前夜祭前日、俺たちはいつものハイエースで、会場に向かう。
今回も西田さんが付いてきてくれた。
「みんなはフェスは初めてかな? まぁ、出るのは初めてだろうけどね!」
「うちは初めてですわ!」
「あたしもー」
「あ、初めてです……」
「何度か……」
サヤはお父さんに連れられて何度か来ているようだった。
「そうか、そしたらびっくりするかも知れないね」
車は山道を抜けると、遠くにステージらしき物が見える。
まだ、設営最中の様だが、ほとんど出来上がっていた。
「見てみて! めっちゃすごい!」
「わぁー! 広いねー!」
「あれが2ndのBステージだよ!」
大きな山に3つのステージ。
B、A、C、と順番に並んでいる様だ。
「うちらここ!? 広すぎひん?」
「Bステージは、約1万5千人のキャパだよ、Aステージは約2万、Cステージは5千人くらいだよ」
「ほぇ〜」
「僕たちには狭いステージだな!」
「あ、うん、そうだねサヤ……」
「あはは、サヤちゃん言うねぇ〜まぁ、そのくらいで構えている方がいい!」
車を止め、受付を済ませると出演者パスを貰う。
「このパスが無いと入れなくなるから、みんな無くさない様にするんだよ」
「はーい! なんか西田さん引率の先生みたいやなぁ」
「西田さん、アーティストはまだ全然来てないみたいだけど……」
「結構時間はあるから、"サカナ"含め大体は明日の朝来るのが多いよ、君たちは初めてだから前日入りさせて貰ったけどね」
なるほど、でも反応を見る限りその方がいいよな、昼過ぎからはチェック含め前入りアーティストのリハーサルが始まる様だ。
「すいませーん! "ハンパテ★"の皆さん、機材をご確認下さい!」
先日レンタルした機材と、持参した機材をローディースタッフに伝え、セッティングなどを打ち合わせする。
リハーサルで微調整をしていく流れだ。
「"ハンパテ★"さんは機材少ないですね!」
俺たちは、出演バンドには珍しく俺以外は、大体機材は一つづつ、俺ですら"マスたん"と"キラの助"の2本しかない。
サブは持っていた方が良さそうなんだけど……。
「うち、長谷先生にベース借りようと思ったけど、あかんていわれたんよなぁ」
「かな、それネタ? 5弦のフォデラ借りてどうするつもりだったの?」
「かっこええやん?」
いまいち本気かわからないが、言ってみたのは本当みたいだった。
「フォデラ……」
「サヤ、見れないよ! 借りてないからね!」
会場も広いけど、スタッフもすごい数だな。
俺たちは早速手持ち無沙汰になり、挨拶しながら見て回る事にする。
すると、かなはなにかを見つけた。
「あそこになんか外人さんおらへん? 有名なアーティストかも知れへんで!」
「本当だ! ちょっと挨拶に行こうか!」
通訳の人らしき人と3人で話している外国人がいる。
えっ……コールドプラン!?
「ジョニー・マ〜〜ティン! 」
サヤが叫ぶと外国人はこちらを見た。
「僕らのライバルはお前たちだな! この……モゴモゴ」
俺は急いでサヤの口を押さえて止める。
「すっ、すいません!」
「モゴモゴ……」
コールドプランのギターボーカルのジョニー・マーティンだった。
ジョニーは通訳の人に何か話しかけると、通訳の人が言う。
「君たちも出演者かい? 僕の事知ってるみたいだけど? だそうです」
「あ、はい。"ハンパテ★"といいます」
「その取り押さえられてる子はメンバーかい? 面白い子だね楽器はなんだい?! だそうです」
「あ、すいません。サヤはギターです……」
ジョニーは表情を明るくすると、何か言っているが……プロフェッショナルと言ったのだけ聞き取れた。
のべ10年くらいは洋楽聴いているはずなんだけどなぁ〜。そう思うと通訳の人が、
「若そうだけど君もプロのギタリストなんだろ? 前夜祭一緒にやらないか?って言ってます」
マ……マジで?
「やります! やらせて下さい!」
ジョニーに伝わると、
「君達もかい? いいだろう、一緒にやろう!」
とジョニーは言ってくれた。
サヤの謎のキャラ作りのおかげで、コールドプランと同じステージに……世界のトップクラスのアーティストだぞ!?
その場を去ると、俺はサヤに言った。
「サヤ、コールドプランすきじゃなかった?」
「好き……どうしよう……」
「まさか勢いで言っちゃったの?」
サヤはコクリと頷いて顔を赤くした。
「うちも好きやで……」
「あたしも……」
マジか……。
みんなミーハーじゃねーか!
ステージに戻ると、スタッフが楽器をセッティングしてくれている様だった。
「もうすぐリハーサルだね……」
「ステージからの景色どんなんやろなぁ」
「そうだね……」
俺は昔見たウッドストックの映像を思い出し、高揚した。
("ハンパテ★"の皆さんお願いします!)
ステージに出ると、驚くほど広く、解放的な野外ステージに圧倒される。
少し離れた所から手をふるジョニーが見えた。
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