俺たちは部活の無い時はスタジオで練習している。軽音部はなんだかんだで文化部、基本的には週3回だけだった。
「かな達のグループはどう?」
俺は、初めて別のバンドでセッション以外でやるかな達が気になっていた。
「うちらはスカをやる予定だよ! 先生が音楽凄く詳しくて、スカとレゲエの繋がりなんかも色々教えてくれるんや」
先生、俺等の所には殆ど来ないのに……ひなやかなには色々教えているんだな。
「そうそう、部長さんトロンボーンも吹けるらしくって部長はそっちではいるかもなんだー」
部長はギターは高校からなのか??
音楽のバックグラウンドの知識なんかは、先生や部長に教えて貰えるのはいいな。
どうしても、バンドでやる事の派生しか伝えられないから別の形で学んでくれるのはとても助かる。
「まーちゃんの方はどうなんや?」
「ピアノロックなんだけど……」
「あー、六花やりたいこと出来そうやな!」
「六花のやりたい事?」
「由美から聞いたんやけど、六花は中学で由美と仲良くなるまでクラシックの凄い子やったらしいで?」
「たしかに、六花は凄く上手いね」
「そんでな、由美が色々聴かしてたらバンドでピアノがしたいってなったんやて」
「それで、ベンフォールズか……」
というか由美は音楽をだいぶ兄に叩きこまれてそうだな。
ヒロタカさんのメロディは色々な引き出しを持ってる様に感じる。持ち前の社交性でかなりの音楽を吸収してきたんだろう。
ただ、今日話したかった内容はこれだけじゃ無い。メジャーのオファーが来たらどうするか?について話さないといけない。
「あのね。もし、今メジャーのオファーが来たらどうする?」
「なんや、まーちゃん。話でもきたん?」
「来ては無いんだけど、可能性の話かな。先生も言っていたように、いまのわたし達はきっかけの問題だと思う」
「なるほどなぁ……」
「確かに状況的にはなくは無いよねー」
かなは少し厳しい顔で言う
「まーちゃんはどう考えとるん? ひなはまーちゃんについて行くって言うとおもうで?」
「わたしは……悩んでる……」
かなは机を強く叩くと悲しい顔で言った。
「何を悩むことあるん? 今やで? いくわけないやんか?」
「でも、次があるかは分からないんだよ?」
「次? 無かったらなかったでええやん? どんだけ恩があるおもてんのよ?」
「それはそうだけど……わたしも勝手にとは思ってないよ? 西田さんに言ってからならいいんじゃない?」
「まーちゃん、西田さんが行って欲しく無い時に反対するおもてんの?」
「それは……」
「うちは、西田さんがうちらとやりたい事終わるまで行かへんで。それでも行く言うんやたらいくらまーちゃんの頼みでも抜けるわ」
「あたしはまーちゃんが行くなら付いて行くけど、気持ちはかなとおなじかなー」
正直かながここまで怒るとは思っていなかった。数少ないチャンスで悩む俺が間違っているのか??
ふと俺は残されたタイムリミットが頭をよぎる。一度逃したら間に合わないかもしれない。
(くそっ、なんでこんなに時間が無いんだ)
♦︎
スタジオの後、俺はかなとは殆ど話さなかった。ぶつかってしまった事が気まずいのもあるけど、なんと言えばいいのかがわからなかった。
「まーちゃん。かなの言った事、納得できない?」
「納得はしているよ。西田さんには本当にお世話になっているし、返しきれているなんて少しも思っていない」
「うーん、かなが言いたいのはそう言う事じゃないと思うんだよね」
「西田さんの恩がって事じゃないの?」
ひなは、俺のほほを少し触ると優しく言う。
「あたしは、まーちゃんに恩は沢山あるけど、そんな事なくってもまーちゃんといるよ?」
「ひな……」
「まーちゃんはさぁ、西田さんの事きらい? 機会をくれるからレーベルにいるの?」
「そんなわけないじゃん! ツアーの時なぜかコンビニおにぎりを買ってくれたり、いつも優しくて色々考えてくれていたり。でもときどき寂しがりのおじさんみたいだったり……そんな西田さんが好きだよ」
ひなはニコッとわらう。
「ほら、それをかなに伝えたらいいよ!」
そう言ったひなの言葉に、俺はハッとさせられた。レーベルに入ったとき、俺は西田さんと一緒に音楽をしていきたいと思っていた。
それは今も変わらない。
だけど、いつのまにかメジャーに行く事を焦って、その事を全く考えていなかった。
そしてかなは……。
恩だとか、返すだとかそんな事を考えながら俺が伝えた事に怒っていたんだ。
かなは明確に、利益関係だけで入っているわけじゃないと、俺に伝えたかったのかもしれない。
「ひな、ありがとう」
「うん。早く仲直りしてよー?」
「うん……」
その晩、夕食を食べるとスマホとにらめっこしている。
「電話するべきか……メールするべきか……」
仲直りの連絡をかけるのはなかなか勇気がいる。俺が完全に悪いだけになおさらだ。
考え、後回しにした結果、夕食の後までかかってしまった。
ピンポーン!
階段の下からママの声がする。
「まひるー? かなちゃんきたわよー?」
かなが?
どうしようか……心の準備が出来ていない。
なんで急に、直接何か言いに来たのか?
階段を上がるかなの足音に、俺はあたふたしてとりあえずベッドにすわるとギターを手にとり落ち着いた。
「か、かな? 急にど、どうしたの?」
かなは無言で隣にすわって、少し大きめのトートバッグから何かを取り出した。
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