ゲームから離脱したヒロインは異国の地にて完全撤退を目論む

詩海猫
詩海猫

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公開日時: 2021年8月29日(日) 00:09
更新日時: 2021年9月2日(木) 17:19
文字数:2,046

ブクマして下さった方に祝福を。

妖精が普通にいる国。

そんな国があるなら、乙女ゲームに出てきてもおかしくないのにカケラも掠った覚えがない。

ついでに留学候補の国の情報を集めている時もなかなか情報が上がって来なかった。

フェアリア王国が外に出る情報を極端に制限していたからだ。

まあ、確かに妖精の住処を守るなら人の出入りは少ない方がいいだろう。

そのお陰で絶大な国力を誇るレジェンディアの息もほとんどかかっていないのだ    ーー

そんな国があるなんて。

今回の留学もジュリアの実家 ・バーネット家が手広く事業展開してるお陰でどうにか許可が降りた感じだ。

__あともうひと押し、してくれた人がいるのだけど。

そこについてはあまり深く考えないことにしている。






翌朝、私とジュリアは真新しい制服に身を包んでフェアリア王立アカデミーに初登校した。

学長に挨拶した後、薬草学の担当教師だという女性教員に学舎を案内される。

特別授業用講堂を兼ねたセレモニーホール、体育館、図書室、食堂、カフェテリア……、大まかにはレジェンディアの魔法学園と大差ない。もちろん建物の意匠などは全く違うが。

どこも空間を広く使っていて気持ちがいい。

「素敵ね」

アリスティアがほぅ、とため息をつくのを横目に「……えぇ」と答えながら(色々目に毒だわね)とジュリアは心中でごちた。

この国は妖精を神聖視するあまり、身分差による差別は少ないがその分妖精に馴染みのない余所者に厳しいと聞く。


さて、どんな洗礼を受けるのか。

「じゃあ、そろそろ授業の見学に行きましょうか、今日編入生の見学があることは伝えてあるから」

女性教員__名前はケイトリン・マデラというらしい__に言われ、ピン と背筋が伸びた。


「まずはここからね、魔法の実技場よ。今は一級生の授業中だから是非見ておくといいわ」

この王立アカデミーは二年制だが、魔法、妖精学、薬草学など一部の科目については等級制を取っている。

新入生は十級から始め、毎月ある等級試験に臨んで卒業までに一級を目指す。

卒業の初春を待たず現在一級ということは成る程確かに優秀なのだろう。

防御魔法を施したガラス越しに見れば十人ほどの生徒達が様々な魔法を展開している。


どの属性魔法もひと通り見たことのあるものばかりではあるものの、ひとつだけレジェンディアと違うところがある。

どの生徒の傍らにも、妖精が飛び回っている。

水魔法で展開されている小さな噴水の中には良く見れば人魚みたいなのが飛び跳ねてるし、火魔法では火の輪潜りしてるし。

聞いた通り、この国と妖精との距離は随分と近いらしい。

使われている魔法自体は単純だが、驚きに目を瞠るジュリアの横で、

「……可愛い」

ぽつりとアリスティアが零した。


二人の純粋な反応に満足したのか、マデラ先生が口を開く。

「貴女達は魔法の等級試験を受けるつもりはあるのかしら?」

「「はい」」

もちろんそのつもりだ。

妖精学も気になるが、自分達は一人前の魔法使いになる為に来たのだ。

「……ならちょっと参加してみてはどうかしら?」

「「え」」




「なんでもいい、得意な魔法をやってみてくれ」

どうしてこうなった。

なんでも途中編入の私達は「毎月行われる進級試験を今まで受けていない」ため、「卒業までに一級に上がれる可能性が減ってしまう」のは望ましくないので、「現在の魔法力を正確に把握」した上で何級から始めるか検討してくれるのだそうだ。

だからといって何故いきなり一級の練習場に放り込むのか とも思ったが、

「万が一魔法が暴発しても問題がないように」だそうだ。


(だからってこれじゃ、公開処刑じゃない)

ジュリアは心中で突っ込みつつ周囲を観察する。

目の前に居並ぶのは担当教師と助手、それに一級の生徒は男子生徒が八人、女子が一人に言い出しっぺのマデラ先生の十二人。

教師の表情は“純粋に実力を測ってやる”というものだが、男子生徒がほぼ全員アリスティアを見るなり目を見張った後顔を赤らめたり慌ててそっぽを向いて取り繕ったり、はまあ想定内の反応だが中には数人、僅かな敵愾心に似た目を向けてくるものがいた。


ついでに言えばきらきらしい金髪に空色の瞳であどけなさを漂わせるアリスティアに対し、赤い髪と切れ長の瞳の自分とでは見た目がキツい私の方がこういった視線をまず向けられやすいが、アリスティアをロックオンされるよりはいい。

望むところだ。

「編入生のジュリア・バーネットです。私からやらせていただきます」

一歩前に出て、すぅ と息を整えた。




数分後、実技場は静まり帰っていた。

ジュリアが披露したのは火魔法だったが、足元から高さ十メートルはある巨大な火柱だったのだ。

円形も二メートルはありそうなそれは確かな攻撃力を感じさせて全員が全員固まってしまったのだ。

「どうでしょうか先生?」

「み、見事だ……!火魔法が得意なのだな?じゃあ次は、」

ちら、とアリスティアに目をやる。

その目は「こんな凄い魔法を見せつけるなら後にした方が良かったのでは、二人目の彼女が気の毒なのでは?」と言っていたが全くもって逆である。


真打ちは、アリスの方だ。























片手でも書けなくはないけど負荷がでかいですね……

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