ゲームから離脱したヒロインは異国の地にて完全撤退を目論む

詩海猫
詩海猫

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公開日時: 2021年9月6日(月) 17:10
文字数:2,185

王子の個人的な執務室を兼ねた私室だというこの部屋は現在ごった返していた。

主に大量(?)の妖精のせいで。

「ふむ。それで君たちが助けに入ったというわけか」

妖精たちが騒いでいるのに気がついて駆けつけたというエリアスはまず妖精達から話を聞いていた。

『そう!』

『金色の女の子を大勢で囲んで壁に追いつめてたの!』

『金の髪、赤く燃やしてやるって言ってたの!』

「__この妖精達の言に相違ないか?モルトワ公爵令嬢」

「エ、エリアス様!私はちょっと脅かそうと思っただけで燃やそうなどとは……!」

『ウソつきー!赤い縮れっ毛にしてやるって言ってた!』

『言ってたのー!!』

「__と、妖精達は言っているが?」

「そ、それは言葉の綾で……!」

『片手に炎出してたくせにー』

『金の女の子怯えてたー』

(怯えた覚えはないんだけど?)

まあそう見えたのなら放っとくが。

「他には何か言っていたかい?」

『あとエリアス様に近づくなーとか』

『よそ者は国に帰れとか〜』

『お前に構うのなんか自分もエリアスも恥だとかゆってたー』

『ゆってたゆってた〜』

『すっごい怖いお顔で〜』

エレーネははらはらと涙を流して「違う」「そんなつもりじゃなかった」と訴えていたがエリアスはもう聞く気にもならなかったらしく、

「この妖精達の証言に相違ないか?メイデン嬢」

と今まで完全放置だったアリスティアに急に水を向けてきた。

「はい、概ねその通りですね」

アリスティアも一言一句いちいち説明する気はなかったので、細かい差異を指摘する事なく頷きを返す。


「まさか、校内でこんな愚かな真似を公爵令嬢がするとはな」

「お、お許しくださいエリアス殿下っ!私はただ、」

「貴女が謝るべきは私ではない、メイデン嬢と君に祝福を与えた妖精たちだろう?暫く停学を申しつける、家で謹慎しながら沙汰を待つが良い。__さて、後は君達だが」

エリアスの言葉にビクッと壁際に立たされていたwithセブンの皆様が頬を引攣らせる。

「君達もこのアカデミーで共に学んできたはずなのに止めもせず片棒を担ぐとは__」

「も、申し訳ありませんっ!エレーネ様があまりに必死で!」

「そ、そうなんですエレーネ様がおいたわしくて!」

「妖精に嫌われてる子なら問題ないかと思ってしまって!」

__これは言い訳になってるんだろうか?

駆け付けてきたジュリアと共にふかふかのソファでお茶と菓子を供されているアリスティアは心中で突っ込む。

どうも、彼らの考えは妖精を軸にしているからかちょっとずれているような……にしてもこのお茶美味しいな、流石王子様専用室。


やがて彼女らにも停学を申し付けたエリアスが頭を下げる。

「済まなかったな、まさか彼女らが共謀してあんな悪辣な真似をするとは__」

「いえ。妖精さん達に助けていただいたおかげで怪我もしておりませんし」

そもそも自力で反撃するつもりだったので、とは言えないが。

「彼女らの実家からも相応の謝罪をさせる。それにしても__何故君たちは今まで姿を現さなかったんだ?」

エリアスの質問に一瞬顔を見合わせた妖精達は次の瞬間一斉に口を開いた。

『学校は他の妖精もいっぱいいるし〜』

『ここがおうちの妖精と鉢合わせしないようにタイミング待ってたんだけど〜』

『住んでる家まで付いてこうとしたんだけど〜』

『『『結界に弾かれて入れなかったの〜!』』』

「あ」

「あぁ……」

私とジュリアは合点がいった、という風に声をあげる。

確かにあの家には魔獣や害獣避け、それに悪意ある人間なんかを弾く魔法や住人の許可無しに入ってくる魔法使いを拒む陣まで、ありとあらゆる結界を施した。

だって安心して眠りたいし、同居してる使用人達の安全確保も家主の務めだし、留守の間になんかあっても困るし?

__けど、妖精まで弾くとは思わなかった、だから今まで姿を見かけなかったのか。


「ごめんなさい、あなた達を弾いていたとは知らなかったわ。改めて助けてくれてありがとう。お礼にあなた達さえ良ければ今日の放課後うちに招待したいのだけれど来てもらえるかしら?」

『しょうたい?』

『おうち入れる?』

「ええ、私やジュリアと一緒なら入れるわ。皆でお茶会しましょう?あなた達はどんな食べ物が好き?」

『甘いお菓子!』

『ベリーが好きなの〜』

『ぼくナッツの入ったやつ!』

『お茶も甘いのが良い!苦いのキライ!』

「わかったわ、たくさん用意しておく」

『わーい!金の女の子のおうちでお菓子!』

『放課後またね〜』

妖精達が小躍りしながら姿を消すと、アリスティアは急いで〝伝魔法〟で家の使用人たちにありったけのお菓子や甘いお茶やジュースの手配を頼んだ。ジュリアも同様にバーネット商会のフェアリア支店に配達の指示を出す。


その様子を最初微笑ましく見ていたエリアスとレナートは妖精達と戯れていた姿から一転、女主人の顔を覗かせて指示を飛ばす二人に感嘆することになった。

「見事な仕切りっぷりですね……」

「ああ、頼もしいな」

大量の菓子の買い付けが必要ならば助力しようかとも思ったが、必要なさそうだなと声をかけるのをやめたエリアスだった。


この日、沢山の妖精達と共に帰宅したアリスティアは五人の妖精から祝福を受け、二十人の妖精と友達になった。

よく一瞬でこれだけ集めるものだと呆れていたジュリアも『こっちの赤い女の子もきれいー!』『ほんとだ!私達と同じ色〜』と二人の火妖精から祝福を受け、三人の妖精と友達になった。






















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