後日田中さんからイベントの詳細がメールで送られてきた。
その情報を見て俺は叫びそうになった。
会場:エメラルドホール
出演
マッドウィンプス
サカナ
……
オープニングアクト
|H.B.P《ハンバーガーパーティ》
はぁ?あのおっさん何考えてんの?
メジャーが出るとは言っていたけど、トップクラスじゃねーか。マジで潰れたらそれまでって事か?
普通にギターだけでもやばい。テクニックや精度なんかは勝てても表現力やカリスマ性で勝てる相手じゃない。
雅人が居てもかなり厳しいだろう。
マジかよ。
しかもエメラルドホールってキャパ3000人の箱だしかなり広い、埋まっていたとしたらかなりのインパクトだろう。
ひなのメンタルが持つかな、いやかなちゃんですら危うい。なんせあの子らはライブ経験が圧倒的にすくない。
ひなが入ってから週3で個人練習の安いスタジオで今日も練習する事にはなっているが、ライブまでに見せたいステージにできるのだろうか?
楽器を取りに帰り、スタジオに着くとひなはそわそわしていた。多分田中さんのメールを見たのだろう。
「まーちゃん、見た? マッドが出るなんてきいてないよ……」
「うん、見た。あれはヤバいよね」
「あたし、何を練習すればいいかな? このままで大丈夫なのかな?」
「そうだね、でも、地道にするしか無いかも」
「だよね……そうそう、こないだのキック練習したんだよ?」
「どう? 出来るようになった? 一回見せてもらっていい?」
ひなはドラムブースに入り叩き始めた。
ん? 前よりだいぶ踏める様になってる、というかひなはキックがかなり上手い。
「ひな? 何か足を使う事とかしてた?」
「うーん、エレクトーンなら8年位はしてたって、まーちゃん知ってるでしょ!?」
エレクトーンか、道理で足回りがスムーズに出来るわけだ。もしかしたら足だけなら雅人よりも上手くなるかもな。
俺はキックの技と入れ方なんかをひなに教えると案の定ひなはどんどん踏める様になっていった。
ん!? これは……。
だが、俺はいけない事に気づく。
制服でキックを踏むひなを座って見てると……そう、時々スカートが広がってパンツが見えるのだ。
立つものが無いのが唯一の救いだろうか。
だが、ドキドキしていた。
「まーちゃん? どう?」
「あ、うん、ひなキック上手くなってる!」
あたふたしてる俺をひなはあまり気にしていない様で良かった。
「本当? 良かった、ちょっと曲でギターと合わせて見たい!」
もうちょっと見ていたかったが、邪心を理由に離れた雅人に合わせる顔が無い。それからは止める部分や、アクセントなど意識してほしい所を説明しながら曲をなぞり集中した。
このキックを生かしたアレンジにしていくのもアリだな。と、俺は密かに考えていた。
「練習もっとしときたいよね」
「そだね、あ! 雅人に相談してみたらどうかな? 雅人の家、音楽関係だし!」
そうか、何かいいところを紹介してくれるかも!
♦︎
次の日早速3人で雅人に聞いてみた。
「お前ら次のイベントヤバそうだな……。練習したいよな……いいよ? うちの親の店借りれないか聞いてやるよ!」
雅人の家はライブスペースのあるバーだった。なるほど、お店やって無い時借りれるかもしれないな。
雅人はすぐに連絡してくれ、お昼間と定休日も夜なら使っていいとの事だった。
冬休みを使い、みっちりと借りる事にした。長時間借りるので、当初予定していたスタジオ代を気持ちだけ払う事にした。
そして冬休みの練習初日、定休日を利用した1泊合宿が始まると、俺は女子達との文化の違いを思い知る事になった。
「おはよう!今日から合宿だね!」
「おまたせ、おっみんなえぇ感じやん! てゆーかまーちゃん荷物少なない?」
なんで2人とも、1泊なのにキャリーケース?
今回の合宿、仮眠程度でほとんど寝ないよ?
