キングゼロ

〜13人の王〜
朝月桜良
朝月桜良

初戦決着

公開日時: 2022年2月16日(水) 12:00
文字数:1,168

──ガァァァァンッ!


 今まで以上の、感じたことがないほどの衝撃が手から全身へと駆け抜けた。

 全力で振り下ろした刀は、先ほどより一層大きく強烈な金属音を打ち鳴らし、この空間全体に響き渡る。その衝撃たるや、突風を生み、遠くの木々を揺らすほどだった。


 そして訪れる、短い静寂。

 破るのは荒れる呼吸音のみだった。

「はぁ、はぁ、はぁ………」

 シンリは膝に手を付き、倒れ込んでしまうのを堪えるので精一杯だった。

 開けるのもやっとな目で、ルナリスの足元を見やる。彼女の手にしっかりと握られていたはずの槍が転がっていた。

 限界を訴え続けた身体がふらりと揺れる。

「勝っ、たぁ……」

 背中から倒れ込んだ。寝転がると同時に、持っていた刀が自然と手から離れる。握力はもうない。それどころか、全身に力が入らない。

 横になっているのに、膝が笑いっぱなしだった。

「負けた……」

 ルナリスもまた、シンリの隣に仰向けで倒れ込む。

 悔しそうに顔をしかめている。隠すように腕で顔を覆った。


「まさか弾いた反動を利用して回転しながら、力ずくで来るなんて……」

「一か八かだったけどね。どうしても左手で振らなきゃいけなかったから、弾かれるか躱されるのは目に見えてたし。だったら弾かれた方がいいかなって」

 ずっと刀を持っていた、小刻みに震える右手を空にかざす。

 今まで握り締めていた刀はすでに手の中にはない。だが、その感触はしっかりと残っていた。手触り、重み、振った感覚──全てが残っている。

 シンリはそれを握るように、もう握力のない手をゆっくりと閉じた。


「それなら躱されないためにも、目いっぱい近寄らないとって思ってさ。だから刀を身体の下に隠して死んだ振りして、ルナリスが近付くのを待ったんだ。あとはタイミングを見計らって起き上がって、二ルグ目掛けて刀を振り下ろした。逃がさないように。もし躱されたら、体勢を立て直されて負けただろうし」


 シンリからだと、近付くだけで極めて困難。

 加えて、普通に攻撃しても容易に回避されるだろう。だからこそ、どうしても虚をつく必要があった。

 ルナリスから『躱す』という選択肢を奪い、『弾き返す』という行動を取らせるために。


「あとは上手く外に弾かれるように、少し外側を狙って振り下ろす。弾かれたときは左手がもげるかと思ったけど。上手く回れて良かったよ。あとは最後に刀を持ち替えて、回りながらもう一度二ルグを狙って思いっきり振り下ろすだけ」


「戦いの中でよくそこまで」

「ビギナーズラックってやつかな」

 ルナリスは首を振り、優しく微笑んだ。

「いいえ、きっとそれが貴方の実力よ。ただの運なんかじゃない」

「そうかな?」

 過大評価だとは思いつつも、褒められることに悪い気はしなかった。


 満足感に浸るシンリの隣で、ルナリスが呟く。

「それが貴方の持つ王の器なのでしょうね」

 声は風に乗り、どこかへ飛んでいった。

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