穏やかな陽気に包まれた土曜日。大学生は基本的に受講する科目がなく休日であるのだが、部活やサークルなど諸々の所用でキャンパスを訪れる者は多いため、往来こそ疎らであるが校舎内はそこそこ賑わっているのが一般的である。帰宅部である茂良野聖那は、土日に大学に赴く用事はまず持ち得ないのであるが、今日は友人の倉吉紘未に呼ばれて午前中からキャンパス内へ足を運んでいた。
紘「よう、来たか聖那!休みのところ呼び出して悪かったなぁ!」
聖那がやって来たのは大学の校舎ではなく、校舎に付属している学校法人の総合福祉会館という施設である。長方形に長机が組み合わされた会議室のような部屋に、同じく呼び出された友人の鳥井千亜紀と安室春がすでに着席していた。
聖「別に何の予定もなかったからいいけどさ…明日も来なきゃなんだろ?いまから詳しく説明してくれるんだろうな?」
紘「もちろんだ。皆に集まってもらったのは、明日ここで行われる子供向けイベントの手伝いをしてもらいたいからだ」
私立紀尾井大学は某宗教系列の学校法人運営の下、チャペルや福祉センターといった施設も敷地内には存在しているが、そういった施設では学外の住民、例えば子供やお年寄りに対して娯楽イベントを開催することがあり、その企画運営を在校生が担うということも屡々あるとのことである。
紘「明日の企画は総務委員が主だってやっていたんだが、どうも準備がギリギリになりそうでな…当然、報酬はしっかり出すからな!」
千「学生を土日に働かせるなんていい身分やってんな、総務委員長さんよ」
春「で、イベントって何を考えてるのさ」
紘「企画しているのは紙芝居だ。昔話の『桃太郎』の紙芝居。子供には馴染みやすいだろう?皆には明日、紙芝居の朗読をやってほしいんだよ。他の委員とかは絵を仕上げたり広報したりで手一杯だから、準備を万全にするために朗読組を新たに呼んだってわけだ。今日はそのリハーサルってことで。ホラ、台本は出来上がってるからよ」
そう言って紘未はホチキス止めされた台本を3人に配布した。
聖「朗読かぁ…俺たちに務まるかなぁ」
千「大丈夫だろ、桃太郎ならよく知ってる話だし。子供相手なんだから楽しくやろうぜ」
春「僕はどちらかというと紙芝居のイラストを手伝ってみたいけど…まぁ総務委員長のご指名だし今回はこっちで頑張るか」
千「んで、肝心の配役はどうなってんだ?」
紘「ナレーターは俺がやるとして、基本的には桃太郎、犬、猿、雉、鬼がいればよかったはず。鬼役は後で遅れて来る石須賀に任せて、残りの4役をくじ引きで決めようや」
そのくじ引きの結果、桃太郎を聖那、犬を千亜紀、猿を紘未、雉を春が務めることになった。
紘「よし、じゃあ早速始めてみるか!ちゃんと録音も採るから、はっきり声が出てるか確認しながらやるぞ!」
春「うわ、ガチで詰める流れじゃん。今日は遅くなるんだろうな…」
聖「てかこれ、最初のお爺さんとお婆さんの台詞はねぇのか?大丈夫なんだろうな…?」
紘「それでは『桃太郎』、はじまり、はじまり~~」
ナ(紘)「昔々、人里から少し離れた山奥に、お爺さんとお婆さんが住んでいました。お婆さんはやや病弱ではありましたが、足腰の強いお爺さんに支えられて、仲良く平穏に暮らしておりました」
聖「…なんか脚色入ってるな。まぁアレンジ利かせるのはいいけど」
ナ(紘)「お爺さんは朝早くから目覚めて山に登り、日々生業としているしば刈りに勤しみます」
聖「…大丈夫?『生業』とかって表現子供に難しくない?」
ナ(紘)「最早プロの業とも言える芝刈りの技術は、ゴルフ場のシルバー人材派遣として雇用しておくには勿体ないくらいの…」
聖「いやいやいやちょっと待てーーーい!!」
千「なんだよ聖那、台本通りなのに何も止めるところなかっただろ」
春「開始早々小言も多いし、ばっちり録音に入り込んでるよ」
