終業式を終え、春休みになった。
春休みなんていう響きは何年ぶりだろう。
俺たちは、明日から人気インディーズバンドの"サカナ"と約2週間のライブツアーに出る事になっていた。
えっと、歯ブラシ、化粧水、乳液、化粧ポーチ、靴も要るよな。ジップロック的なものも詰めておこうかな。
服や下着は何着くらい持って行けばいいんだろう?一瞬名古屋に寄れるみたいだから、その時に詰め替える? コインランドリーで洗えばいいから4セットくらいで良いかな?
靴下は勿論、靴ももう一足くらいは要るよな。
ヤバイ……。昔はセカンドバック1つくらいだったのに。気がつけば、スーツケースにパンパンの荷物になってしまった。
俺でこの量ならひなやかなは2個くらいで来てるんじゃないだろうか?
あとは"マスたん"とエフェクターボード。
ツアーバンドにしては最小限の機材だな。
少し弾いてから、"マスたん"を専用のクロスで拭いて、ケースにしまった。
その後、行きつけの美容院に行って準備満タン!
「ママ、お兄ちゃん、そしたら行ってくるね!」
「行ってらっしゃい! なにかあったらすぐ連絡するのよ?」
そう言うとママはお小遣いを兄はギターの新しい弦をくれた。
ツアー時の臨時収入はかなりでかい!
ゴロゴロゴロゴロ……
はぁ、待ち合わせ場所は遠くないのにスーツケースにギターセットが重すぎて辛い。
ゴロゴロゴロゴロ……
ようやく公園に着くと貨物用のハイエースが止まっていた。
挨拶をすると"サカナ"の三人が笑顔で返してくれた。
「おはようございます!」
「おはようまひるちゃん、お待ちかねのツアーよ! 新しい土地を楽しみましょ!」
そう言って3人は、機材を一旦外にだし、荷物を積み直す準備をした。
"サカナ"のメンバーは、ギターボーカルの時子さん、ベースボーカルのアキさん、ドラムのクミさんの3人と、あとレーベルの社長兼運転手の西田さんが出てるらしく4人だった。
9人乗りに7人なら余裕がありそうだが、機材を積むと密着状態になると思う。
12時を回り、予定の時間になったが、ひなとかながまだ来てない。
普段、待ち合わせには早く着くタイプなのに……どうしたんだろう。
俺が電話をかけようとすると、スーツケースを持った、黒いヒゲもじゃのおじさんとコンビニの袋を持った、見たことのある2人が歩いて来るのが見えた。
なんかめちゃめちゃ怪しいぞ。
だけどひなとかなはなぜか親しげに話している様だ。
ヒゲもじゃののおじさんは俺を見るなり、駆け寄り、名刺を出した。
「こんにちは、シーサイドレコーズの代表西田です! 今回は、運転手兼、マネージャーなんで気軽になんでも聞いてください」
このおっさんもとい西田さんは"サカナ"のレーベルの社長さんだった。
人当たりが物凄く良く、俺たちにも低姿勢で接してくれ、ひなとかなはすでにうちとけているようだった。
「まーちゃん、西田さんがおにぎりとお茶買ってくれたんだよー!」
いやいや、短時間でうちとけすぎだろ。
ひなと買い出しに行く途中でかなと合流していた様だった。
荷物の積み込みを手伝って、ハイエースにのると7人でおにぎりを食べる。
「こんな大勢のツアーは久しぶりだなぁ! 時子が大分君たちを気に入ってるみたいだから、移動中も楽しんじゃってね!」
「そしたら明日のライブに向けて福岡へレッツゴー! あ、トイレとかは気にせず言ってね!」
時子さんがハイテンションで言った。
こうして俺たちの2週間に渡るツアーの幕が開いた。
俺はスケジュールのメールを開く。
夕方広島に着き、19時から2時間ほどラジオ、宣伝、その後おススメのお好み焼きを食べ、23時小倉のホテルに着予定。
意外となかなかハードなスケジュールじゃないか?
移動中、時子さんは小さなアコギを取り出すと、俺たちの方をチラ見した。
ジャーン!
「広島まで、歌おう!」
そう言って"おお牧場はみどり"をみんなで歌う。なんでこの曲なんだ?
クミさんも隣で、プラスチックの棒でハイエースをパーカッションにしだした。
「お〜まきばはぁ〜み〜どぉ〜り〜 ハイッ!」
3時間ほど、童謡をみんなで熱唱するとその後1時間ほど昼寝し、兵庫を抜けるあたりからみんなで化粧を直し始めた。
なんだ?このツアー??
ところどころでラジオから流れてくる曲の品評会をすると広島に着いた。
「これからラジオってなにするんですか?」
ひなが不思議そうに聞いた。
「自分達のチラシとデモCD持って付いて来て!」
何をするかは教えてくれなかった。
ラジオ局に着くと、中に入り挨拶をしてCDとチラシを渡す、2件くらい繰り返して、大手のCDショップに入った。
「こんにちは! ポスター持って来たんですけど、おいてもらえますか?」
インディーズバンドの欄に先日リリースされたアルバムが特集されていた。
スタッフと話してサインし写真をとる、次へ……
ヤバイ、付いていくだけでもかなりしんどいぞ……俺は売れて来ているバンドの多忙さを舐めていたかもしれない。
最後はラジオの収録。
俺たちは3人、スタジオ内が見える位置で待機する……。
「サカナ、超忙しそうだよね。」
「だね、うちら付いてくので精一杯やわ」
「そうだね、わたしらもがんばろう!」
すると、ラジオ局の人が声をかけてきた。
「君たちも、ちょっと中に入って一緒に宣伝して!」
「えっ!?」
時子さんが、トーク内でわたしたちの話をしてくれ、いるのならばとディレクターさんが呼びに来たのだった。
「はい、今話にもでていた、H.B.Pのメンバーがきてくれましたー!」
DJさんは軽快に紹介してくれる。
ひなとかなはガチガチに緊張していた。
「「よろしくお願いしまーす」」
「中学生でサカナの前座を務めるのはやっぱり緊張しますか?」
「そうですね、やっぱり凄い先輩なので泥を塗らない様にと緊張します」
「そうですよね、H.B.Pの皆さんは音源も作られてるそうなので、本日は広島VIPラジオが初オンエアさせていただきます!」
「えっ本当に? かけて貰えるんですか?」
「はい!それでは、20日広島ステップでライブ出演予定のH.B.Pで"スクール"」
えーっ!
CDに書いてあるユキちゃんのデザインの装飾として記載されてるスクール、ガール、バンドを題名だと思われてオンエアされてしまった。
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