──ガァァァァンッ!
今まで以上の、感じたことがないほどの衝撃が手から全身へと駆け抜けた。
全力で振り下ろした刀は、先ほどより一層大きく強烈な金属音を打ち鳴らし、この空間全体に響き渡る。その衝撃たるや、突風を生み、遠くの木々を揺らすほどだった。
そして訪れる、短い静寂。
破るのは荒れる呼吸音のみだった。
「はぁ、はぁ、はぁ………」
シンリは膝に手を付き、倒れ込んでしまうのを堪えるので精一杯だった。
開けるのもやっとな目で、ルナリスの足元を見やる。彼女の手にしっかりと握られていたはずの槍が転がっていた。
限界を訴え続けた身体がふらりと揺れる。
「勝っ、たぁ……」
背中から倒れ込んだ。寝転がると同時に、持っていた刀が自然と手から離れる。握力はもうない。それどころか、全身に力が入らない。
横になっているのに、膝が笑いっぱなしだった。
「負けた……」
ルナリスもまた、シンリの隣に仰向けで倒れ込む。
悔しそうに顔をしかめている。隠すように腕で顔を覆った。
「まさか弾いた反動を利用して回転しながら、力ずくで来るなんて……」
「一か八かだったけどね。どうしても左手で振らなきゃいけなかったから、弾かれるか躱されるのは目に見えてたし。だったら弾かれた方がいいかなって」
ずっと刀を持っていた、小刻みに震える右手を空にかざす。
今まで握り締めていた刀はすでに手の中にはない。だが、その感触はしっかりと残っていた。手触り、重み、振った感覚──全てが残っている。
シンリはそれを握るように、もう握力のない手をゆっくりと閉じた。
「それなら躱されないためにも、目いっぱい近寄らないとって思ってさ。だから刀を身体の下に隠して死んだ振りして、ルナリスが近付くのを待ったんだ。あとはタイミングを見計らって起き上がって、二ルグ目掛けて刀を振り下ろした。逃がさないように。もし躱されたら、体勢を立て直されて負けただろうし」
シンリからだと、近付くだけで極めて困難。
加えて、普通に攻撃しても容易に回避されるだろう。だからこそ、どうしても虚をつく必要があった。
ルナリスから『躱す』という選択肢を奪い、『弾き返す』という行動を取らせるために。
「あとは上手く外に弾かれるように、少し外側を狙って振り下ろす。弾かれたときは左手がもげるかと思ったけど。上手く回れて良かったよ。あとは最後に刀を持ち替えて、回りながらもう一度二ルグを狙って思いっきり振り下ろすだけ」
「戦いの中でよくそこまで」
「ビギナーズラックってやつかな」
ルナリスは首を振り、優しく微笑んだ。
「いいえ、きっとそれが貴方の実力よ。ただの運なんかじゃない」
「そうかな?」
過大評価だとは思いつつも、褒められることに悪い気はしなかった。
満足感に浸るシンリの隣で、ルナリスが呟く。
「それが貴方の持つ王の器なのでしょうね」
声は風に乗り、どこかへ飛んでいった。
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