俺の音楽ここにあります

ギタリストのTS転生ストーリー
竹野こきのこ
竹野こきのこ

自主企画イベント③

公開日時: 2021年2月9日(火) 00:00
文字数:1,985

 会場が少しざわついた。


「あの子ってさっきのバンドの……」

「"サカナ"の前座のギター凄い子だよ!」

「前にジュンの代わりに出てた……」


 えっと、もしかして気づかれてなかった?


「この子、"ハンパテ★"のギターのまひるちゃんでっす!」


 反応が歓声に変わる。


「前回、俺が入院した際サポートしてくれてたんですけど、今日はそのコラボの曲をやる……前に、打ち合わせなしのギター対決をしたいと思います!」


 は?  マジで?

 ジュンさんは俺にウインクした。


(本当にやるんですか?)

(何?  まひるちゃん俺に勝てる気でいるのかい?)


 いやいや、確かにジュンさんは上手いけど、得意なのはカッティングや早弾き、負けない自信はある。


 サヤみたいに理屈抜き系なら怪しいけど。


 ドロップBだからか?

 残念ながらドロップや7弦は俺の得意なところのど真ん中なんだけどな……。


「それじゃ俺から!  弾いた曲を弾いてくれ!」


 そういうとジュンさんはギターを弾き始めた。


 クレイジートレインのイントロか、最初だからか?


 俺にオジーオズボーンとか……俺はあっさり弾き返す。


 俺は何を弾こうかな……最初は簡単に、客層的にはハイスタとかの方がウケが良さそうだな。


 意外と綺麗に弾きづらいステイゴールドだ。

 そりゃ当たり前に弾いてくるか……


 次はブラフマンのDeepのソロ……いや、中学生に合わせる気ないだろ……


 だが、悪いな……ジャスト世代だ。

 難なく弾きこなすと、ジュンさんは苦笑い。


 そう来るならちょっと嫌がらせしてやる。

 ドラゴンフォース、クライサンダー。


 ちょっと無理矢理だけどこれでどうだ?


 予想通り、細かい音が取れてないな……。

 だけどこれ、勝っちゃっていいのか??


 次は、ストラトヴァリウス……勝負にきた?

 この辺弾いた事ないけど……ちょっとアレンジするか……。


 ジュンさんは急に笑いだした。

「あはは、やっぱヤベーな!  負けた!俺、この子にこのギターあげます!」


 ん?   このギターをあげた流れを演出に使った?

 もしかしてこれをするためにギター勝負を持ちかけてきたのか?


「常連の人は知ってると思うけど、このキラー、以前俺が使ってたやつ!」


 会場がざわついた。


「そしたら次はそんな"ハンパテ★"のギターとのコラボ曲、聞いてください!」



 は、初めから分かってたのか……?



「ジュンより上手いとかマジかよ」

「あの子何者なんだ?」



 コラボの曲はジュンさんはギターを置き盛り上げ役?  になり観客を煽った。



 "ドリッパーズ"はエンターテイナーだ。

 使えるモノ、お客さんが楽しめる事を常に考えて最善を尽くす。


 その姿勢に感服した。

 こんなライブ、絶対次も来たくなる……。

 これでもメジャーには行けてないのか?



 ♦︎




 ドリッパーズのライブが終わり、次は"サカナ"この後はやりずら……


 時子さん達は堂々とした感じで、全く気にしている様子はなかった。


 その雰囲気は、ステージの空気を一気にかえる……経験値が違いすぎる。


 自分達の音が1番伝わる形でパフォーマンスする……やってきた最善の形は違うけど、"サカナ"もまた、最善を尽くしてきたスタイル。


 まるで、1つの物語の場面が変わっただけのように、"サカナ"のパフォーマンスは会場を飲み込む。


 俺は今まで何を見て、何をやってきたんだろう?  8回も前座したバンドは、ずっとこうだったじゃないか!


 行動し始めた、かなの方がしっかり見れているじゃないか……。



 ♦︎



「まひるちゃん、二つの先輩バンドに感化されているようだね!」


「西田さん……やっぱりインディーズの人気バンドは凄いですね……」

「そうか……でも、上ばかり見てると痛い目にあうよ?」


「それは、どういう事ですか?」 

「まぁ、頑張ってって事だよ!」


 最後の"スターリン"が始まると、西田さんの言葉の意味を理解した。


 雅人がはいり、音の纏まりが出来たのは知っている……だけど、演奏じゃない。


 曲のラインナップがほとんど変わり、雅人が入った"スターリン"の仕様がヒロタカさんの作るキャッチーなメロディと声にマッチしている。


 曲がめちゃめちゃいい……。

 すんなりと入って来るのはアレンジがまとまったから?


 この面子のトリでも全然浮かないどころかメロディックパンクバンドでジャンルが違うだけで独自の完成形に近づいていた。


 俺たちと、どこで差がついた?  

 まだまだ、俺に怠慢があるのか?

 俺は、行動を振り返る。でも、わからない。

 ただ、言える事は、最初に感じた当時高校生最強のバンドは、試行錯誤を繰り返し、自分達の力であそこまでのし上がっていたという事。


 そんな、絶賛成長中のバンドを、どこかで完成形としてタカをくくっていたのだ。


 インディーズデビューが決まり、新たなステージを意識し出した俺はどこかで、"スターリン"を格下として見ていたのかも知れない。



 最後の曲になったMCで、ヒロタカさんが言った。



「6月に"スターリン&バックドロップ"に改名して、インディーズデビューします!」

◯用語補足


・オジーオズボーン 

ブラックザバスのボーカル、独特の歌い方やその音楽性は影響を受けたバンドは数知れず……


・ブラフマン

日本のメロディックハードコアバンド。

民族音楽と融合させ、独自のスタイルを突き進む過去に海外でライブした際、ブーイングの中堂々と演奏し静まりかえらせた逸話があります。


・ドラゴンフォース

イングランドのスピードメタルバンド。

初めて聞く人はその速さに衝撃を受ける事間違いなし!


・ストラトヴァリウス

北欧メタルの代表的なバンド。

ライブは中音を切ってイヤホンなど、ステージの音がすごく綺麗なバンド。


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