ラジオの収録を終え、俺たちは時子さんのオススメのお好み焼き屋さんに来ていた。
「ここのお好み焼きが美味しいのよぉ〜」
時子さんは上機嫌になっている。
だが俺は曲名を間違えて公共の電波に乗ってしまったことを悩んでいた。
「まひるちゃん? どうしたんだ? お好み焼きは嫌いだったかい?」
あまり箸の進まない俺を西田さんは気にかけてくれている様だった。
「お好み焼きは美味しいんですがラジオが……」
「初めてなんだからあんなもんだ。これから少しづつ慣れていけばいいよ。音源も流れて、いい感じに宣伝出来たじゃないか?」
「でも、曲名が間違えて放送されてしまって……」
西田さんは少し考えた様に、
「そうか……次にCDを作る時はそう言った事も考慮してジャケットを作ればいい」
でも……
「君はそんな事を気にして、このツアーを台無しにする気か? 題名はもちろん大切だけど、これから君たちを見てくれる人へ最高のパフォーマンスをする方が大事だと僕はおもうな」
すいません、ありがとうございます。
「ツアーはまだまだあるんだ、今回のツアーで沢山学んで、今後の活動に生かしていける様に考えなさい」
西田さんは優しく大切な事を伝えてくれた。
こうやって"サカナ"は成長し、今の地位を築いて来たんだろう。
「僕は、今回君たちの活動を見て良かったらうちのレーベルにスカウトする事も考えているよ?」
思いがけない一言だった。
インディーズレーベルとはいえ、"サカナ"を中心にいくつかのアーティストを抱えているシーサイドレコーズ。
流通などを考えると、かなりの優良な契約ができるだろう。
「まぁ、君たちがこのレーベルで出したいと思ってくれたらになるがね。 お互い意識してツアーを回ってみるのも楽しいじゃないか?」
「はい、ありがとうございます!」
お好み焼きを食べると、カナが"サカナ"のベースのアキさんとベースのトークで盛り上がっていた。
こういうのって大事だよな。ひなもクミさんとツアー中にうち溶けたらいいなと思った。
西田さんは夜の高速を走らせ、23時を過ぎたあたりで目的地の小倉についた。
「はーい! 今日のホテルについたよ! 2部屋とっているから着替えとか必要な物を下ろしてねー」
「あれ? 西田さんはどうするんですか?」
ひながふと気になった様で問いかけた。
「僕は、このハイエースで機材を守って寝るよ! 大事な機材を放ってはおけないし、女の子に車内泊させるわけには行かないからね!」
「えー、そんな。悪いですよ」
「君たちはその分、最高のライブをしてくれよ?」
「ちょっとぉ! わたしたち初めの方車内泊だったんだけど!」
時子さんが突っ込みを入れる。
「だってあの頃はレーベルも余裕がなかったんだよ。ハハハ」
小さなビジネスホテルだったがトリプルの部屋で中はとても綺麗だった。
小倉に泊まるのは福岡よりホテルが3割くらい安くなるかららしい。
あしたは9時半には出るから早く寝ないといけないな。
順番にお風呂に入るため順番を待った。
お風呂から上がったひなの下着姿が目に入る。太ももが紫色になっているのに気づいた。
「ひな、足どうしたの?」
「これね、スティックで太もも叩いてたら紫色になっちゃった」
「そう言えばクルマの中で練習してたね」
「うん、ツアー中全然練習できないから」
そうなんだよな、ライブツアー中は練習出来るタイミングがほとんどない。ライブの無い日にスタジオを取る予定にはなっているが、不安なんだろう。
時計の針が12時を回る。
風呂から上がるとひなとかながベッドに腰掛けていた。
「ねぇ、まーちゃん、くっついてる方のベッドで一緒に寝ない?」
「うちも、いいかな?」
2人ともどうしたの?
「ちょっと新しい環境に慣れなくて……」
「うちもなんだよね……」
「そっか、初日だしね!」
俺を挟む様に2人はすぐに眠りについた。
ふと、腕がからむ感触を感じ、見渡すと2人の可愛い寝顔が見え、2人とも抱きつく様に寝ていた。
そっか、2人とも結構不安だったんだな。
そうだよな、中学生で大人の世界。西田さんが凄く気にかけてくれていたのをおれはようやく気づく事ができた。
2人の頭をなでると、おれはこの2人を俺の都合に巻き込んでしまっている。だからこそ守っていかないといけない、そう強くこの日は思った。
◯用語補足
・レーベル
レコード会社のこと。レコードのラベルからレーベルと呼ばれるようになったみたい。
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