「世界を救えるのはキミだけなんだ。だから魔法少女になって、僕たちと一緒に戦ってほしいんだ」
「あ、すいません。知らない人について行ったらダメだって言われてるんで」
これを言われるのは何度目だろう。誰に声をかけても、高確率でこの返答が帰ってくる。日本の教育行き届きすぎだろ。
日本の教育に感動している場合ではない。
「……素晴らしい心がけだね。でもこの街を見てほしい」
僕はそう言って、目の前の少女に街を見るように促す。
「……街がどうかしたんですか?」
「キミなら感じ取れるはずだ。悪の気配が」
「……すいません急いでるんで……」
まずい完全に不審者扱いだ。しかしこのまま引き下がるわけにはいかない。
「待ってくれ。さっきキミは『知らない人にはついて行かない』って言っていたよね」
「『知らない人について行ったらダメだって言われてるんで』って言いました」
細かいな。ニュアンスが合ってればいいだろう。……いかん、ここで怒ってはいけない。
「僕を見てくれ」僕は自身の体を指す。「僕が何に見える?」
「……毛玉……」
「毛……」その反応は初めてだった。しかし間違っていないので反論できない。「そうだ。フォルム的には猫に近いだろう? 白くてもふもふしてるだろう?」
「まだ触ってないので、もふもふしてるかはわかりません」
だから細かいな。最近の女の子はこんなのばっかりだ。
「とにかく、僕が人間じゃないのは見たらわかるだろう」
「怪しいのに変わりはないんで。目つき悪いし」
「そうだけどさぁ……」突然現れて人語を話す謎の生物。怪しくないわけもない。「とにかく、今魔法少女界は人手不足なんだ。救世主が必要なんだ」
「救世主って……何を救うんですか……」
「もちろん、世界の人々さ。世界の平和と秩序を守る、正義の戦士に――ああ待って逃げないで……」
僕の話の最中に、女の子は振り返って走り出した。どうやら完全に逃走する気になったらしい。
逃がすわけには行かない。せっかく魔法少女の素質がある人に出会えたのだ。これを逃したら上司に怒られてしまう。
「待って!」小さい体で、僕は全力疾走する。「悪の組織が力を増してるんだ! 人類の危機なんだ!」
「知りませんよそんなの!」女の子は走りながら怒鳴り返してくる。「そもそも! そんな悪い人見たことありません! 世界は平和です!」
「それは奴らの巧妙な――ぎゃふっ!」
女の子は持っていたカバンを、僕の顔面に思い切り叩きつけた。僕はあっさりと吹き飛ばされて、電柱に頭をぶつけた。
そして、そのまま地面に落ちた。
ああ……またダメだった……また魔法少女の勧誘に失敗してしまった。これでは……また上司に怒られてしまう……
あー仕事辞めたい。
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