ひなの事は好きだけど、今はなんとなく会いたくはなかった。
とりあえず俺はひなを迎えにいくと、部屋に入れた。
「ひな、急にどうしたの?」
「今日のまーちゃんが気になっちゃって……」
そうか。 でも少し話しを変えないとな。
「今日さ、西田さんから連絡があっ……」
「まーちゃん、あのね……無理、してない?」
「無理? はしてないよ?」
「かなはドンドン進みたがっているけど、あたしはまーちゃんのペースでいいよ?」
バンドの事だよな?
「わたしは大丈夫だけど、ひなはつらい?」
「……あたしは、コスプレとかは嫌だったけど、楽しくできてるよ?」
「それならいいけど」
「かなはともかく、まーちゃんは引っ張って行くタイプじゃなかったよね?」
本来の俺も、人をまとめるタイプではなく、どちらかといえばサポートする側だったな。
俺は少し、中学生の頃を思い出した。
「ひな、わたしは確かに引っ張っていくのは苦手だけど、やっぱりギターを弾いて、すごいとか、バンドがカッコいいとか言われるのは好きなんだ」
「うん……見ていてもわかるよ」
「それでね、やっぱり"|ハンパテ★《ハンパテ》"をもっと沢山の人に知ってもらいたい」
俺は"キラの助"を手にとり、この世界で初めて作ったリフを弾いた。
「これが自分の力……すごい?」
「うん、すごいと思う」
「そこにひなや、かな、リクソンさんが合わさったのが、このCD……」
デモCDを手にとってひなに見せた。
「さらに、西田さんや、タキオさんまで入るとお店に並ぶ事ができるの、そしてそれを並べるお店の人がいて、手にとって共感してくれる人がいる。これって凄い事?」
「とんでもなく凄い事だと思う……」
「わたしは、そうは思わない。もちろん凄い機会は与えられたと思うけど……」
「え? なんで?」
「確かに売れてるバンドは理由が有るし、機会もある。 でも、知らない人にいいと思う演奏や、自分たちの精一杯の表現をして共感してもらう事の方が大切だよ……」
俺は過去の自分に言い聞かせてる気がした。
「だから、出来る事は全部やっておきたいんだ、結果がどうだったとしても……」
「まーちゃんがしたかったのはそういう事だったんだね……」
正直これは俺のエゴだと思う。
でも、本当のまひるちゃんがしたかったのはこのエゴと一致してると思った。
タイムリミットまでに売れなきゃいけない。
でも、まひるちゃんが欲しかったのは"売れてる自分"じゃなく、"夢に全力を尽くす自分"あえて言うなら、しっかりみんなの事も考える事もそこに必要。
「よかった、まーちゃんはやっぱりまーちゃんだね。ちょっと安心したよ」
「どういう事?」
「夢中になれるモノをちゃんと見つけられたんだねって事だよ」
そういうとひなは笑顔になった。
ひなの笑顔をちゃんと見たのは久しぶりな気がした。
今の俺にはもう、色々な迷いは無くなったと思う。だってこのまひるちゃん本人だって同じ気持ちのはずなんだ。そう思うと今しなければいけない事にしっかりと向き合えると思った。
「卒業文集懐かしー!」
そういうとひなは机に置いてあった文集を手にとった。
「それのひなの書いた文ヤバいよね」
「あはは、まーちゃんやめて! あたしの黒歴史だよ」
ひなはそういってもう一つの本を手に取った。
「この本なに?」
「ちょっとまって、それは……」
そう言ってひなは本を開いた。
「まーちゃん……これ……」
「あ……」
「あたしがあげたやつ、まだ読んでたんだ」
「う、うん」
えーっ! これ元々ひなのだったの?
ちょっとマジで??
「ひなって意外とこういうの好きだよね……」
「人間だもの。というかまーちゃんも読んでるし!」
相田みつをか!
かなの方がそういうイメージがあったのだけど……女の子ってちょっと早い??
「まーちゃんはさ、拓也以来好きな人は出来てないの?」
えっ? そうだったの?
日記ではそんな気がしなかった訳では無かったけど……俺はひなの言葉に驚きが隠せなかった。
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