久々のスタジオひなはノートパソコンを持ってきていた。
「ひな、秘密って……DTMとの同期演奏!?」
「そうだよー! パソコンとソフトを買ったんだー」
「ほぇ? ひな、パソコンでなにするん?」
「ちょっと見てて! あたしらの弱点を克服出来るかもしれないよ!」
そう言うとひなはパソコンをミキサーにつなぎ、音を出す。かなはよくわかってないみたいでキョロキョロしている。
だが、俺はパソコンの時点でひなのやろうとしている事を理解した。
「前のデモと何がちがうん? キーボードと電子ドラムの音……」
ひなは何も言わず、ヘッドホンをつけドラムを叩き始め、俺もギターで入るとかなも合わせた。
合わせ終わるとかなは言った。
「これ、ガンウィズのDJみたいやん!」
「そう! 音圧が出るだけじゃなくてまーちゃんが本気出しやすくなるかなって……」
「ひな……すごくいいと思う!」
「ほんまにすごいやん!」
もしかしたらひなは、サヤが入った時の事を気にしたのかも知れない。正直DTMを使いこなしているのには驚いたが、元々エレクトーンをして居た事を考えると入りやすかったのかも知れない。
「まだ、私が作っただけだからここから詰めていかない?」
「うん、そうだね! 生の音とも合うように調整して行こう!」
音圧はもちろんだけど、他の楽器の音を使えるのは大きい。ピアノとか合わせるのもアリだな。
それにしても受験の最中どこかに消えていたのはそのせいだったのか……。
♦︎
その日の晩、俺は西田さんにひなの話をした。
「ひなちゃんDTMを始めていたなんて……受験大丈夫だったのかな?」
「あー、でも一緒に勉強していた時は大丈夫だったので……」
「でも、3人とも乗り越えられたみたいで良かったよ……」
「本当に、ご迷惑をおかけしました」
「僕の指示だから気にしなくていいよ。ただ、ひなちゃんのDTMの話を聞いて思ったんだけど、アルバムは延期してライブをしていかないか?」
「ライブですか?」
「正直あの時3月にレコーディングと言ったのは、君たちがジャケットを見るのが辛いと思ったんだけど、しっかり前を向けているみたいだからね……フェスに向けてイベントに参加していけたらと思ったんだ」
「フェス……ですか?」
「そう、サマソニやフジロックだけじゃなく色々な所で色々なフェスがあるからどんどんアピールして行こう!」
「じゃあレコーディングは?」
「一旦延期! というか今のアルバムでまだあんまりライブしていないだろう? 折角売れているんだからまだいいと思うよ」
フェスか……。
その後アプローチについて話した。
作戦としては、大規模なフェスの運営陣と仲良くなる作戦だ。
フェスを運営している主要メンバーは何人かいる。そういった人達は普段ライブハウスでブッキングライブなどの小さなイベントをしている事が多い。
そういったイベントに参加し、知り合いの輪を増やし、フェスに呼んでもらう作戦だ。
「まひるちゃん、知り合いのイベントのオーガナイザーとかは居ないかい?」
「私は、いないですね……」
「だよね、というか自主企画してたもんね」
「あ、ただイベンターに知り合い居そうな仲のいいバンドなら居ます」
「あー、"ドリッパーズ"か、確かに彼らは大きなフェスに去年、一昨年とでているね!」
俺と西田さんは、それぞれ関係ありそうな人に声をかけてみる事にした。
ただ、今ナカノさんに連絡するのはちょっと気がひける、気は進まないけどジュンさんにかけるか……。
プルルルル、プルルルル
「もしもしジュンさん?」
「あ、まひまひかー」
えっ? いつものテンションが全然無い、何かあったんだろうか?
◯用語補足
・DTM
デスクトップミュージック。
パソコンで、DAWソフトなどを使い曲を作る打ち込み音楽。
・オーガナイザー
イベントなどを手配し運営する人。
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