バンド名を見てなのか、ヒロタカさんはすこしょんぼりしている。
(ブツブツ……)
「ヒロタカさん、どうしたんですか?」
「いや、妹のヒーローでいたかったっす……」
「あぁ、バンド名やろ?」
「そうっすよ! ヒトラーとかポルポトとか入れて欲しかったっす。どう考えても"ハンパテ★"大好きじゃないっすか!」
「独裁者縛りは結構危ないバンド名になるじゃん……まぁ、スターリンはそうだけど、ミュージックマンやバンドリスペクトとも取れるし……」
「うーん、多分由美は某ネズミーランドが好きやからちゃうかな?」
そうなのか? そんなキャラがいたのか。
てっきりレディオヘッドかゼブラヘッドからのハンパテ系かと思っていた。
「そうなんすか?」
「せやで! 由美のケースについてるやん!」
そういえば、なぞのおじさんキーホルダーがギターケースについているのを思い出した。
「やあやあ、久しぶりだねぇ」
後ろから急に声がして、振り返ると田中さんだった。
「お久しぶりです!」
「ハンパテ★もスターリンもインディーズになってから出てくれないから寂しかったよ」
「すいません……」
「申し訳ないっす……」
「まぁ、このハコじゃ、もうワンマンくらいしか出来ないかな? またイベントで声かけさせてもらうよ!」
「お願いします!」
「ところで、"ポテトヘッド"が知り合いなのかな? 初ライブらしいけどいいね!」
「わたし達と部活が一緒なんです!」
「俺の妹っす!」
「なるほど、どうりでギターが見たことある感じな訳だ」
ヒロタカさんは心配そうに聞いた。
「"ポテトヘッド"どうですか?」
「あはは、スターリンが出始めた時より凄いよ!」
「それ、なんか複雑っす」
「まぁ、見てみるといい。ピアノやギター、歌も上手い。ベース、ドラムもしっかりリズムを支えているよ!」
まだ結成2カ月は経っていないはずだけど、田中さん的にはかなり完成させているようだった。
「おかげで今回も順番間違えたかもね……」
案の定、"ポテトヘッド"はトップバッターだった。
スタートの時間になるとライトが消えた。
六花はキーボードを使い、ピアノの演奏が始まった。
六花、オリジナル? どこかクラシックの匂いがする旋律が心地よく、全ての楽器が合わさるとロックに変わる。
歌が始まると俺は危機感を覚えた。
(部長、上手い……)
歌唱力は知っていたが、歌い方は海外のアーティストを思わせる発音の良さ。
あの人何者なんだ……。
「流石は進学校っすね……」
ヒロタカさんも驚いた様子だった。
テクニックは由美と六花がカバーし、部長はリズムギターに徹する、まさにいいとこ取りで完成されている。
まだまだ、ステージ慣れしていない部分はあったが、可能性を感じるには充分だった。
ライブが終わると、由美たちに会いに行く。
「ライブ良かったよー」
「本当でっすか? 良かったー、由美たち結構頑張ったんでっすよー」
六花も恥ずかしそうに頷くと少し笑った。
今までは上ばかり見ていたけれど、久しぶりに追いかけられる恐怖感が込み上げてくる。
俺たちもどんどん進まないと……。
♦︎
数日後、"ポテトヘッド"の余韻を残したまま、かなと山野さんと鈴木ササミさんの事務所に向かう。
山野さんは、一言
「まぁ、ダメ元だから……」
と、念を押した。
事務所につき、会議室に案内されると、ササミさんが現れた。
「よろしくお願いします」
30代後半のお洒落な男性。
梓さんの先輩だったのだろうか?
「タキオさんが手掛けていたバンドの方ですよね?」
ササミさんはそういうと、少し難しい顔をした。
「はい」
「なぜ、うちに声を掛けられたんですか?」
鋭い質問に俺は口をつぐんだ。
梓さんの名前を出すべきか? タキオとは直接はなんの関係も無い。
「正直、費用感として難しいと思います。ですが、一つ伺ってもいいでしょうか?」
「はい、」
「私の前職の後輩とタキオさんは何か関係があったのでしょうか?」
えっ? なんで?
タキオのデザインで何か気になっていたのか?
「それは何故ですか?」
「正直、天才と思っていた後輩と発想やスタイルが凄く似ているんです。 違うなら気になさらないでください……」
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