聖「おまえらは台本に何の疑問も感じねぇのかよ!?なんで昔話にゴルフ場出てきてんだよ!?『しば刈り』ってそっちの芝じゃないから!雑木の方の柴だから!!」
紘「あマジで?でももうこれで台本も紙芝居の絵も作っちゃってるし、いまから修正するわけにはいかないからな…まぁ取り敢えず一度通しでやってみてくれないか。別に台本そのままじゃなくて、おまえらも台詞アレンジしてみてもいいからよ」
聖「いや初見でアレンジって…まぁいいよ、話は一度最後まで進めてからだ」
ナ(紘)「…お爺さんが芝刈りに勤しんでいる間、お婆さんは近くの川へ洗濯をしに行きます。しかしこの日は奇妙なことが起こりました。なんと上流の方から、この世の物とは思えないほど大きな桃が、どんぶらこ、どんぶらこと流れてきたのです。こんなことは現実ではあり得ない。これはきっと良くないもので、下流の人里が騒ぎになるのではないかと、お婆さんは危惧しました」
聖「確かに普通に考えたらそうかもしれないけど最初から桃太郎の印象下げてく展開どうなの」
ナ(紘)「かくしてお婆さんは決心し、川に足を踏み入れて大きな桃を抱き寄せるようにガッチリと掴みました。しかし、夜中に降った雨で川の水量が増えており、流れも普段より早くなっていて、お婆さんはなかなか岸辺に戻ることができません」
聖「おいなんでそんな劣悪なコンディション設定にしてるんだよ」
ナ(紘)「このままでは危険だ…自分も一緒に流されてしまう…お婆さんは命の選択をしていました」
聖「いやそこ『洗濯』と掛けるなよ!?上手いこと言ってみたいだけじゃねーか!?」
ナ(紘)「芝刈りから戻ってきたお爺さんでしたが、お婆さんが洗濯から戻ってきていないことを心配して川の方に出向いてみると、川岸には世にも奇妙な巨大な桃が流れ着いており、その傍には川の寒さと水流で衰弱し倒れているお婆さんの姿がありました」
聖「お、お婆さーーーーん!!?」
ナ(紘)「お爺さんはお婆さんと桃を急いで自宅に引き上げました。お爺さんが巨大な桃を包丁で一刀両断すると、中から赤ん坊が元気な泣き声を上げて現れました。お爺さんはその子を桃太郎と名付け、お婆さんが自らの命と引き換えに護ったこの赤ん坊を大切に育てることを誓いました」
聖「えお婆さん亡くなっちゃったの!?やめてくれよ桃太郎に十字架を背負わせるのは!!」
ナ(紘)「そしてあっという間に時が経ち15年後、桃太郎は立派な青年に育ちました。そしてここまで育ててくれた恩返しのため、またお世話になっている人里のため、近隣で悪事を働く鬼を懲らしめるべく出立を決意するのでした」
桃(聖)「…ああ俺の台詞か…『お爺さん、俺は鬼を退治するために出発します。無事にこの家に帰ってこれるよう、見守っていてください!』…見守っていてくださいって何だ?」
犬(千)「おい桃太郎、いつまで爺さんの墓の前でぶつぶつ呟いてんだよ。さっさと行くぞ」
桃(聖)「えええええお爺さんも亡くなってんのかよ!?てかもう犬出てくんのかよ!?」
犬(千)「俺はおまえがこの家で桃から生まれたときと同じくらいの時期に爺さんに拾われてんだよ」
桃(聖)「めっちゃ老犬じゃん!?そんなんで鬼と戦えんのかよ!?」
犬(千)「…戦う力は俺にはねぇ。俺はおまえが鬼に仇討して爺さんを弔ってくれるのを見届けたいだけなんだ」
桃(聖)「仇討…?弔い…?お爺さんは鬼に殺されたってのか!?」
犬(千)「おいおい忘れたとは言わせねぇぜ?爺さんはあのゴルフ場のグリーンの芝を刈っている最中に、鬼が打ち込んだティーショットが脳天を直撃してそれが致命傷になったんだ…鬼に殺されたようなもんじゃねぇか!」
桃(聖)「理不尽な労災!!何なんだよその展開!?」
