語り手

こよみ
こよみ

第1話 梅雨

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公開日時: 2021年10月13日(水) 21:37
文字数:1,373

これは、私が小学6年生の時に体験した話です。


両親が共働きだった私は、学校から帰ると1人で留守番して過ごす事が多く、クラブ活動の無い日は15時から17時頃までは1人の時間でした。


寝るのが好きだった私は、よく1人でいる時は昼寝をして時間を潰しながら母の帰りを待っていました。


その日も学校から帰ってきて宿題をしていると、段々と眠くなってきたのでそのまま床に寝転がり、敷いていたクッションを枕代わりにして眠りにつく。


ふと目が覚めると、外では雨が降っている。


部屋も薄暗くなっていたので、そろそろ電気を付けようと起きあがろうとしても体の力が入らない。


そこで初めて、金縛りに合っていることに気付きました。


クッションを枕の代わりにしていたので、取り敢えず頭をズラして床にゴツン!と頭がぶつかれば金縛りも解けるかもしれない。


そう考えて目線をスっと頭の下にあるクッションの方にやると、色が違うんです。


緑色のクッションを枕にしていたはずなのに、目線の先には灰色のスーツ生地。


なんだか、クッションよりも硬い感じもする。


何が起きてるのかわからず、とりあえず金縛りから開放されたい一心で体を動かそうとしましたが、全く動くことが出来ませんでした。


そうしてるうちに、ガチャッと玄関の鍵が開く音と共に「ただいまー」と母親の声。


その声と同時に、私の頭はゴツンッ!と床に落ちて金縛りからも解放されました。


勢いよく起き上がると、緑色のクッションは私の後ろの方にあり、灰色のクッションは見当たりません。


そもそも、我が家にスーツ生地のクッションなんてありませんでした。


リビングに入ってきた母親に、一連の話を興奮しながら話すと、「夢でも見てたのよ」とまともに取り合ってくれません。


ただ、私も金縛りにあっただけなので、不思議な体験をしたなぁ…と思うくらいで、特別怖い思いをした!という印象もありませんでした。


そんな体験をしてから数日が経ち、また同じようにクッションを枕にして床で横になっていると、あの日と同じように金縛りに合って目が覚めたのです。


前回と同じで、目だけは動かせる。


クッションの方に目をやると、前回と同様のスーツ生地。


そして、外では雨が屋根を打ち付ける音が聞こえてくる。


前と一緒だ…。


2回目という事もあり、前回よりも冷静でいる事が出来ました。


私はこのスーツ生地のクッションが何なのかが気になり、何とかして顔を下に向けようとするも、やはり動かない。


そうしていると、クッションと反対側の頭に何かが触れた感じがしました。


そこで初めて、私は誰かに膝枕をされていて、頭を撫でられている事に気がついたのです。


頭に触れる指のゴツゴツとした感覚から、スーツ姿の男性だという事がすぐにわかりました。


あ。これはマズい。


頭の地肌に触れる指が冷たく、明らかに生きてる人では無いと言うことは、子供の私にもわかりました。


とにかく逃げなきゃと思い、必死に体を動かそうとしてもやはり動かない。


それでも変わらず頭をゆっ…くりと撫でられている感触に耐えかねて、


やめてっ!!!!!


と大声を出すと、頭を撫でる手がピタッと止まる。


それとほぼ同時に金縛りが解けたので、ばっ!と振り返るとそこには誰も居ませんでした。


ただ、緑色の枕代わりにしていたクッションが不自然に凹んでいる事に気がついて、そっと触れてみると、ほのかに温かい。










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