ゲームから離脱したヒロインは異国の地にて完全撤退を目論む

詩海猫
詩海猫

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公開日時: 2021年11月13日(土) 18:19
更新日時: 2021年11月14日(日) 23:50
文字数:2,653

あとがきが前後してました、ごめんなさい。

「いらっしゃいカイル!」

放課後家に着くと、居間で(多分、きっと、おそらく?)くつろいでいるカイルが目に入り、真っ先に挨拶する。

「……あぁ、お邪魔してる」

出されている軽食がそれなりに減っていることから、ある程度の時間を過ごしていることが窺える。

あの後妖精たちは「カイルの好きなものを調べてくる」に留まらず、彼本人をうちまで連れて来てしまったのだ。

無理矢理引っ張ってこられたカイルはすぐに帰ろうとしたが、

『ダメ〜!お茶会するの!』

『お菓子も食べるの!』

「お前らが食いたいだけだろ!俺を巻き込むな!」

『お酒も出るよ!』

『お酒のアテも出るよ!』

「………」

『アテ、あて……?』

『アテってなに?』

『知らな〜い、居酒屋で飲んでるおじさん逹が言ってた!“お酒にはこのアテがさいこう“とかって!それで覚えた!』

「……言葉は覚えても意味は覚えてないんだな」

そのやりとりを見て申し訳ないが吹き出してしまい、慌てて顔を逸らせて口元を手で覆ったが、

「で?ほんとにアテとやらは出るのか?」

と半ば諦めた顔で訊ねられたので、

「はい、もちろん。沢山用意させますので好きなだけ召し上がって下さい」

と笑いながら答えると、

「わかった、お言葉に甘える。だから離せお前ら」

溜息をきながら自分の服を方々から引っ張ったままの妖精たちに言い、

『わ〜い、お茶会〜!』

『ごちそう!』

『アテって、ごちそう?』

「使うなら意味を理解してから使え、妖精」

ぶっきらぼうな口調で声も低いのに、妖精たちが周囲をキャッキャ キャッキャと飛び回ってるのでまるで緊張感がない。


故に、とんでもなく強い人だとわかっていても怖さはまるで感じなかった。

その日の食事会で改めてお礼を言ったが、

「別にここまで改まって礼をする必要はない」

と言われ帰り際には、

「ご馳走さま。___ていうか、すまなかったな。こいつらまで派手に飲み食いしてうるさかったろ?また食べに来たら追い返して良いからな」

と言われたのでもうこの家には招いても来てくれなそうだと思ったのだが、

『ひど〜い、友達なのに!』

『友達はお菓子もらえるんだもん!』

「一方通行に友達認定して食い物ねだるな。俺のとこでもさんざん食べてるだろう」

『カイルのとこお菓子のバリエーション少ないんだもん〜!』

『このおうち甘くてかわいいお菓子いっぱいなんだもん〜!』

「それはこの家のお嬢様に祝福与えてる妖精の分だろうが、物乞いみたいな真似してると潰すぞ?」

容赦ない物言いに顔を青くした妖精たちだったが、

『僕たち、虫じゃない……』

『潰さないで〜…』

と嘆く姿が可哀想で、

「お菓子くらい、食べに来ても」

と言い掛けたら、

「いや、こいつらを甘やかせば際限なく増長する。毎日台所を引っ掻き回されることになるぞ?」

「えぇと、だったらカイルさんも一緒に来たらどうでしょうか?たまに食事に来られる代わりに、この町のことや危機回避の仕方とか、私達に教えていただけないでしょうか?」

「___は?」


何言ってるんだコイツ、という顔をしながらも結構な頻度で(主に妖精に引っ張られてだが)、我が家に顔を出しては私とジュリアには近づいてはいけない場所、マリー逹には信用できる店の見分け方、時間のある時には護衛たちに稽古をつけてくれたりと律儀な付き合いを続けてくれている。

妖精があれだけ懐いているのだから当たり前だが、本当に面倒見が良くて良い人である。

最近では我が家の使用人も来たら大歓迎なていでもてなしている。

私も例に洩れず、帰宅して来た時に姿を見たら「ただいま」でも「来ていらしたんですね」でもなく、

「いらっしゃい!」

と声をかけることにしている。

ついでに名前にさん付けも仰々しい言葉使いも話しにくいと本人が言っていたので呼び捨てにしている。


そして彼は今日も自分の周りを飛びまわる妖精の姿を無視してソファでお茶を飲んでいる。

まぁ、妖精の方は“かまって構って!“と言わんばかりにカイルの服や髪をちょこちょこ引っ張っているのだが。

あまりしつこくすると超絶不機嫌に「潰すぞ?」と言われるのでそうなる前にやめている。

ちゃんと日々調教教育(?)されてるんだなぁと感心しながら向かいに座ってお茶を飲むのが日常化してきた頃、事件厄介ごとは起こった。


アカデミーでの休み時間に突然王子が宣ったのだ、

「もうすぐ妖精祭がある」

と。

「「妖精祭?」」

全然ピンと来ない私とジュリアに対し、

「ああ。冬休み前の一大行事で我がアカデミーにしかない催しだよ、生徒たちが妖精と協力して様々な魔法を駆使し次の妖精女王フェアリークイーンを選ぶんだ。もちろん学内限定だけど、選ばれた生徒はその日から一年間学内では女王クイーンとされて翌年の妖精祭で次代に役目を引き継ぐんだ」

((それはまたご大層な__))

私とジュリアは目を見合わせる。

生徒をフェアリー・クイーンとして選ぶとは、選ぶ方もだが立候補する方もなかなか強心臓__、いや皆まで言うまい。


「確かに他では聞かないお祭りですね。どんなお祭りですの?」

「生徒が相応しいと思った女生徒を女王の玉座まで運ぶというか連れて行くんだ。もちろん玉座までの道のりには様々な罠が仕掛けられていて簡単には進めないし、他の候補を連れた生徒からの妨害も入る。それらを鮮やかに交わし、一番先に玉座に女王をエスコートした者に女王から花冠が贈られ、その夜の舞踏会で女王とその騎士としてファーストダンスを踊ることが出来る」

「まあ……」

驚いたように声をあげるジュリアに全然興味が湧いてないのは見ればわかる。

まあ、私も「なんだその公開処刑羞恥プレイは?」としか思わないけど。

だがこのアカデミーは二年制だ、来年継承ということは。

「女王候補は、一年生だけなのですね?」

「ああそうだ。今は二年生のフロリア・オグノワ嬢が女王で今年開催のスタートは彼女が行う」

「そうですか……」

“妖精の女王“って聞くとなんだか凄く壮大なイメージ湧くけど、聞いた限りでは前世でいうところのミスキャンみたいな感じだ、それもよくは知らないけど。

私たちの反応が期待外れ(?)だったのか、

「まあ、儀式的なものも含むとはいえアカデミーを挙げての催しだし、この時期の生徒は浮足だっている」

でしょうね、そんなテンションアゲアゲイベントを前にしたら。

「貴女こそ自分にとって女王だと、これを機に意中の生徒に告白する者も多いと聞く」

一種の学園祭フィルター効果ですね。

「えぇと……、一応伝えておくが__女王候補は自薦他薦を問わないから、自分が参加することになった時のことも考慮しておいた方が良いと思うよ?」


なんですと?

















妖精祭……妖精まつり?ヨウセイサイ?どっちが良いんでしょうね?

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