かなのおばあちゃんが倒れた。
こんな時俺はどうするべきなのだろうか?
明後日には三重のライブがある。代役を立てるべきなのか、このまま2人でするべきなのだろうか?
かなの居ない"ハンパテ★"は正直考えられないな……。
色々考えた結果、俺はナカノさんに相談してみる事にする。ナカノさんはほぼメインとも言えるジュンさんが事故の時何を考え、サポートを頼んだのだろう?
そう考えて、俺は電話をかけ事情を話した。
「なるほどなぁ、まぁバンドでしてるんだしそういう事もあるだろうな」
「わたしはかなにどう言えばいいかわからなくて……」
「俺にサポートしてくれって話なら受けるけど、そこはお前らがらどうしたいかだよな……」
「そうですよね」
「悩んでいるなら本人聞くのが一番じゃないか? 反応みて来るなと説き伏せてもいい訳だし。俺はお前らはそれ位は言える仲にみえたけど?」
「そうですね、かなに聞いてみます!」
「とりあえず代打出来るように練習はしとくわ、お前ら合わせが細かすぎてクソ難しいからな」
代打となってもナカノさんなら大丈夫だろう。だけど、ナカノさんが言うように、かなに相談は絶対だと思う。
勇気を出してかなに電話してみる事にした。
プルルルル、プルルルル
「かな? そっちは大丈夫?」
「ごめん、まーちゃん。とりあえずは意識も戻って落ち着いたみたいなんやけど……」
「うん……側にいたいんだよね?」
「でもライブが……」
「どうにかするから、かなはおばあちゃんの側にいなよ? でも、"ハンパテ★"のベースはかなじゃないとダメだと思っているから」
「うん、ありがとう……」
そう言った瞬間、電話の後ろから声が聞こえた。
「かなちゃん、なにをゆうとんのや? ばぁちゃんは元気やさかいはよ行きなさい」
「ばぁちゃん、あかんよ全然動かれへんやん!」
「ばぁちゃんはかなちゃんにやりたい事やって欲しいんや。それでお金もらうんやろ? かなにしかできひんのやろ?」
「うん……そやけど……」
「女が一度きめたら、死に目に会われへん気持ちでやらんかい! 折角必要とされてんねんから早よ行き!」
かなのばぁちゃんは怒鳴る様に言った。
いやいや、あのばぁちゃんなのはわかってだけど……怖すぎるだろ。
ドアを閉める音に続いてかなの声が聞こえた。
かなは泣きながら、ライブに間に合う様に行くから……と言った。
俺はナカノさんに事情を説明し、念のため出れる様にしてくれる事になった。
♦︎
ライブ前日の晩、俺の部屋をノックする音が聞こえ、ドアを開けるとパパだった。
「まひる、かなちゃんのお父さんがまひると話したいらしいのだけど、今いけるか?」
かなのお父さん? なんだろ?
「もしもし、まひるです……」
「こんにちは、久しぶりやなぁ」
「お久しぶりです」
「まぁ、加奈子の件なんやけどな、まぁ正直おふくろはあんまり良くはないんや」
「そうなんですね……そしたらかなは?」
「ただ、おふくろも頑固やさかい、意地でも行かせる気みたいなんや」
「あー、やり取り少し聞きましたけど…凄かったです」
「せやろ? それで、同じ年のまひるちゃんに頼むのもあれなんやけど……」
「帰して欲しいって事ですか?」
「いや、加奈子を支えてあげて欲しいんや、ほんまはごっつう辛いおもうねん……」
「それは良いんですけど……大丈夫なんですか?」
「まぁ、このままケンカさせてもあれなからな。まぁ加奈子はああ見えて結構寂しがりやから申し訳ないんやけど……」
俺は意外だった。かなの家は勝手に放任主義なイメージだったのだけど、かなのお父さんはしっかりかなの事を考えている。
いざというときは、帰そう。そう心に決めた。そのあと西田さんに連絡し、三重ではかなと現地で合流する形に決まったことを伝えた。
♦︎
次の日三重に着いた俺たちは、リハーサルの直前にかなと合流した。 いつもの元気は無くどこか気持ちが向いていない。
今回は前回とは訳が違うのはわかっている。
けど……かな、おばあちゃんが送ったのはそんな感じで出るためじゃないだろ?
でも……。
俺はかなに声をかけた。
「かな? ちょっといい?」
「うん……」
人通りのないライブハウスの裏に連れ出し、俺はかなを抱きしめた。
「えっ? まーちゃん? な、なんや?」
「かな、ごめん。わたしのしたい事に巻きこんじゃったせいで……」
「まーちゃんは悪くないで、今回も色々してくれてるし……でも……」
かなは少し黙り泣き出した。
「大事なばぁちゃんが大変な時も、うちは笑顔にならなあかんのかな?」
「無理はしなくていいよ?」
「ちゃうねん、笑顔でライブして楽しませなうちが来た意味ないねん……」
かなはわかっていた。
"サカナ"とのツアーの頃ならこんな言葉は出なかっただろう。
すると、誰かの手がかなを撫でた。
ひなも跡を付けてきていた。
「かな、辛い時はあたしらを頼っていいんだよ? まーちゃんもきっとどうにかする様に考えてくれていたと思う……」
「うん……」
「かなが無理ならあたしらがどうにかする。おばあちゃんの気持ちに答えるなら頑張ろう?」
そう言うと、ひなはかなにキスをした。
「あたしはかなが大好きだし、大事」
ひな……。
かなは涙を拭くと
「大丈夫、ライブは全力でやるから」
そう言って、ひなを撫でた。
そして、ライブが始まると、ライブでのかなは、悩んでいる事を微塵も感じさせなかった。
そのまま幕を閉じ、俺たちはステージを降りた。
「なんだよ? 全然大丈夫そうだが」
「ナカノさん!」
「かなちゃん、頑張ったね」
「ナカノさん、最悪出てくれる気やったん?」
「そこの小悪魔がうっせーからな」
「迷惑かけてごめんなさい」
「おっ?意外と、素直ないい子だな。かなちゃん俺と結婚する?」
「残念! うちはリクソンさん一筋やから!」
「エメラルドホールの? あの人同棲してるで?」
「えっ?」
おい! ナカノ! ここでとどめを刺すのはマジでやめてくれ。
「かな?」
「うちもう、立ち直られへんかもしやん」
「かな? 多分大殺界とかそういうのだよ!」
ひな、なんのフォローにもなってないぞ。
かなはこれからのツアーの為に名古屋に帰る事になり、とりあえず俺の家に泊まる事になった。
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