偉大なる同志書記長の転生先はシベリア?!

彼らは己のため、国のため、正義のために闘い続ける
BIG・MASYU
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第11戦 メディア対スターリン②

公開日時: 2020年9月19日(土) 15:39
文字数:3,796

 ほう、討論か…

「で!本日、討論したいことは、ズバリ!君の存在だ」

 ピョートルは私を指差して言った。

「私の…存在?」

「あぁ、そうだ。ほら、だってスターリンってあれだろ。ソ連の時の一番偉い人でさ、いっぱい罪のない人を殺したんだろ?だから、そういうことをした人の物真似をしてYouTubeの場に出るのはおかしいんじゃないかってこと」

 はぁ。今、ピョートルが稚拙な言葉で私のことについて説明したが、ピョートルは恐らく私のことについては断片的なことでしか知らないのだろう。だから、こんなに舌足らずなのだ。

 私は嫌々ながら軽く頷いて、ピョートルに返事をした

「まあ、僕は司会者だから自分の考えを話さないよ。じゃあ、そろそろ始めようか!まずはどっちから意見を言いたい?」

 ピョートルが私達の方向と三人の方向に手を向けた。

「今のところは私からは何もない」

 私ははっきりとそう言った。なぜなら、それが私の本心だからだ!私には一片の非もない、だからこそ人からとやかく何かを言われる筋合いもない!

 すると、ダリアが自信ありげに手を挙げた

「じゃあ私から」

「どうぞ、ダリア」

 司会者はダリアを指名して、手を下げた。

「私はこの国がまだソ連を名乗っていた時に生まれたんですが、正直言ってあんな国最低ですよ!好きなことはできないわ、ご飯はないわ、国にずっと見張られてるわで。あなただって、あの時代に生きていたでしょう⁈なのに、何故あの国を作った連中であるスターリンなんかの物真似をするんです?正気の沙汰とは思えません!」

 ダリアは額にシワを浮かべながら激しく私のことを非難した。しかし、だからどうしたのだろうか、たしかに国民が困窮したのは事実だ。私だって国民の死には十分心を痛めている。だが、それは後のユートピアの建設に必要な犠牲だったのだ。許してくれとは言わないが、せめて理解してもらいたい。

 まぁ、こんな事を今ここで発言したら間違いなく社会的に抹殺されるな。

 私はすぐにダリアに反論を開始することにした。

「なるほど、つまりあなたはスターリン及び十月革命関係者の政策は失敗でしかないから、スターリンの真似をするのは間違ってると言いたいわけですね」

「ええ」

「ほう、ならばあなたは1941年のあの夏に、ナチスによって祖国が踏み荒らされても良かったと言いたいわけですな」

「なっ」

「だって、そうでしょう。第一次世界大戦や労働者のストライキでボロボロになったロシアを世界を席巻するほどの大国に成長させたのは誰ですか?」

「ソ、ソ連ですわ…」

「そうですね、つまり我々ボルシェヴィキ(ソビエト連邦共産党の前身)による国家の運営があったからこそ、ナチスにも対抗できたんです」

「むっ、むぅ…」

 ダリアは悔しそうに引き下がった。

 ふふっ、私の勝利だな。そもそも寄せ集めの知識で私とソ連について対決するのはやめていた方がいい、何しろ私はスターリン本人だからだ。しかし、この調子でいくと予想よりも早くに帰れそうだ。

「ちょっと私がいいかな」

「どうぞ、マクシム」

 マクシムが挙手し、ピョートルが発言権を与えた。

「しかしながら、スターリン…さん?スターリンのせいでナチスの軍勢をモスクワまで迎え入れる事になったとも思えるんだが、その点はどうかな?」

 ほう。なるほど。……もう少し具体的に話を聞いてみるか。

「もう少し詳しく話を聞いてみたいですね」

 私は控えめに言った。

「いいですよ。たしかあなたは優秀な政治家や高級将校を大粛清により、何人も処刑したり強制収容所やシベリアに送ってますね。だから独ソ戦の初期は大敗退したんじゃないですか?」

 うぐっ、中々痛いところ突いてくるな。だがまぁ、反論できないわけではない。

「ソビエト連邦という社会を維持するためには仕方なかったと思われます。何せ、あの国力をつけるという大事な時期に革命でも起こされたらたまりませんからね」

 私は自信満々に反論の弁を語った。だが、マクシムは引き下がらなかった。

「だとしても100万人はやりすぎでは?」

 うっ………そうきたか。しかし、誰がいつ裏切るか分からないという状態で、一人一人調べ上げて慎重に粛清していくなど無理に決まっているだろう。

 とにかく、あの時は時間がなかった。経済政策も上手くいかず、国際社会からは爪弾きものにされる中、来るべき戦争の日に向けて国力を高めないといけなかったのだから。

 本当はこいつらを含めた生放送の視聴者にこういう事を伝えたいのだが、そういう訳にもいかないしな。であるからこういうことを喋る他無い。

「まぁ、確かにそこまでやる必要はなかったかも知れません。しかし…第二次世界大戦の直前に国が分裂することよりは幾らかはマシだったんじゃないですか?」

 さあ、これでどうだ

「…………」

 流石にこの反論は厳しいか?いやしかし、今の私の、本心を伝えたいという思いとこいつらになんとか反論したいという思いに挟まれている立場からすればベストアンサーだと思うがな…

