少子高齢化。その影響を色濃く受けたのが魔法少女業界である。
魔法少女は若い女性であるほど力を発揮する。中には長期間活躍する例外魔法少女もいるが、基本的には年齢は小さい方が良い。だから魔法『少女』なんて呼ばれているのだ。
少子高齢化によって子供が減った今、そもそも魔法少女の素質を備えた人物が減ってきているのだ。
しかも……仮に素質を持った子と出会うことができても、さっきみたいに断れてしまっては意味がない。
「最近の子はリアリストだね……」お酒を飲みながら、僕は目の前の相手に愚痴を言う。「魔法少女とか言っても、誰も信じてくれないよ。知らない人について行ったらダメなんだってさ」
「ええことやんか」目の前の魔法少女……少女? うん、少女は言う。「変なのにホイホイついていったらアカンよ。そう言われて育ってきてるやろうし、そもそも魔法少女なんて信じへん人のほうが大多数やし」
「そうだけどさぁ……」
魔法少女の存在を信じない人が多いのは、すでに体験済みである。
僕は今目の前の相手と酒を酌み交わしていた。仕事を失敗して上司に怒られて、お酒を飲んで忘れようとしているのだ。それに彼女に付き合ってもらっているわけだ。
彼女のことを僕は『クロ』と呼んでいる。28歳という年齢にして魔法少女現役の珍しい人である。最近隠居気味ではあるが、貴重な戦力であることに変わりはない。
18歳、と言われたら信じてしまいそうなくらい若々しい……というより童顔である。そんな緑髪の関西弁の女性が僕の飲み仲間である。
「確かに魔法少女は存在するんだよ。奇跡も魔法もある。でもね、夢と希望はないんだ」
「あーそれはわかるわ……思ってた魔法少女とちょっと違ったもん」
「思ってた魔法少女と違う……具体的には?」
「使い魔がお酒飲んで愚痴言ってる姿は見たくなかった」
「28歳の魔法少女がお酒飲んでる姿も見たくないよ」
「……ごめん……」
「いや……謝らなくても……」
「……」
「……」
微妙な沈黙の後、彼女が言う。
「この話……やめよか」
「そうだね。お互い傷つく」
誰も得しない会話だ。だったらやめるべきだ。別の話題を探して振ってみる。
「最近どう? そっちの仕事?」
「私の仕事? いつも通りやで。人がおらへんから怪物退治も忙しいし、営業にも回れてって言われた」
「営業? 営業って……僕たちの?」
「うん。そっちも人手不足やろ? 魔法少女と同じで、どこも人がおらへん。だから、持ち回りでやろうってさ」
魔法少女業界の人材不足は深刻だった。僕が思っていたより深刻であったらしい。
クロは思い出したように、
「営業ってどんな仕事してんの?」
「キミも知ってる通りさ。魔法少女の資質を持った人を見つける。そして勧誘する」
「勧誘ってどんな感じですんの?」
「やけに聞いてくるね……どうしたの?」
「いやぁ……私も営業に回るんなら、仕事内容を把握しておこうかと」
割と真面目な人だった。
「そうだね……基本的には褒める戦略が推奨されてる。『キミは天才だ』『凄い才能だ』とか適当なこと言って勧誘してる」
「ふぅん……成果は?」
「最近悪くなってるから、別のプランも提案されてるよ」
「別のプラン。例えば?」
「今魔法少女になれば、あの大人気ゲーム豚頓堂ブイッチがついてくる、とか」
「うわ誘拐犯の手口やん」
「核心つかないでくれるかな」
百歩譲って僕たち使い魔がその誘い文句を口にしたとしよう。それならば、まだ誘拐感は少ないかもしれない。
だが魔法少女がそれを口にしたら? 人間がそれを口にしたらどうなる? どう考えても詐欺だと思われる。連れ去られると思われる。怪しすぎる。
この目の前の目付きの悪い28歳の魔法少女が『ゲームあげるから魔法少女になってよ』なんて言っても怖いだけだ。
「世知辛いねぇ……」クロはグラスを揺らしながら。「もうちょっと夢のある世界やと思っとったわ」
「僕もだよ」
魔法少女。それは世界の平和と秩序を守り、希望と夢を与える職業。そう思っていた。そしてその使い魔は元気で明るく、正しい存在ばかりだと思っていた。
だが実際はどうだ。仕事に失敗して上司に怒られて、こうやってお酒を飲みながら愚痴を言っている。
こんな仕事辞めてやりたい。野良猫として生きていきたい。
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