ゲームから離脱したヒロインは異国の地にて完全撤退を目論む

詩海猫
詩海猫

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公開日時: 2021年9月5日(日) 14:06
更新日時: 2021年9月5日(日) 23:52
文字数:2,277

尤もあのエリアス王子は見かけこそロイヤルプリンスだが普段は割と気さくで、ランチタイムにしても一般生徒に混じって大食堂やテイクアウトして屋外で食べたりと割と庶民的であるし、周囲もそんな王子と近い感じで付き合っている。

あちらでは顕著だった身分云々もないし、今のところ問題はないが__

「あの王子、なんで婚約者がいないのかしら……?」

第二王子であるエリアスも、兄の第一王子にも婚約者がいない。

この国ならば「出来るだけ高位の妖精の祝福がある女性を」とかの条件がありそうだが、それなら尚更アカデミー内で見繕えばいいと思うのだが、もう二年の後半のエリアスにそんな様子はない。

いつも男子生徒仲間とつるんでいる。

そして今日は「妖精の友達は出来たかい?」と訊いてきた。

「まさかね……」

夜の寝室で、ジュリアは一人ごちた。





「__彼女なら、かなり高位の妖精の祝福を受けそうではないか?」

「まあ、確かに。彼女自身見た目が妖精じみてますし、妖精の好みは見た目に左右されることもままありますからね」

エリアスの言に、側近を兼ねる学友で侯爵家の子息のレナートは是と答える。

幼い頃からエリアスの側近となるべく育てられた幼馴染で親友でもある。

「おまけにあれだけの魔法を無詠唱で扱うのだ、さぞ素晴らしい使い手に育つだろう、楽しみなことだ」

「ええ。ですから尚更不思議です、何故あれ程の人材をレジェンディアは手放したのか……」

「私も最初不審に思ったが本人達の強い希望というのは間違いではないらしいな、見ている限りでは」

「見た目もあれだけ美しい少女達です、スパイかハニートラップ要員かとも思いましたが__バーネット家は各国でも名高い商会の経営者でもあります。令嬢が見聞を拡げるというのはわからなくもないですが」

「ふむ。メイデン男爵も切れる男でメイデン領は栄えていると聞くし、あの家は男子がおらず娘が三人だというから、一人を他国そとに嫁がせる算段なのかもしれないな」

ジュリアの懸念通り、明後日の方向に分析された上でがっつりロックオンされていた。




悪い予想とは当たるもので、それから数日後、アリスティアはたまたまジュリアから離れたところを女生徒達に囲まれていた。

綿密に練っていたとみえて、人目のつかない学舎の裏手に連れてこられたアリスティアを壁際に囲んで立った女生徒達は全部で八人。

四人はこちらを睨みつけ、四人は背を向けて立ち話をしているように装って見張りをしている。

彼女らに隠れてアリスティアの姿は誰か通りかかっても見えないだろう。

アリスティアは怯えるでもなく、(久しぶりだなー、この感じ。)と感心して相手を観察していた。


中心人物は言わずもがな、王子の婚約者候補と言われている公爵令嬢である。

(えーと、確かエレーネ・モルトワ、モルトワ公爵の娘で火の妖精の祝福と土の妖精のお友達がいるんだっけ?で、幼少の頃から王子の後を追っかけ……いや熱心に追い回し……あれ?あまり変わらない……)

う〜んと唸ってしまうアリスティアの脳内など知るよしもないご令嬢with七人の取り巻きの皆様はアリスティアがすっかり怯えて縮こまっていると思い込み、

「目障りなのよ貴女!!エリアス様だけでなく毎日違う男子生徒達に声をかけられているからっていい気になり過ぎじゃなくて?!」

「そうよ!ちょっと綺麗で魔力が強いからって調子に乗るんじゃないわ!」

「よそ者のくせに!」

「まぁ皆さん落ち着いて?そう、所詮はよそ者__もうここに来て一ヶ月になるのに、貴女妖精のお友達すら出来ていないのでしょう?」

(取り巻きにひと通り言わせてからご本尊悪役令嬢サマ登場とか__台本とか作ったのかなぁ?)

「そんな子に熱くなってしまっては私達の恥、ひいてはエリアス様の恥」

(じゃあなんでわざわざ呼び出してんだ__て、コレ言うためにわざわざ仕組んだんだろうなぁ公爵令嬢って暇なの?)

「良いこと?二度とエリアス様の周りをうろうろしないで。身の程を弁えなさい?そして出来ることなら国元にお帰りなさいな、でないと__」

ポ、とエレーネの手元に火が灯る。

「!」

これには流石にアリスティアも身構える。

「私の可愛い妖精さんが暴走してしまうかもしれなくてよ?」

__すかさず水魔法を発動させる為に。

「まぁ、そんなに縮こまらないで?私は優しいからせいぜいその金の髪を赤い縮れっ毛にするくらいで許してあげてよ?」

妖精の補助がどの程度の効果をもたらすかわからないが、エレーネは一級生ではない__自分の魔法だけで対処出来るはずだ。

どうせなら全員の頭上に派手に浴びせてやろうかと思ったところに、目の前に急速に光が集まりだした。


「なっ……」

この現象にはエレーネも驚いたらしく、動きが止まる。

アリスティアもあまりの光量に一瞬目を閉じたが、次の瞬間、光が声を発した。

『この子をイジメちゃダメーーっ!』

『あたし、この子気に入ったんだから!友達になろうとしてたのに!』

『ボクもだよ!この子の周り、光と魔力がいっぱい!あと良い匂い!』

『キラキラして可愛い!』

「妖、精……?」

(初めて見た……)

目の前の光は妖精の群れ(?)だったらしく、自分とエレーネの間を遮るように浮かんでエレーネ達を責め立てた。

「こ、こんなにいっぺんに妖精が集まるなんて……」

「そんな、嘘だわ……この子は妖精に嫌われてるんじゃなかったの?」

青ざめてそんなことを言い合う令嬢達に、

『そんなわけないじゃん!!』

『いじわるキラーイ』

『王さまたちに言いつけてやる!』

「ま、待ってそれは……!」

慌てたエレーネの声に被せるように、

「何の騒ぎだ」

涼やかな声が割って入った。
























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