは思えないクオリティやね!  "サカナ"の前座だから上手いとはおもっとったけど、すごかね」


 俺は、博多弁には親近感を覚えた。


 ツアー初ライブ。H.B.Pでやるのが久しぶりに感じた。


「なんかここやりやすいね!  人も沢山入ってる!」


「せやなぁ、うちらは"サカナ"の足を引っ張らない様にしないとね!」


 適度な緊張感と、お客さんの反応も良かった事もあってライブは大成功を収め、持って来ていたデモCDも、40枚近く売れた。


「おー!  まひるちゃん!売れたとね!  つぎはH.B.Pがメインで来るのまっとーよ?」


「是非またここで出来るようにがんばります!」


 だが、"サカナ"はやっぱり凄い。

 前回見た時とは違い、レコ発のメインライブ、約1時間ある出演時間があっという間に過ぎた。


 俺のギターは勝っているのか?

 もちろん、正確さや速さ、音の綺麗さは勝っていると思う。


 ただこの時子さんのギターを代わりに弾いたとして、"サカナ"の持つ良さは出そうに無いと思う。


 たとえは大げさだけど、ポールギルバートがジミヘンより評価されないのに似た様な気持ちになった。



 ♦︎



「博多と言えば鍋でしょー!」

 時子さんは相変わらず全力全開だ!


 俺は今日気になっていたギターの感じをさりげなく時子さんに聞いてみた。


「どうやったらわたしの様な音がだせるか?  なにそれ?嫌味?  まひるちゃんの方が断然上手いよ?」


 西田さんが被せる様に、

「あー、まひるちゃんの言いたい事はわかるよ!  時子のギターは独特の魅力があるよなぁ」


「えー?  そうなの?  うーん、出したい雰囲気があって、その為に弾き方は考えてるけど……」


 リフから作らないんですか?


「わたしはイメージから作ってるかな?  こんな雰囲気の曲がしたい!  それを出すにはどんなギターが合うかなぁ?  みたいな?」


 そうか、それだ! 


 時子さん!凄く勉強になります!


「まひるちゃんも一回そうやって作ってみたら?」


 はいっ!次の曲でやってみます!


「まーちゃんよかったね!」


 この作り方は大分試行錯誤しないといけない、けど、それが俺たちだけが出来る曲になるんだ!


「わたしはH.B.Pの想像力から出来る曲、聴いてみたいなぁ!  ただでさえすっごく綺麗なんだもん」


 時子さんは大分と酔っている様だった。


 ホテルにギターを持ち帰り、早速イメージしてみる。


 イメージしてみる。


 イメージして……。


 俺の作りたい雰囲気ってなんなんだ?

 いや、今は無理だ。マジか。


 どうやっても、好きなアーティストなんかが出てきてしまう。


 それもそのはず、俺は作りたい構成に要素を入れる作り方しかした事無いんだ。


 パジャマのひなが俺の頭を撫でた。

「よしよし、まーちゃん。  無理しないでね。  まーちゃんならきっとできるよ」


 スランプに陥った俺はひなの優しさに救われた気がした。


◯用語補足

・ポールギルバート

元MR.BIGのギタリスト。正確無比な高速ギターで、光の速さのギターと称された事もある。


・ジミヘン

ジミーヘンドリックスの略。右利きなのに左利き用を弾いたり歯で弾いたりしていたのも有名な伝説級ギタリスト。


・ルースターズ

「恋をしようよ」など、カバーされる事も多数。ロックファンに絶大な人気を誇る福岡出身のロックバンド。


・シーナアンドロケッツ

ユー・メイ・ドリームの人で分かった人は多分いい歳。「九州のコンビニはポプラじゃけぇ」の人と言ったほうが九州の人はわかるかも。


・175R

空に唄えば、が代表曲かな?まあまあ有名な曲が多いです。スピードの今井絵理子の元旦那がボーカル。

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