せめて週末更新を目指してますが、明日の分上がってない……
その日私とジュリアはぐったり疲れきって帰宅した。
言わずもがな、先刻言われた妖精祭の件である。
なんでもその妖精祭とは、一年生の女生徒なら身分や成績等を問わず候補となることが可能であり、また自薦他薦を問わず参加が可能である。
「す、推薦された生徒に拒否権は?」
思わず、といった程で身を乗り出して尋ねるジュリアに、
「ない」
「ありません」
とエリオスとレナートが無常にも声を揃えさらにはレナートが、
「そもそも辞退した・または辞退を希望して来た、という記録は残っておりません」
と付け加え、
「他薦が自由なのに辞退が不可というのはおかしいのではありませんこと?」
とジュリアが切り返したが、
「伝統あるアカデミーの行事の一環ですから」
「まあ、あまり構えず楽しめば良いと思うが?」
王子とその側近はにべもなかった。
そもそも問題の妖精祭とは、先に推薦を知らせておく場合もあるにはあるが、それは元々親しい者同士のごく一部に限られ、基本は当日当人の前で「貴女を妖精女王の玉座にお連れします」と宣言し、その女生徒の手を取り、手に手をとって玉座に向かうのだとか。
「__(その不埒者の手を)取りたくない場合はどうしますの?」
少々纏う雰囲気が物騒になってきたジュリアが問う。
「“他に手を取る方を決めている、または約束している“などの理由で断る場合もあるが、相手が手を取らなくても魔法で直接触れずに運ぶことは可能だ。そもそも周りの生徒が“相応しくない“と思えば妨害は顕著になるし、逆に誰もが“相応しい“と思われる生徒の場合周囲から助けが入る全校生徒参加型のイベントなんだ。だからこそ盛り上がるし、その後の夜会も思い出深いものになるだろうという無礼講な祭りなんだよ」
「趣旨はわからなくもないけど……」
「学生のうちだけの無礼講って言えば確かにそうかもしれないけれど……?」
勝手に人を運ぶ祭りって酷くない??
私とジュリアは項垂れ、「「なんてはた迷惑な」」と異口同音に呟いた。
が、
次の瞬間、
「そうだっ!」
とがばりと起き上がったアリスティアが叫んだ。
「カイルに相談しましょう!」
傭兵経験もあり、訓練された兵士からさえ逃げたこともあるだろう彼なら、魔法が使えるとはいえ生徒から数時間逃げ切るくらいわけないだろう。
「と、いうわけで、何かアドバイスをいただけませんか?」
100%宣言されると決まってるわけではないが、"複数の妖精の祝福持ち"の令嬢の価値が高いことは既に身を持って思い知っている以上、こんなイベントに下準備なしに挑むのは危険だ。
理由を話して切り出した私の顔をまじまじと見たカイルは、
「……あんたも大変だな」
と同情するように告げ、次いで、
「アドバイスしてやりたいとこだけど、相手は妖精を味方に付けた魔法使いなんだろ?俺は魔法使いじゃないし、この国ならどこにでも妖精はいるから勝手が違う、隠れてやり過ごすのは難しいし、かといって叩きのめすわけにもいかないんだろ?」
「そうですね、本来なら叩きのめしたいところですが妖精からの愛と祝福を謳った祭りでは不味いのでしょうね?」
妖精は可愛いらしいと思うしこの国も嫌いではないが、流石にこの行事はご勘弁願いたい。
「出来れば叩きのめしたいって、見かけによらず過激だよなあんたって。因みに逃げ切るってどのくらいの時間だ?」
「えぇと、聞いた話だと
妖精祭の開催はまる一日かけて行われるが、午前中は開催セレモニーに始まり、この国に伝わる妖精譚を準った演劇が生徒会役員を中心とした有志の生徒たちにより上演される。
演劇終了後に昼食休憩に入り、女王選びは午後一番に始まる。
昼食休憩の終わりと共に、現女王の生徒からスタートが発されると同時に参加者は動き始めてOKであり、開始合図前に動き始めると失格となる。
魔法の実力・応用力等を見せ合う側面もあるため女王のエスコートを買って出るのは総じて魔法の得意な生徒であることが多く、エスコートに名乗りを上げない生徒も気に入った方を応援することで参加し盛り上がる。
各クラスも出店等の参加をしているが、近くでエスコート組がやり合い始めると店番そっちのけで熱くなって応援に加わる。
時間はきっかり夕方五時までで、それより前に玉座に辿り着いた生徒がいた時点でも終了。選ばれた女生徒はその場で前女王からティアラを継承し、それを身に付けて夜会に出ることが出来る。
このティアラは妖精祭が始まった年に当時の王妃より賜ったもので、これを被って夜会に出席した娘には栄華が約束されると伝えられていて、女生徒たちの憧れの的となっている。
因みに今まで時間までに玉座に辿り着かなかった例はなく、ほぼ同時に辿りついた生徒同士がさらに玉座の前で争う例はままある。
__という祭りらしいです」
ミスコン+神輿担ぎ+文化祭、みたいな?
ジュリアは再度ため息をつき、
「“辿りつかなかった例はない“ってとこに作為を感じるわよね?」
うん、私もそう思う。
おそらく終了間際には罠が解除されたり妨害が減ったり、救済措置があるんじゃなかろうか?
でないと盛り上がらないもの。
カイルはしばしの沈黙の後、
「平和だな」
とポツリと言った。
まあ確かに平和でなければこんな祭りは開催されないだろうし、平和なのは良いことである。
良いことではあるが、その気のない人をイベントに巻き込んじゃいけないとも思う。
故に私は、当日「メイデン嬢!貴女を妖精の女王として__」と言って来た男子生徒に「お断りします!」と相手が言い切る前に返し、その場を逃げ出した。
大勢の物見高い生徒がいるであろう廊下ではなく、窓の外に。
今日は学内中が物見高い生徒で溢れている。
その彼らの“応援“とは私が捕まり、玉座とやらへ連れていかれること。
つまり、全員“敵"である。
だったら生徒のいない所、来られない場所にいればいい。
ーーそれが私とカイルの出した結論だった。
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