トントントントン……
今日も包丁の音で目がさめると、味噌汁のいい匂いがした。
この身体になってからは赤味噌の味噌汁ばかりだったので、新鮮に感じる。
たったの5日間出ていただけなのに、名古屋に帰るのが凄く懐かしい気持ちになった。
かなとおばあちゃんの声が聞こえる度に、かなはもう少しいたいのだろうと思う。
大阪、次はいつ来れるだろうか?
♦︎
朝食が終わると、俺たちはかなのおばあちゃんにお礼を言った。
「おばあちゃん、また来るから元気でいてな?」
「何ゆうとんの? かなのひ孫を見るまでは元気にしとるさかい、またいつでもきてな?」
「うん、おばあちゃんありがとう、またくるからね……」
かなは涙を浮かべ、おばあちゃんにさよならを言った。
♦︎
最寄りのなかもず駅に着くと、丁度西田さんのハイエースがくる、ツアー前半の帰り道はこうして始まった。
「今日で一旦帰宅だけど、ツアーはどうだった?」
時子さんが尋ねた。
「とても勉強になりました! 本当に機会を頂きありがとうございます!」
すると西田さんが、
「この数日で大分成長したと思うよ! まだまだ後半もあるからよろしくね!」
俺たちは「よろしくお願いします!」と言うと、西田さんは続けて言った。
「この数日で、君たちを見て思ったこと言っでもいいかな?」
「是非、お願いします」
「まず、ひなちゃん、かなちゃんはもう少し見せる事を意識して欲しい、しっかり演奏しようとしているのはいい事なんだけどね」
「見せる事ですか?」
「見せると言うよりは魅せるかな? かなちゃんは前をしっかり向く、ひなちゃんは、叩くアクションにメリハリを付ける!先ずはそこだね!」
「確かにうち、下向く事が多いかも……」
かなは少ししゅんとした。
「まひるちゃんは、歌だね。 完成して来てはいるけど、ほぼ確立されたギターを向上させるより歌の方が早そうだ」
「はい……」
「あと、これは僕からのプレゼント、ちょっと時子渡してくれるか?」
そういうと、時子さんは足元の袋をわたしてくれた。
えっ?
「いいんですか? こんなのもらっちゃって」
西田さんはベータ57のマイクを2つと、スティックケースをくれた。
「今、君たちに必要な物だと思うからね。ひなちゃんは、あんまり可愛くはないけど、ドラムに掛けて使えるのはいいだろう?」
そう言えばひな、スティック落としたの見たことないけど、折れたり落としたりしたらどうする気だったんだろう?
「うちのマイク、しかもええやつ! 西田さんありがとうございます!」
「ライブハウスのマイクは劣化してるのもあるからね、他にも外でライブする時やスタジオなんかでも使えるから便利よ!」
時子さんは片目をつぶる。ん?ウインクかな?
大阪から名古屋までは直ぐに着いた。
「今日は、そうしたらみんな家に帰って、明日は僕だけで迎えに来るから!」
「時子さん達は来ないんですか?」
「明日は浜松だから私たちはそのまま行く方が近いのよ!」
なるほど、"サカナ"は浜松が拠点だから……ってことは明日は"サカナ"のホーム!?
昔からのファンがいるのか……。
俺たちは初日に集合した場所に下ろしてもらうと、西田さんと"サカナ"にお礼と別れをつげた。
「なんか、久しぶりって感じがするね!」
「なんか街がちっちゃなってる気がするなぁ!」
「あはは、それ"スタンドバイミー"みたいだし」
かなと、ひなは不思議そうに俺を見て、
「スタンドバイミー?」
「昔の映画だけど見たことない?」
「「うん」」
マジか。まさかスタンドバイミーを知らないとは、
「面白いから今度見てみてよ! しかし今回は、流石に疲れた感あるねー」
「そだねー、中々内容の濃い前半ツアーだったね……」
「明日からも後半があるから、今日は早くゆっくり休んどこ!」
♦︎
俺は家に着くとツアーの話をして、早めに寝る支度する。今日は早くねないとな。
ブーン…ブーン……。
電話?もう一人の転生者タキオからだ。
「はい、タキオさん?」
「まひるさん、つかぬ事をお聴きしますが、こちらの自分に会った事ってあります?」
タキオはすこし焦っている様子。
「まだ、会った事は無いですけど、電話なら掛けた事ありますよ?」
「電話、あるんですか? それは、転生前にそのアプローチってきてたんですか?」
「電話に関しては、来てたと思う、いたずら電話の記憶が有るから……」
「そうなんですか……また連絡します」
そういうと、電話が切れた。
タキオは何をしているんだろうか?
気になりながらも、俺は明日からのツアーの為に眠りについた。
◯用語補足
・ベータ57
シュアーのだしてるマイク、楽器用SM57、ボーカル用としてライブハウスに良く置いているSM58があるけど、この楽器用マイクをボーカル用に高音域もしっかり出るようにしたのがベータ57。
ちなみにSM57をバンプオブチキンの藤原さんが使っていたなど、ボーカルマイクにする人もいます。
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