俺は替えのTシャツ2枚短パン1枚とタオルくらいしかお泊りセットは持って来てなかった。言っても冬だしそんなに汗もかかないと思ってたからだ。
お店に着くと|雅人のお父さん《おじさん》がセッティングして待っていてくれた。
「雅人から聞いたよ、有名なバンドとライブに出るみたいじゃないか! おじさんも演奏見てみたいから、どこかで見に来るけどいいかな?」
「もちろん! ぜひ!」
♦
そして、朝10時練習がスタートした。
今回の練習ではなるべくひなに生のドラムに慣れてもらいたい。
ひなはドラム、俺とかなはステージの流れの練習をする事にした。
曲はみんな頭に入っているみたいだから、後は詰めだ。俺はひたすら細かくポイントを指摘し意識をしてもらうようにした。
気がつくと夕方になり、流石にご飯を食べないとみんな死んでしまうとの話になったので
ご飯と銭湯にいくことになった。
「ねぇ! 近所にお洒落なパスタ屋さんがあるんだけどいかない?」
ひなが嬉しそうに言った。
「パスタいいやん!行きたい!後、一回お風呂はいりたいわ〜」
「パスタ。うん」
一言言わせて頂くと、お昼を食べてない夕飯にパスタは違うと思う。ご飯を掻き込みたい、でもお洒落でカジュアルなイタ飯屋になってしまった。
「可愛い! この店お洒落なのに安い!」
俺は心の中で牛丼とカツ丼をつぶやいていた。
パスタをたべながら練習の振り返りの話になる。すごくいい雰囲気だ。
「まーちゃん、演奏結構まとまってきたよね!」
「うん、そだね!このまま合宿と昼練習を乗り越えたらかなり上手くなってるかも!」
「よかったぁ、どうにかなりそうで。 あたしもバンドに参加出来て嬉しいよ!」
ひなの一言が俺にはすごく重く感じた。
本当はずっと一緒にしたかったんだろうな。
「わたしもひなが入ってくれてよかったと思うよ!」
そしてご飯を終え3人で銭湯に……。
そう、3人で銭湯に……。
もう一度言う、3人で銭湯に行く!
ん?銭湯って事はまさかの女湯!
へんなところで俺の長年の夢が叶ってしまう。さらにひなとかなの裸を見れてしまう事になる。
脱衣所でキョロキョロ。
明らかに不審者になる、ととりあえずタオルはどこを隠そうか……ひなとかなを真似しよう。
実際の俺と同年代くらいの人はほとんど隠さないのな。
身体を洗う頃にはひなもかなもほとんど隠さなくなっていた。
いやこれはおじさんには刺激が強すぎます。
「なぁ3人で洗いっこしよや?」
かながとんでもない事を提案しだした。
相談の結果かながひなを、俺がかなを、そしてひなが俺を洗うという事に。
洗い方を見ておこうって素手かよ。
かなの洗い方が危なくてもやもやした。
次にひなが洗ってくれる、えーっとひなは、かなを参考にしてるのか?
なんだこれほぼソープじゃねーか。
その辺りから、そうそう、って オー! ノースティック! ねぇじゃねーか!
と思った瞬間、電気が走る。
「ちょちょちょっと待ってひな、そこもひなが洗うの?」
「えっ? だってかなが……」
「いやいや、そこは大丈夫!というかダメ!」
「だ、だよね? ごめんまーちゃん」
ひなは顔を真っ赤にした。
「なんやまーちゃんうちらの仲やろ?」
かなはあっけらかんと笑う。
俺はかなにはひなにへんなことした罰として一番痛そうなアカスリでゴシゴシ洗っておいた。
「痛っ! まーちゃん酷い、酷いわー」
とかなは涙目になっていた。
風呂から上がると、脱いだパンツを履こうとしてた俺をみて言った。
「まーちゃん、替えのパンツ持ってきてないの?」
「うん、徹夜でそのまま帰る気でいたから」
「そっか、これあげるから使って!」
「えっ?」
「あ、もちろん新しいやつだよ」
ひなは少し照れて言った。
あ、うん。ありがと!
新しく無くていいと思ったのは内緒。
そして、俺の夢の時間は終わった。
♦︎
「そういえばさ、ライブ、マッドがでてくるんやんね?」
かなが不意に言った。
そう、マッドは映画のタイアップなんかでも有名な若者に人気のバンドだ。
「そうそう、あたしもびっくりしたよ。実はライブ動画とかみてたことあるんだよね」
「そうなの?」
ひなはマッドが好きだったのか。
色んなジャンルを取り入れた独特のコード感。
インディーズのときから有名なマッドは、俺も何度も聞いた事がある。
「田中さんがファンとしてじゃなくライバルとしてって言っていた意味がわかったよ」
そうだな、少なくとも俺たちは同じ土俵には立たないといけない。
「ねぇ、3人で曲を作ってみない?」
俺は不意に言った。
「えっ? 新曲づくり? そんな事できるの?」
「いいやん! やりたい! うちら3人の曲になるやん!」
せっかく時間はあるんだ。この一曲を作る事で3人はもっと纏まるかもしれない。
お店に戻ると俺は何も言わず"マスたん"を手にとった。
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