犬(千)「そうだ、普通は労災だ…しかし鬼が占領していたゴルフ場側はそれを認めなかった。客がティーショットしようとしてるのにグリーン上から退かなかった爺さんの自滅だって吐き捨てやがった。実際その鬼の客は朝一の定刻より大幅に早くスタートしていたらしいじゃねぇか。それじゃあいくら従業員が早朝に仕事をしていてもコースを整備しきれねぇ、迷惑して当然だ。況してや人間の従業員はゴルフ場側の扱いも粗雑だった…昔はパブリックコースで労働環境もしっかりしていたのによ」
桃(聖)「おい、これ昔話なんだよな?脚色どころか別の話になってきてるんだけど」
犬(千)「だから俺たちはこれからカチ込みに行くんだ…あの忌々しい『鬼ヶ島カントリー俱楽部』にな!」
桃(聖)「って鬼退治の行先ゴルフ場なのかよ!?」
犬(千)「ホラ、さっさとキャディバッグ担いで、爺さんの遺したきびだんご持って行くぞ!」
桃(聖)「爺さんの遺したきびだんごってこれ食べられんの!?食べても大丈夫な品質なの!?」
犬(千)「それは食いもんじゃねぇ…爺さんが丹精込めて拵えた飛距離抜群のゴルフボール『KIBI-DANGO』だ」
桃(聖)「ゴルフボールなのかよ!?てか普通にゴルフしに行く恰好じゃねぇか!?」
犬(千)「当然だ、あのゴルフ場から鬼を追い出すには正々堂々ゴルフで勝つしかねぇ。おまえも今日のためにしっかりゴルフの練習を積んできたはずだ。相手にとって不足はねぇ」
桃(聖)「桃太郎これまでゴルフ一筋の人生送ってたの!?お爺さんの弔いの為に!?」
ナ(紘)「こうして桃太郎は、老犬とともに鬼の占領するゴルフ場へと出発したのでした。重たいキャディバッグも何のその、意気揚々と担いで山道を歩いていると、道中で一匹の猿が木陰で郷愁に浸っていました」
聖「もうちょっと明るい出会い方はできねぇのか」
猿(紘)「おまえらその恰好…あのゴルフ場に行くつもりか。命知らずだな。あそこは最早鬼の巣窟だ。鬼以外の客なんざまともに相手しちゃくれねぇだろうによ」
犬(千)「その雰囲気…ただの猿ってわけじゃあなさそうだな、あんた一体何モンだ」
猿(紘)「俺か?俺は…『プロゴルファーだった』猿だよ」
桃(聖)「おいその表現大丈夫なのか!?何かに引っ掛かったりしないのか!?」
犬(千)「俺たちは…いや、この桃太郎はこれからあのゴルフ場を鬼の手から解放しに行くところだ。あんたも腕に自信があるなら、桃太郎を手助けしてやってくれるとありがたい」
猿(紘)「手助け…か。すまねぇが、俺じゃあ力になってやれねぇ。そもそも鬼にゴルフで勝とうなんて無理な話だ。あいつらはティーショットで楽々400yはかっ飛ばしちまう。種族としての力の差が歴然過ぎて、まともに勝負なんてできやしねぇだろうよ」
桃(聖)「なあ、桃太郎ってそもそもやっぱりゴルフ対決する話じゃないと思うんだけど」
犬(千)「成程なぁ、あんたがドロップアウトしたのにも同情してやるよ。だがなぁ、こっちにはとっておきの武器があるんだよ。桃太郎、KIBI-DANGOを見せてやんな」
ナ(紘)「桃太郎が猿にきびだんごを差し出すと、猿はその素晴らしさに呆気に取られてしまいました」
猿(紘)「こ、こいつはすげぇ…!一見硬そうだがとんでもねぇ反発力を内包してやがる。プロの世界じゃ段違いの反則球だ」
桃(聖)「本当に見ただけでわかるのかそれ。てか紙芝居で伝わるのかそのシーン」
犬(千)「これなら鬼にだって一泡吹かせられるってもんだ。なぁ猿よ、もう一度ティーグラウンドに立ってみねぇか?」
猿(紘)「…フッ、感謝するぞ桃太郎、俺のゴルファー魂はまだ燃え尽きちゃいねぇ…俺は鬼どもをギャフンと言わせてやるまで諦めねぇぞ!!」
ナ(紘)「こうして、桃太郎と犬の一行に、猿が加わることとなりました」
聖「いや仲間になったけれども!?さっきからやりとりがおっさん臭いんだけど!?」
ナ(紘)「その後、一行がゴルフ場に向けてさらに山を登っていると、近くに住んでいた一羽の雉が興味津々で目の前に降り立ってきました」