 だが、もし私がマクシムの立場だったらきっと納得しないだろう。

「まあ」

 マクシムがおもむろに口を開いた。

「私はソビエト連邦という国の全てを頭ごなしに否定する気は無いよ。例えば、ゴルバチョフ政権の時なんかは比較的まともな国だったと思うからね」

 マクシムが穏やかにそう話すと、ダリアがヒステリックに話に参入してきた。

「まあ!とんでもないわ!マクシムさんはそんなことを思ってらっしゃったの?」

 ダリアの感傷的な言葉を受けてもマクシムは平然としていた。

「そうだよ、ダリアさん。悪いかい?」

「悪いかいって……」

「ヘェ〜、マクシムはそんなことを思ってたんだ。知らなかったなぁ」

 ピョートルが頷きながら言った。

 ダリアはマクシムが自分と意見が違うのに驚いたのか、マクシムを微弱ながらも攻撃し始めた。

 おや、段々騒がしくなってきたな。私はほくそ笑んだ。しかし、マクシムは私に食い下がって反論すると予測していたのだがな意外だ。私の中でマクシムへの好感度が上がった。そして、じょじょに会場がザワザワとし始めた。

 ダリアとマクシムが仲間割れしている以上、討論の方向は大分私に有利に向いている。ふふっ、これは私の勝利だな。中々、楽しめたぞ。

 私は確定事項となった勝利に酔いしれ始めた。だが、そんな中、生放送が始まって以来ずっと喋っていないあの男が遂に口を開いた。

「だから、マクシムさん。ソ連は存在自体g」

「ちょっと待ってください!」

 ヴィルヘムが会場に向かって怒鳴った。

「スターリンの政策がどうのこうのということが問題じゃなくて、スターリンが2000万人以上も人を殺しているのに関わらず、今僕と同じスタジオにいる男がスターリンに扮して世間を賑わせてるということが問題じゃないですか? 違います?」

 会場が水を打ったように静まりかえった。

 ヴィルヘムの身振り手振りがついた発言によって、ダリアは我に返ったのか、席から飛び出そうだった自分の姿勢を正した。そしてダリアは口を開いた。

「そ、そうですわ。問題はそれよ」

 ダリアに続いてマクシムもヴィルヘムに賛同した。

「まあ確かに問題はそれですな」

「ふぅ、二人とも理解してくれて嬉しいです」

 ヴィルヘムは二人に礼を言ったが、その顔は笑ってはいない。しかしまぁ、一時は仲間割れしそうになっていた三人はヴィルヘムによってまた一つに結束したということか…。くそっ、一瞬で風向きが変わったな。奴のせいで、止まりかけた歯車がまた回り始めた!

「で、お答えいただけますか。あなたはスターリンに扮する事についてどう思うんです?ス・タ・ー・リ・ンさん」

「………」

 なんなんだこいつは。しかし、討論の主導権をまた取られてしまったな。こうなったら、私はスターリンとは別人であるということを前提とした上で、スターリンが現代に与える影響についての理論を展開せざるを得ない気がするな。よし……この方法で反撃を開始しよう。

「いや、まぁ、私はスターリン本人ではないので私とスターリンを完全に重ねるのもおかしいかとおm」

「知ってます」

 ヴィルヘムはすぐさまツッこんできた。

 口を挟むのが早くないか? 悪態をつくにしても、せめて話しを全て聞いてからにしてほしいんだが。大体!こっちは自分が自分じゃないと否定してまで反論しようとしたんだぞ!

「早くあたし達の質問に答えていただけますか?」

 ダリアまで調子に乗って私を問い詰めてきた。

 ……まずい、押されている。こういう話が通じない相手にはどう反論すればいいのだ?やはりきっぱりとスターリンに扮するのは問題ではないと言うべきか?しかし、そうなると理由を聞かれると思うがどうしようか? マクシムはともかくこのヴィルヘムとダリアは共産主義的な思想に対して、良いイメージなど1ナノメートルほども持っていないからな。

 私がこういう風に悩んでいると、私は今が生放送中だということをしっかりと意識しているためかじわじわと焦りはじめた。さらに、その焦りから緊張が生まれ、現在の状況を打破する障壁となった。

 まずいぞ、時間が経過していく度に脳が正常な判断を下せないようになっている。

本当にこれは一体、どうすれば…




「あ、あのスターリンさんを批判するならチャップリンはどうなるんですか?」 




 私が何も答えられずにいる最中、完全に私だけが孤立しているこの会場に突如友軍が現れた。

 その名前はヤーコフ・プラウダだ。

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