会場の歓声は止み音がクリアに聞こえる。
全員が音楽に関係している人たちだからか、普通のライブではありえないだろう。
たった一日でジョニーのまとめ上げたこの音に俺は言葉を失った。
サヤが上手いのは知ってる。かなが上手いのも知っている。
練習時間が何倍もあったのに……
お互い理解する時間は何倍もあったのに……
俺はこの音を出す事は出来なかった。
完璧だと思っていた俺たちのTOOLは何かが足りなく感じた。
♦︎
ライブが終わり会場はざわついていた。
「まひるちゃん、ちょっと……」
「西田さん?」
「ジョニーが呼んでる……」
ジョニーが?
なんだよ……わかってるよ。
重い足を引きずりながら俺はジョニーの元に向かった。
裏に着くとパイプ椅子に座るジョニーが俺を
睨み何か言った。
西田さんはすかさず通訳する。
「よう、女王……」
確かにジョニーはクイーンと言った様に聞こえた。
「ジョニー……」
「下僕達に牙を剥かれる気分はどうだ?」
「……」
「おいおい、意外と小心者なんだな?」
ひなは慌てて西田さんに言う。
「西田さん、ジョニーはそんな感じなんですか?」
「ああ、ニュアンス的には間違ってないと思うけど……」
俺は気持ちを落ち着かせて言う。
「下僕なんかじゃない……」
俺は正直驚いた。
今まで会って来た事のあるいわゆる"成功"しているバンドマンは、プライベートは丁寧で腰の低いイメージだった。
全英ナンバー1とも言われるバンド、コールドプランも、ニュースでは様々なアーティストへの暴言が目立ついわゆる"自由なロックスター"だけど、実は丁寧。そうどこかで思っていたんだ。
ところが……
"キャラのまんまじゃねーか!"
「武器を持っていても使いが腰抜けじゃあ話にならねぇ、所詮はお子様の音楽だ」
はぁ?
ふざけるな、俺だって死ぬほど練習してきてんだよ。一回腐っても、ゼロからここまでやってきてんだよ!
俺はジョニーに無心で中指を突き立てた。
「まひるちゃん、外国人にそれはまずいって……」
最後の言葉は分からなかったが、俺は西田さんに離されるようにその場を後にした。
「まひるちゃん、落ち着いて。すまん、僕も伝えなければよかった……」
「いいんです……わたしも彼のキャラは知ってるつもりでしたので……」
正面から、"ロックスター"に感情的に啖呵を切ってしまった。
ジョニーを見返すにはジョニー以上のライブをするしかない。でも、相手は世界トップクラス……今から何か出来るんだろうか?
♦︎
何も知らないかなとサヤは
「おつかれー! うちらどうやった?」
と気軽に声をかけてきた。
ひなは、少し不機嫌に事の内容をつたえると
「ジョニーそんな奴やったん? うちらはサポートするのがクセになってるから自由に出来るようにって言ってたんやけどなぁ」
サポートがクセ?
自由に? ジョニーはかな達にどんな指示をしたんだ?
「かな、ジョニーはどんな指示をしたの?」
「演奏での指示なんてあらへんよ、歌詞の意味を考えろって……後は好きに弾けって……俺たちはexpresser、表現者なんだって言ってた」
表現者? アーティストでも、エンターテイナーでも無く表現者……。
もしかしたらあの存在感には、そこにヒントがあるんじゃないか?
「西田さん、練習できる場所取れますか?」
「今かい? 前夜祭で出払っているから、取れなくは無いと思うけど」
スタジオに連絡してもらい、会場を出ようとすると、ノエルに呼び止められた。
「マヒル、ゴメンナサイ……」
そう言うと、ノエルは紙の切れ端を手渡した。
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