雉(春)「なんだか見慣れない御一行様だねぇ、あの鬼のゴルフ場に行くつもりなのかい?」
犬(千)「ああそうだ、そのゴルフ場から鬼どもを追放するためにな」
雉(春)「本当かい?それならもうコテンパンにとっちめてやっておくれよ。あたしらは鬼どもがゴルフ場のコースを増設しやがったがために住処を追われちまったんだ。いまの住処も時々ボールが打ち込まれてきて嫌になってたところなんだよ」
猿(紘)「確かにあのゴルフ場は鬼が占領してから頻繁に改造が繰り返されていたらしいが、そんな弊害も出ていたとは…これは益々鬼を許しておけないな、桃太郎よ」
雉(春)「桃太郎だって?ああ、あんたがあの有名な…成程ねぇ、あんたは遂に故郷を潰された報復に出ることにしたんだねぇ」
桃(聖)「はぁっ!?故郷を潰されたってどういうことだよ!?」
雉(春)「桃から生まれた桃太郎…あんたはこの山の秘境に群生していた桃林から川を流れて拾われた哀れな子だ。鬼どもがゴルフ場開発でこの秘境を潰さなければ、あんたが川に落ちて流されることもなかった…これは運命だよ。いよいよ鬼どもが罰を受ける時が来たんだねぇ」
桃(聖)「そんな凝りに凝ったバックグラウンドいらないから!桃太郎が背負うものがどんどん増えていくじゃねぇか!?」
雉(春)「こうなったらあたしもできる限りのことをしてやるよ。ゴルフはできないけどね」
ナ(紘)「こうして、桃太郎の出で立ちに感極まった雉も一行に加わり、いよいよ鬼の占領するゴルフ場へと辿り着いたのでした」
聖「雉はもう勝手に同情して付いてきただけじゃねぇか!?てかお供の動物みんな年寄りめいてないか!?」
ナ(紘)「すると玄関では、ゴルフ場の支配人ならぬ支配鬼が接客スマイルで桃太郎一行を出迎えました」
鬼(石)「いらっしゃいませ。鬼ヶ島カントリー倶楽部へようこそ。プレーをされるのは…人間と猿の2サムでよろしかったでしょうか?」
聖「うわいつの間にか石須賀さんいるし!?鬼も鬼で温厚を装ってて相手しづれぇ!」
犬(千)「ただ遊びに来たんじゃねぇよ支配鬼。ゴルフ場を占領して好き勝手やってる貴様らを追い出しに来たんだ。俺たちと勝負しろ!俺たちが勝ったらこのゴルフ場を明け渡してもらう!!」
鬼(石)「おやおや、随分と気性の荒いペットをお連れでいらっしゃる。いいでしょう。こんな奇妙なパーティがただゴルフをしに来たわけではないことくらい察しがつきます。だから我々が勝った時の条件も当然呑んでいただけますね?…我々が勝った暁には、下流の人里を開発して新たな鬼の為のゴルフ場を開発させていただきます」
犬(千)「望むところだクソ鬼ども!!」
桃(聖)「こらバカ犬!!二つ返事で人里まで巻き込んでんじゃねぇよ!?」
犬(千)「生温いぞ桃太郎!これくらいの条件でなければ鬼も相手しちゃくれねぇだろうが!どちらかがすべてを失う、そうでないとフェアじゃねぇよ。いいからおまえは黙ってクラブを振ってこい!!」
桃(聖)「こいつさっきから老犬のくせに偉そうにしすぎでは!?」
ナ(紘)「かくして、桃太郎と猿のペアと支配鬼によるゴルフ対決が始まったのでした。対決のルールはスクランブル方式です。はじめに桃太郎と猿がそれぞれティーショットし、どちらのボールを2打目として打つかを決めます。次に2打目の位置からまた2人がショットし、どちらのボールを3打目とするか決める…これを繰り返してホールアウトを目指します。他方支配鬼はペアを擁立しないため、支配鬼が2回ショットしてその都度どちらのボールを採用するかを決定していきます」
桃(聖)「紙芝居なのにゴルフのルール説明まですんの!?」
ナ(紘)「今回桃太郎ペアと支配鬼が勝負をするのは1番ホール、全長1,000yに上るミドルホールです」
桃(聖)「えPar4なの!?Par4の距離じゃねぇだろ!?」
