由美ちゃんに聞いたのだが、六花は、クラシックピアノを小さい時から10年以上していたらしい。
しかもコンテスト入賞クラス。
俺の記憶だと、音楽を幼少期からまともにやっている奴はチートクラスにすごい。
転生前の中学時代、死ぬほど練習して綺麗に弾けるようになったチョーキングやビブラートをバイオリン経験者が1週間しないうちに出来たのは苦い思い出だ。
六花もそのパターンでピアノはチートクラスだと思っていた。俺は曲を決めると耳コピを指示し、修正をかける形で進めようとした。
「まひるさん、楽譜があればその場で弾けるんですけど……」
次の日、そう言っていた六花に楽譜を用意すると、まさにチート、ピアノはかなり難しいはずなのだけど、初見でかなり正確に弾きこなした。
「六花すごいね!」
「橘さん、上手い!」
音楽室にあったアップライトが鳴る。
繊細なタッチに俺は鳥肌が立つ。
この曲は他の楽器はそんなに難しくは無い。
合わせる事、質を高める事に力を入れられると思う。
「六花、アレンジしてみようか!」
「アレンジ?」
「わたしのキーも合ってないし、みんな機材や音が微妙に違うから纏めて行こうと思うんだけど! 折角だから自分達の音にしよう!」
「……」
キーを変えるとその主音によって雰囲気は変わる。俺はそれを修正しようと考えたのだが……。
「表現なんかはどうすれば?」
「それをしやすいように考えてアレンジするんだよ!」
「した事ないです……」
「なるほど、六花はこれをやって行こう!」
俺たちみたいな中学からバンドで楽器を始めた組は、音楽がわからないところからスタートする。
だから、バンドで合わせる事を考え形になるようにアレンジをするのだ。だけど六花は幼少期、それも古典クラシックから音楽を始めているから楽譜の解釈的なアレンジスタイルのため、伸ばし方や強弱の微妙な部分は解釈しアレンジしているが、楽譜に書いてある部分はほぼ絶対なのだ。
まさか、そんな弱点があったなんて……という事はアドリブでのジャムはほぼ出来ないのか?
「わかりました。ピアノの友達でジャズピアノをする子はいたけど、わたしはクラシックだけやって来てたので……」
「なるほど……」
この歳での"すごい人"はそりゃ何かしらの弱点はあるだろうな。
普通の人なら、演奏力が高いだけでもすごいのだ、またそれを生かせばそっちの道だって充分にある。
部活で俺は早速壁にぶつかってしまった。
♦︎
高校生活の新鮮さに、俺はハマっていた。
だけど、本当の課題はこれからだった。
ヒロタカさんから、チーズアンドクラッカーレコーズのイベントの連絡が来た。
「もしもーし! まひるさん最近部活頑張ってるみたいっすね!」
「あー由美ちゃんから聞いたんですか?」
「そうそう、ギター教えてもらったっていってたっすよ!」
「あー、なるほど! それで……今度のイベントの話ですよね?」
「それなんですけど、"ハンパテ★"の告知を入れてからチケットが完売したんすよ!」
「本当に? なんでだろう?」
「多分、気づかないうちにかなり知名度上がってる可能性あるっすね」
「ひなも、そういえばコメントが毎日来るようになったって言ってましたね」
「まひるさん、もし今メジャーからオファーが来たらどうします?」
もし、メジャーからオファーが来たら?
「勿論受ける気だけど……」
「今の状況で西田さんたちに伝えられるんすか?」
「……」
俺はその言葉に黙ってしまう。
「CDの売り上げはそれなりにあるっすけど、"ハンパテ★"は西田さんにかなり負荷をかけてる気がするんすけど……」
ヒロタカさんの言葉は胸にずっしりと響いた。まだまだメジャーは遠い気がしていたのだが、気づけば、オファーがいつ来てもおかしくは無い状況なのかも知れないと思ってしまった。
「まぁ、そのあたりメンバーで、話し合っておいた方がいいっすよ?」
「ヒロタカさん……ありがと」
「まぁ、学校で妹を宜しくっす!」
そういえば、顧問の先生も機会があればメジャーに行ける的な事を言っていたな。
ヒロタカさんは既に、メジャーに行くならどうするか? また、自分のバンドにしてくれた事や今後どうして行くのかを視野にいれ動いている。
この時期、同じ地位に居るバンドが既にそこまで考えていたことに、正直俺は衝撃を隠せなかった。
このまま部活に打ち込んでいていいのだろうか?
色々考えた末、俺は、ひなとかなに俺の考えを話してみる事にした。
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