電話でのヒロタカさんの声は困っている様だった。
「ヒロタカさん、どうしたんですか?」
「ドリッパーズギターのジュンさんがバイクで事故ってしまって」
「えっ? 死んじゃったんですか?」
「いえ、生きてはいるんですが全治2カ月の怪我で……」
「出演キャンセルって感じですか……」
「怪我は足らしいので当日は這ってでも出てくれるみたいなんですけど、週末のイベントに出たいからギターサポートしてくれないか?って」
「あー、ヒロタカさんなら出来そうですよね!」
「……3日でドリッパーズの曲12曲は無理って言って……」
「あんたまさか……」
「すいませんっ! こうするしかなかったんです!」
♦
こうして次の日。
「すいません、急で申し訳ないっす」
放課後ヒロタカさんと待ち合わせし、ドリッパーズの人が迎えに来てくれた。
「こんにちは! ドリッパーズのドラムのタカです! えっと君がまひるさん?」
俺は挨拶し、コクリと頷く。
するとタカさんはヒロタカさんに言った。
「なぁ、ドリッパーズ的には可愛いよりギターが凄い方がいいんだけど?」
「可愛いくてギターが凄いっす!」
「あ、いや、わたし辞めてもいいですけど……」
「「それは困る!(っす)」」
「とりあえずうちのスタジオに来てくれるかな? 」
そう言って俺たちは黒いハイエースに乗り込んだ。多分、知らない人から見たら金髪のチンピラに誘拐されてる様に見えるだろうな。
クルマの中でドリッパーズの曲が流れた。
すべてのパートの速さとテクニックの上にキャッチーなメロディ、これはヒロタカさんが断るのもわかる……。
「すいません、ジュンさんのギターって借りれますか?」
「大丈夫だけど? どうして?」
「わたし、マスタングギターしか持ってないので、ドリッパーズになかなか音が合いにくいかなって」
「あー、スタジオにエクスプローラがあるから使ってみてよ!」
10分ぐらいすると貸し倉庫の様なスタジオに着いた。
「こんにちはー!」
「おひさしぶりっす!」
「おーヒロタカも来たのか! この子がサポート候補?? かわいいね! まぁ一応ヒロタカも入ってみてよ!」
ベースボーカルのナカノさんが迎えてくれた。
「俺、何曲かは耳コピしてるんで、俺から入りますね! まひるさん曲聴いてコピーしてください!」
ヒロタカさんはギターを持つと曲を始めた。
あっ、ドラムとベース、凄くいい感じだ。
これはなかなかいいバンドなんじゃないかな?
「ちょっと合わせが甘いな、」
「タカ、それは仕方ないよいきなり合わすのはジュンでもキツイって!」
「なんか、申し訳無いっす」
「でも、俺はヒロタカでいいと思うな。ちょっとぐらい上手くてもバンドの雰囲気にアイドルが入るのはちょっとな」
タカさんはやっぱり気に入らない様子。
ちょっと、なんか俺凄い言われようじゃないか?初めてこのルックスで損した気になった。
まぁ、いいだろう。 ギタリストは喧嘩売るなら音で売らないとな!
「まひるさん、なんか申し訳ないっす……大好き」
大好き? 最後なんかしなっと言わなかったか?俺はいつもより少し大きなエクスプローラを下げ、メサブギーのアンプに手をかけた。
ゲインを上げる……
くぅー!この重い音が懐かしい!
少し試し弾きした瞬間、タカさんとナカノさんが反応した。
そう、SAM41のStill Waiting、この辺が好きなら勿論反応するだろう。
重いベース、キレのあるドラム。
ワンコーラス弾いた後にドリッパーズの曲に変える。
イントロのリフのミュート部分、タカさんに目をやると目があった。
一瞬にして無音のゴーストノートがうまれた。
Aメロのカッティングリフ、俺ならここでハーモニクス、アクセントもバッチリだ。
もうテンションが上がりすぎてパフォーマンスになる、してギターソロ、スイープを入れている様だが俺に言わせればここは下るだけじゃなく上がりもスイープを入れてつなげないと!
ヒロタカさんの前でソロをかき鳴らし。
最後のアウトロで俺はジャンプしてキマった。
「凄い、ほとんど一回聴いただけなのに、ここまでできるなんて、まじヤバいっす」
「まひるさん、ごめん。正直見た目で舐めてたわ。 もうそのギター貰ってくれ」
タカさんが申し訳なさそうに言った。
「えっ? エクスプローラー?いいんですか?」
「いや、ダメだろジュンのだし。」
ナカノさんはすかさず突っ込んだ。
「音めっちゃいいんだけどさ」
「ん?」 ナカノさんまだ何かあるのか?
「さっきから後ろ、ずっとパンツ見えてるよ?」
「ナカノさん、言っちゃだめっすよ〜」
俺は照れながらスカートを直すと、無言でヒロタカを蹴った。
その後、何曲か合わせ、当日のセットリストを貰った。後は直前に一度合わせて本番だ。
こうして俺は、週末ドリッパーズのサポートギターをする事になった
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