ナ(紘)「元々あった2つのホールを連結・拡張させて鬼仕様にした結果、やや左ドッグとなった1番ホールですが、その連結部分、距離にして約450y地点は谷越えとなっており、腕利きの鬼は一気に谷越えを狙うのか、順当に谷の前に落とすのかが問われるティーショットとなります。まずは先攻の支配鬼、しなやかで強烈なファーストスイング!」
鬼(石)「ぬうううん!!」
ナ(紘)「ボールもクラブも砕けるんじゃないかと思うほどの痛快な音を残して、打球は青空を一直線に切り裂いていく!いとも簡単に谷を越えてフェアウェイの真ん中辺りに落ちたでしょうか!?ドッグレッグなので目視はできませんが…推定600y以上はあろうかという規格外なティーショットが決まりました!!」
桃(聖)「おまえナレーターだよな!?完全にその場で実況してる体になってるよな!?」
雉(春)「はえ~鬼の力って改めて見るとエグいのねぇ。ちょっと近くまで飛んで見てこようかしら」
猿(紘)「わかっただろう?鬼と同じ土俵で戦うってのぁこういうことなんだよ」
犬(千)「へっ!所詮は力が有り余ってるだけだろ?最終的にはアプローチで差を埋めればいいだけの話よ!それにこっちには爺さんが拵えたKIBI-DANGOがある…鬼に負けねぇくれぇの飛距離が出るはずだ、なぁ桃太郎!?」
桃(聖)「片っ端からフラグ立てんじゃねぇ!もういいから黙ってろよ老犬!!」
ナ(紘)「続けて支配鬼2発目のティーショット!だがしかしこれは少し引っ掛けてしまったか!?谷越えは問題なく果たしているが左手前のラフ辺りに落ちたでしょうか!?しかし1発目のベストショットを文句なしで採用してくるでしょう!さぁ続いては相対する桃太郎チーム、『プロゴルファーだった』猿が先にティーショットに挑みます!」
猿(紘)「俺の腕がまだ燻っちゃいねぇことを証明してやる…KIBI-DANGOの力を借りて、必ずや鬼を倒す!!」
桃(聖)「台詞だけ露骨に原作桃太郎に寄せてきてるけどやってることゴルフだからな!?」
猿(紘)「うらああああああ!!」
ナ(紘)「猿の渾身のスイングに弾かれていい角度で打球が上がる!なんだこれはおよそ猿が打っているとは思えないほど距離が出ているぞ!?一体どんな球を使っているんだ!?…ああっとしかし!打球は無情にも谷底へと吸い込まれるように落ちて行く!OBだあああ!!」
桃(聖)「おいいいい!?見事にコースに嵌っちゃってどうすんだよ!?」
猿(紘)「…我がゴルフの生涯に…一打の悔いなし…!!」
ナ(紘)「ああっと猿!一世一代のショットに腰をいわせたかああ!?」
桃(聖)「言わんこっちゃない!!やっぱりこいつもご老体なんじゃねぇか!!」
ナ(紘)「猿、無念の脱落!結果的に桃太郎と支配鬼のタイマンになってしまったあ!!」
犬(千)「頼む桃太郎!もうおまえだけが頼りだ!!谷越えはしなくていいから無難に400yくらいで次に繋げてくれぇ!!」
桃(聖)「犬もめっちゃ弱腰になってる!?てか本当に俺そんなアホみたいな距離飛ばせんの!?」
ナ(紘)「さぁ後が無くなった桃太郎!ここでコース上に打球を残せなければほぼ敗北が確定してしまうぞ!?運命のティーショットだ!!」
桃(聖)「あーなんだこの台詞…『俺は決して諦めない!だって死んだお爺さんとお婆さんが俺を見守ってくれてるから!鬼よ喰らえ!これが正義のスーパーショットだ!!』」
ナ(紘)「快音を残して人力離れした打球がまっすぐ飛んでいく!これは相当な距離が期待できそうだ!なんというボール!なんという技術!!なんとかギリギリで谷を越えたことが目視で確認できました!恐らく断崖越えの550yティーショットを記録したのはこの桃太郎が人類初となるでしょう!!」
鬼(石)「フフフ…人間もなかなかにやるものですね」
