確かにこんな非現実的な状況を打破するには、そういった超常的なものに頼るしかないのかもしれない。
だがしかし、それはつまり――……
この世界を統べる王を決める戦い、キングゼロ。
シンリとルナリスを含め、十三人の王たちが繰り広げる熾烈な争い。
シンリが元の世界に帰るためにはそれに参加し、戦い、勝ち続る必要がある。
殺し合いになるかもしれない激戦に。
思考が巡り切り、停止していた時間が一気に動き出す。
「はぁぁぁっ!? 何それ!?」
シンリは後ろ頭を撫でながら、必死に考え込む。
これからを決める大事なことだ。
悩んで、悩んで、悩んで……。
「まぁ、なるようになるか」
数秒後、すっぱりと悩むのを諦めた。
「むしろなるようにしかならん。明日のことは明日考える。今後のことはいつかじっくり考える。それより今はゆっくり休みたい」
胸を張り、素直にそう言った。
ルナリスは、呆れながらも慣れた様子で肩をすくめる。
「ってか、そんな先のことよりも、いつキングゼロで指名されるかって話だよ! 考えただけで胸のドキドキが止まらないんだけど。もちろん戦う覚悟はできたけどさ、今すぐはちょっと……心の準備ができてないというか……」
心身を襲う疲労感。連戦できる余力など残っていない。せめて数日の休養が欲しいと、言い訳がましい気持ちが強く主張している。
ルナリスは口元を手で覆って忍び笑った。
「安心して。キングゼロは同じ相手を指名するためには七日間空けないと駄目なの。つまりシンリは、あと七日はキングゼロで指名されることはないわ」
「ほんと? 良かったぁ……」
気が抜けてその場にしゃがみ込んだ。
数回の溜め息後、積もりに積もった文句を吐き散らかす。
「やっぱり俺、ルール全然知らないんだな。というか、絶対にそんなこと教わってないんだけど。ねぇ、さすがに理不尽すぎない? せめてルールぐらいはちゃんと教えてほしかったよ……」
他の王たちと比べ、ただでさえ不利なことが多いのに、基本的なルールまでも欠如しているのだから、無理難題をふっかけられているようなものだ。
こんな状態で、勝たなければ元の世界に帰れないのだとなれば、不平不満しか出てこない。
絶望に溺れていると、ルナリスが手と助け船を出した。
「私でよければ教えてあげる。ルールも、他の必要なこともね」
「え? いや、でも……」
さすがにそこまで世話になっていいものかと、遠慮心が浮上する。
ルナリスの顔と差し出された手を交互に見ていると、
「六の王とのことを除いても、またいつ指名されるかわからないでしょう? 貴方は私たちにとって未知の王なのだから、きっとまたすぐに指名される。それどころか、もしかしたら当分は指名がひっきりなしかもね」
「それはご遠慮願いたいな……」
さすがに苦笑いもできない。
「それに、今の貴方が所有しているのは、今回私から奪った土地だけでしょう? その土地は我が国の領地の中にあるの。貴方に負けられると私が困るのよ。だから負けないでもらうためにも、それなりの協力はさせてもらうわ」
ルナリスは考える隙も与えず、言葉を重ねに重ねた。
自分のためだと言われてしまえば断る理由もない。
せめて申し訳なさの代わりに、感謝の気持ちを乗せる。
「……わかった、また今度教えて」
手を取り、立ち上がった。重い腰が少しだけ軽くなった気がする。
「ええ、任せて」
ルナリスは軽く自分の張った胸を叩く。
本来、シンリとルナリスは敵同士である。だが今は違う。少なくとも敵ではない。だとしたら何なのか。新たな二人の関係を表す言葉を探す。
謎の声が言っていたことを、また思い出した。
【他の国の王と『同盟』を組むのも有りだ】
その言葉は驚くほど性に合った。
「俺ら、まるで同盟を組んでるみたいだな」
「そうね」
ルナリスは頷くと、何か思い付いたのかニヤリと笑う。
「ねぇ、知っているかしら。キングゼロは同盟を組むのを許されているのよ」
冗談めかした口振りだった。
ルナリスの茶化すような無邪気な笑顔に、わざとらしく肩をすくめてみせる。
その冗談に乗り、笑い返す。
「――何それ知らないんだけど」
今までと同じ調子でそう言った。
二人は同時に吹き出した。
なははっ、とシンリが笑う。
ふふっ、とルナリスも笑う。
二人で笑う。笑い合う。
城内に笑い声だけが輝くように響き渡る。
これは一つの始まり。
終わり、始まる、無数にある物語の一つ。
永遠のような時を刻んだ、終わりなき戦いの――。
戦いは最後の王を加え、加速していく。
十三人目の王たるシンリは、否応なく巻き込まれていくのであった。
『――キングゼロ』
『キングXIIIシンリを指名する』
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