「ねぇ前も言ったよね、なんで新しい魔法少女が勧誘できないのか。忘れちゃった?」
「いえ……覚えております」
「それならまだマシだよ。いい? 新しい魔法少女が増えないのは『キミの営業努力が足りないから』だよ」
「はぁ……」
「睡眠時間なんて削ってよ。3時間も寝れば十分でしょ? 俺の若い頃は5日眠らないなんて当たり前だったんだから」
「はぁ……」
「気のない返事だね……やる気あるの?」
ねぇよ、なんて言えるはずもない。
「やる気はあるんですけど……その、人手が足りなくて……」
「1人が10倍働けばいいんだよ。単純でしょ?」
単純なのはあんたの脳みそだよ、なんて言えるはずもない。言ったらこの上司傷ついちゃう。
「えー……キミ、名前なんだっけ?」
名前も知らん奴呼び出して叱ってたのかよ。
「ルーセント、です」
「ルーセント。こんなところで油売ってないで働け」
あんたが呼び出したんでしょうが。
……仕事辞めてぇ……
☆
「あはは、そりゃ災難やったね。あの上司無茶言うから直属の部下は大変やんな。あ、それポン」
「ホントにあの上司……今どき精神論で部下が動くかっての」言ってから、僕はクロの手牌に目を移す。「發鳴きか……安手で逃げる気?」
「当然やん。私今リードしてるし」
「ロマンがないなぁ……せっかく白も二枚持ってるんだから、大三元でも狙えば?」
「その口ぶりは……ルーが中を持ってるやろ?」
なんで分かるのだろう。相変わらずこの魔法少女と心理戦をして勝てる気がしない。僕も心理戦やボードゲームは強いほうだと自負しているが、クロに勝ち越せた試しはない。
とにかく、僕たちは二人で麻雀をしながら愚痴を言い合う。麻雀は基本的に4人でするゲームなので、僕たち2人でやるときは適当にルールをアレンジして行っている。友だちを誘う、なんて選択肢は存在しない。
「クロのほうの上司はどうなの?」
言うと、クロは嘲笑めいた笑みを浮かべる。その顔はまったく魔法少女には見えない。どっちかというと敵側にいそうだ。
「ああ……あのセクハラ上司? 相変わらず女の子のケツ追いかけ回しとるで」
現状は何も変わっていないらしい。ともあれ僕の言葉がクロの思い出したくないことを思い出させたらしい。
「あのセクハラ上司……こっちが逃げられないの知ってるから好き放題やで」
「……クロも大変みたいだね……」
「私はええねん。あの上司若い子のことしか興味ないから、私は標的ちゃうねん。まぁセクハラ止めたりセクハラの対象になった子のケアが大変っちゃあ大変やけどね」
「……逃げられないもんね僕たちは」
「せやねん。そこが問題やねん」
魔法少女は一度使い魔と契約したら、死ぬまで敵と戦わなければならない。使い魔は使い魔として生まれたら、死ぬまで魔法少女を勧誘しなければならない。
「魔法少女側は……なんだっけ、エネルギーが必要なんだっけ?」
「そうそう。奇跡のエネルギー、って聞かされとるよ」
奇跡のエネルギー、それは魔法少女が活動するために必要なもの。そして、魔法少女が生きていく上で必要不可欠なもの。
人間にとっての空気や食事みたいなものだ。空気が食事がなければ人間が生きていけないのと同じように、魔法少女は奇跡のエネルギーが無いと生きていけないのだ、
そして、その奇跡のエネルギーは僕たちが所属している組織にしか存在しない。だから、魔法少女たちは一度魔法少女になってしまうと、死ぬまでこの怪しげな組織に貢献しなければならないわけだ。そうしないと生きていけないから。
活躍をすれば奇跡のエネルギーがもらえる。活躍できなくなれば、それがもらえず息絶える。そんなブラック企業である。
「使い魔も同じエネルギーもらっとるんやっけ?」
「えーっとね……似たようなエネルギーみたいだけど、詳しく言うと違うみたいだね。といっても成分なんて知らないから、噂話でしかないけど」
そうだ。いつだって末端の下っ端に情報は回ってこない。だから、不確かな情報に踊らされながら働くしかないのだ。
この仕事は辞めてしまいたい。だってツライから。
しかし、仕事をやめたら、僕たちは生きていけないのだ。魔法少女も使い魔も、この組織に貢献しなければ死んでしまうのだ。
「……普通の猫に生まれたかったなぁ……」
こんな猫っぽい謎の生命体じゃなくて、本物の猫。飼い主様から餌をもらって撫でてもらって……それで昼寝するのだ。
「あ、ルーそれロン」
麻雀は負けた。
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