「こんにちは……」
「ああ、亜久野さん、ありがとうございます」
放課後、生徒会室を訪れた美蘭に、正高が声をかける。
「?」
「あの動画ですよ、お陰様で大好評です」
「ああ……」
正高の説明に美蘭は納得して頷く。
「本当にありがとうございます」
「広報として当然の務めを果たしたまでです。それに……」
「それに?」
「皆様の協力があってこそです」
美蘭は既に生徒会室に顔を揃えていた面々を指し示す。
「いやあ~」
「それほどでも~」
「あるけどよ~」
速人、雄大、強平が照れくさそうにそれぞれの後頭部をかく。
「……三馬鹿は放っておいて」
「お、おい!」
「ちょ、ちょっと!」
「誰が三馬鹿だ、眼鏡!」
強平たちが正高の言葉に揃ってムッとする。
「問い合わせもすごいんだ、『あの子は誰?』みたいな……」
愛一郎がスマホの画面を見ながら話す。
「ふむ、それならば……」
美蘭は腕を組む。愛一郎が問う。
「それならば?」
「第二弾の動画は顔出しもアリかも……」
「い、いや、さすがにそれは無理だよ」
美蘭の言葉に愛一郎は苦笑しながら首を左右に振る。
「冗談よ……」
「ははっ……」
(ちっ、そこまでは引っかからないか……)
美蘭は内心で舌打ちをする。そこにブザーが鳴り響く。
「来やがったか! 行くぞ、お前ら!」
「「「「「『セイバーチェンジ』!」」」」」
五人は変身して、生徒会室を飛び出していく。
「ぐわあああっ!」
戦闘員たちが軒並み倒される。
「どうだ! 参ったか! 悪の組織め! お前ら悪の組織の野望は俺たち、『最上戦隊ベストセイバーズ』が打ち砕く! この世界をお前たちの好きにはさせねえぞ! 平和は俺たちが必ず守ってみせる!」
レッドセイバーの言葉に合わせ、五人がポーズを決める。
「ちっ……」
「戦闘員どもは撤退しろ」
「クモ怪人さま!」
「足手まといだ……」
「コウモリ怪人さま!」
「巻き添えになっても知らんぞ」
「ハチ怪人さま!」
「手加減は出来んからな」
「カマキリ怪人さま!」
「相手が相手だからな……」
「サソリ怪人さま!」
「いいから早くしろ!」
「は、はっ!」
クモ怪人に怒鳴られ、戦闘員たちはそそくさと撤退する。
「あ、あいつら……!」
「どうやら復活したようだね……」
グリーンセイバーがいち早く反応し、ピンクセイバーが呟く。
「復活って……なんだか厄介そうだな~」
イエローセイバーが自らの後頭部を抑える。
「しつこい奴らだぜ! おらあ!」
レッドセイバーが強力な攻撃を立て続けに放つ。
「があ!」
「ぎあ!」
「ぐあ!」
「げあ!」
「ごあ!」
怪人たちは豪快に吹っ飛んでいく。ブルーセイバーが冷静に呟く。
「再生怪人の類は弱いと相場が決まっているものです……」
「……ほう、これは俺たちが相手する価値があるようだな……」
ローブを身に纏った四つの影がその場にパッと姿を現す。イエローセイバーが驚く。
「な、なんだ⁉ いつの間に⁉」
「新手か! 今度は自分が!」
グリーンセイバーが素早く飛びかかる。
「ふん……!」
「がっ……!」
ローブから虎の顔を現した者の拳がグリーンセイバーのみぞおちに入り、グリーンセイバーはその場に崩れ落ちる。虎の顔の者が呟く。
「スピード差は予測で補えるぜ……」
「グ、グリーンセイバー! はっ⁉」
「あら、失礼、ピンクは好きな色だから、つい……」
ローブから鳥の顔を現した者のくちばしが、ピンクセイバーの左肩を鋭く突き刺す。ピンクセイバーはその場にうずくまる。鳥の顔の者が周囲を見回して呟く。
「さて、お次は誰にしようかしら……」
「く、くるなら来い!」
イエローセイバーが身構える。
「むん!」
「がはっ……!」
ローブから亀の顔を現した者の体当たりが、イエローセイバーを襲う。イエローセイバーは後ろに倒れ込む。亀の顔の者が苦笑気味に呟く。
「なんだ、その図体は見かけ倒しか……」
「み、皆さん! ……はっ⁉」
「せい!」
ローブから竜の頭の顔を現した者の爪による攻撃を食らい、ブルーセイバーは倒れる。
「て、てめえら! うおおっ!」
「‼」
レッドセイバーが四人に反撃し、四人を後退させる。
「逃げるな! ぐっ……⁉」
もう一つの影がレッドセイバーの隙を突く。レッドセイバーは膝をつく。もう一つの影はローブを被ったまま、四つの影に告げる。
「今日はあくまでも様子見だ、手負いの獣こそ恐ろしい。引き上げるぞ」
「ああ……」
もう一つの影は振り返り、戦いの場に駆け付けた美蘭の姿を認め、声をかける。
「侵入任務ご苦労、ミスコンプリート。貴様の動画が役に立った」
「……! ま、まさか、あなたたちが出てくるとは……」
美蘭は顔を強張らせる。五つの影はその場から姿を消す。そこには倒れ込んだベストセイバーズ五人だけが残っていた。ベストセイバーズ、初めての敗北であった。
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