サヤのお父さん?
確かに気にしていなかったけど、普通娘が何日も帰らないと探すよな……。
とりあえず電話をかけてみるか……。
プルルルル、プルルルル
「はい」
「あ、あのー、シーサイドレコーズの木下ですけども……」
落ち着いた声に俺は畏まった形になる。
「あぁ、"ハンパテ★"のギターの人でしょうか?」
「はい」
なんというか、迫力ある低い声だ。
本当に、サヤのお父さんなのだろうか?
「うちのサヤがお宅にお邪魔しているときいたのですが」
超怖いんですけど……。
なんて言おうか? 下手な事言うと「何考えてるんだ?」 とか言われそうだけど……いや、でも勝手に来たのはサヤだし……。
「あ、はい。 うちに泊まりに来てます」
「そうですか……」
あれ? それだけ?
「貴方にこんなことを言うのは違うと思うのですが……」
やっぱ、そうなりますよねー!
「学校だけは卒業出来る様説得してもらえないでしょうか?」
ん? なんか柔らかい。
「そうですよね……一旦帰る様説得してみます……」
「ありがとうございます。 本当は父親の私が直接言わないといけないのはわかっているのですが……」
サヤのお父さんはギタリストのはず。
ただ、サヤもギターをしているから仲はいいと思っていたのだけど違うのか?
「あのー、こんな事聞くのはあれなんですけど、サヤとあんまり仲良くないんですか?」
「……」
「あ、無理はいいません……ただ、サヤもギターなのでギタリストのお父さんとは仲がいいのかと……」
「アイツはあんまり話さないから……」
「なるほど……」
「ただ、こうやってバンドのサポートとはいえ、友達の家に泊まるなんて事は今までなかったので出来るだけ止める様な事はしたくないんです」
「そしたらサヤがギター上手いのも知っているんですか?」
「もちろんです、君のギターも聞いている……正直君たちに付いて行けばアイツでもちゃんと食って行けるとも思う。ただ……」
仕事上、仕方なかったとはいえ罪悪感を感じているんだろう。
「自分が出来なかった事を、サヤより年下の君たちにお願いするのは……」
俺はサヤのお父さんの気持ちを汲んだ。
「わかりました。一旦帰宅するように促します!」
「すまない……」
サヤのお父さんはしっかりサヤの事を考えていた。ギタリストという不安定な仕事の中、それでもサヤを食べさせて行こうと必死だったのだろう。
俺がもし、転生前に娘と2人で生活していくと考えたら、もちろんギターしかなかっただろう。
必死で演奏できる仕事を探し、サヤのお父さんと同じ様な事でさえ出来ただろうか?
自分で選んだ道でもちろん覚悟はしているけれど、子供まで巻き込んでしまう辛さは少しわかる気がした。
♦︎
俺は部屋に戻ると早速サヤに話をする。
「サヤ、一旦うちに帰ろう?」
サヤは驚いた顔で言った。
「なんで?」
「高校、留年しちゃうよ……休みになったら来たらいいじゃん?」
サヤの目が泳ぐ……。
「クビ?」
「違うよ、サヤは必要……だけど、わたし達のせいで留年させる訳には行かない」
「いい……」
「よくない!」
「いいの!」
珍しく声を張るサヤに俺は心を鬼にした。
「一旦帰らないのなら出ていらない」
「えっ……」
「帰らないならフェスにサヤはいらない」
「う、嘘……?」
「嘘じゃない。学校もちゃんと行けない人と一緒には出来ない」
「……」
俺が強く言うと、サヤは涙を浮かべ、そのあとは一言も声を出す事は無く、部屋の隅で体育座りをしたまま俯いていた。
夜が更け、体育座りをしてるサヤの膝が崩れ、ハッとした様に戻すのが見えた。
「サヤ……おいで?」
サヤは何も言わず顔を上げる。
俺はサヤの腕を持ちベッドに押し上げた。
「別に、サヤが嫌いな訳じゃないよ。ギターとしても大切に思ってる。でもね……わたしらは気にせずにライブができる様にしたいんだよ?」
サヤはコクリと頷くと俺を抱きしめるようにして眠った。
あっ! えーっと、今日サヤお風呂入ってなくない?
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