俺の音楽ここにあります

ギタリストのTS転生ストーリー
竹野こきのこ
竹野こきのこ

それぞれの道

公開日時: 2021年2月26日(金) 09:59
文字数:1,827

俺は山野さんに言われ、ラジオを聞いている。今後出る予定の"ファングアウト"という番組で、10分程度話さなくてはならないからだ。


 広島でのラジオは散々だったからなぁ。

 必要な内容だけでもスラッと話せるようにしておかないと……


 "続いてのバンドは、チーズ&クラッカーレコーズの久々の新人、"スターリン&バックドロップ"の皆さんです!"


 まじで? 雅人達出てるじゃん。

 ヒロタカさんふつうに話している、雅人はほとんど話していないが、充分だろう。


 曲がかかると、俺はワクワクが止まらない。

 ライブではやらなかった曲だったが、今までに無いけどどこか懐かしいまさに進化した"スターリン"サウンド。


 "この曲を通じてリスナーの皆さんと繋がれる事を楽しみにしています!"


 ヒロタカさんは最後にこう言って締めくくった。多分知らないアーティストならテンプレのセリフだと思うかも知れない。


 でも、あの人は本当に音楽を通じて色々な人と出会い駆け上がって来たんだ。



 ♦︎



 次の日雅人は至っていつも通りだった。


「雅人、昨日ラジオ聞いたよ?」

「やっぱ最初に気づいてくれるのはまひるか……3回くらいかかってるのに学校の奴等は意外と誰も気づかないもんなんだな」


 数回かかったくらいじゃ特に誰も気づかない。リスナーが何万人も居ると言われて居ても気づいてメッセージをくれるのはファンくらいだろう。


 音楽が詳しい方の俺がマイナーだと思っているアーティストでも100じゃ効かないくらいかかって居る。


「雅人、これからだよ」

「そうだな、今日CDがお店に並ぶんだ。本当は早退しようかとも思っているんだけど」


「あの曲は有名になるよ、そう思う」

「ありがとう……ここがスタートラインなんだよな……」


 雅人はいい聞かせる様に言った。まだあんまり実感が湧いていないんだろう。


「あのさ……まひるも来月出すんだろ?」

「うん、だすよ!」


「大変だろうけど頑張れよ!」

「うん、雅人もね!」


 俺たちの周りの環境がどんどん変化して行く、雅人達はインディーズでデビューし、時子さん達の"サカナ"はメジャーデビュー。


 俺たちも、来月にはインディーズバンドとして世の中に挑戦して行く事になる。


 ただ、この時俺は本物の化け物が身近にいる事を忘れていた。



 ♦︎



 ブーン、ブーン


「もしもしまーちゃん?」

「どうしたの?」


 夕食の後、かなから電話が来た。

 大体のやり取りはLINEでしているから電話が来るのは珍しかった。


「今テレビ見れる? "ニュース20"って言う番組見て見てくれへん?」

「うん、ちょっとテレビつけるね!」


 俺はテレビをつけた。

「普通に芸能人のニュースだけどどうかしたの?」

「次くらいかなぁ?」


 ・

 ・

 ・


 "日本広告賞、過去最年少受賞"

 一つの店のポスターから全体に広がり商店街の活性化に貢献!


 TAKIOこと横山多喜男(17)さんが日本広告賞の大賞を受賞されました。


 ・

 ・

 ・


 俺は息を飲んで、声が出なかった。


「これ、タキオさんやんな?」

「うん、名刺"TAKIO"だし、歳も合ってる」

「やっぱり? うち等より先にブレイクしてまうんちゃう?」

「いや、もうしてると思う……」

 

 これからタキオは依頼が殺到するだろう。

 この賞は一番社会に影響を与えた広告に送られる。お店の人に焦点を当てた、商店街活性化のデザインは、その後の広告に影響を与えたんだとか……


「わたし達もがんばろう!」

「せやね、もっとアッといわせたろな!」


 かなとの電話を切った後、俺はタキオにかけた。


「もしもし? タキオさん?」

「あぁ、まひるさん?」


「広告賞おめでとうございます」

「それなんですけど、ちょっと複雑な気分なんですよね……」


「どうしてです?」

「その賞の金賞も自分なんです。 大賞とれると思ってたので当時大分落ち込みました」


「そうだったんですね……」

「でも、その時よりはるかに低予算で取れるなんて……デザインはアイデアですよね。でもこんな事いうと世の中はデザインしにくくなる」


 経験的に苦い思い出でもあるのだろう。

 タキオは少し黙ってから話した。


「だから言ってやりましたよ。デザインはニーズとのマッチングだって! 適切な媒体に適切なデザインをするのが大切。 商店街の人達は自由にデザインさせてくれたので自分の力を発揮できましたって!」


 そう言ってタキオは涙声になっていくと電話を切った。


 タキオがなんで泣いたのかはよく分からなかったけど……もしかしたら後悔とかあったのかもしれないな……。


 こうして俺たちのインディーズデビューは刻一刻と近づいていた。

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