犬(千)「よし!上出来だ桃太郎!!…くそ鬼め、まだ余裕な表情を浮かべてやがるな…」
桃(聖)「俺はもう終始どういう表情をしたらいいかわからねぇよ」
ナ(紘)「さぁ続いてはセカンドショットに移るがぁ…ここでトラブル発生か!?なんと支配鬼が完璧に放ったと思われていた1発目のティーショットがまさかのロストだ!!これはさすがの支配鬼も苦笑いを浮かべざるを得ないようだ!!」
雉(春)「ふっふっふ。こっそり鬼のボールを持ち去ってきてやったわ。無駄に距離長くしてブラインドホールにしちゃうからこういう目に遭うさね」
犬(千)「よし!上出来だ雉!やはりおまえを連れてきて正解だった!!」
桃(聖)「やってることがただの烏の真似じゃねぇか!『正義のスーパーショット』した俺の立場がなくなるだろ!?」
犬(千)「喧しい!どんな手を使っても勝てばよかろう!!」
ナ(紘)「気を取り直して桃太郎のセカンドショットから。残り450yに対して桃太郎、まさかの直ドラだぁ!!負けられない戦いの中で是が非でも2オンを狙いに来ている!!」
桃(聖)「直ドラの意味はわかんねぇけど…台詞読むか。『俺は大丈夫…沢山の人達、大切な仲間が俺のことを支えてくれる!お爺さんが命を賭してまで護ろうとしたグリーンに向かって、俺は渾身の力を込めて到達してやる!これが魂のアプローチショットだ!!』…ダメだ台詞の意味もわかんねぇ」
ナ(紘)「これまで幾年も鍛えたであろう洗練されたフォルムから、再び伸びのある美しい弾道が放たれる!KIBI-DANGOがグリーンまで一直線だ!さらにはその勢いのまま、傾斜のかかるグリーンを上って行って…?入った!桃太郎まさかのカップイン!空前絶後のイーグルを決めました!!」
犬(千)「うおおおお!?奇跡が起きたぞ!奇跡が!!」
雉(春)「はえー、面白いこともあるもんだねぇ。私のコソ泥はあんまり意味がなくなってしまったけどねぇ」
桃(聖)「おいおい、いくらなんでもそれは出来過ぎでは?」
鬼(石)「おい人間…一体どんな小細工しやがったんだ?」
桃(聖)「うわっ!?鬼がガチギレして本性現してきた!?」
ナ(紘)「おおっと支配鬼、さすがにイーグルには対抗できないと判断したのか、セカンドショットそっちのけで桃太郎に詰め寄っていく!鬼の形相とはまさにこのことだぁ!!」
鬼(石)「答えろ!貴様のボールが普通じゃないことはわかってる…俺たち鬼と対等になるための細工をしていただけなら咎めやしねぇ、だがな…それ以上何か仕込んでたんならそれはもうご法度なんじゃあねぇのか?」
桃(聖)「そんなん知らな…じゃない、台詞台詞…『仕込んでた?疑っているのならボールでも搗ち割って調べてみればいい。だが仕込まれていたものならある。あのグリーンは昔俺のお爺さんが毎朝入念に管理していた芝だ…あの芝にはお爺さんの魂が染み込んでいるんだ!このカップインも、お爺さんの魂が俺のショットをピンまで運んでくれたってことだ。つまりこの勝負は俺の魂と、事故で亡くなったお爺さんの魂とで制したようなものだ!だから観念しろ鬼ども!約束通りこのゴルフ場を返してもらう!!』…なんか上手いこと言ってる感が」
鬼(石)「人間の爺さんが管理してた…ってもう10年以上前の話じゃねぇか。その綺麗事は無理があるだろ」
桃(聖)「いやマジレスすんなよ台本通り言ったのに!?」
鬼(石)「とにかくだ!貴様のようなインチキ野郎は金輪際出禁にしてやる!野郎ども出てこい!!」
ナ(紘)「おおっと!?OBラインの雑木林に隠れていた鬼が続々と金棒片手に姿を現してきたぞ!?グリーン上の桃太郎は囲まれてしまっている!ゴルフ場へとカチ込んだ鬼退治も万事休すかぁ!?」
桃(聖)「おまえもうナレーターの口調に戻る気ないだろ!?」
犬(千)「も、桃太郎―!!くそ、ここまでなのか…!?」
雉(春)「いいえ、まだ諦めちゃいかんよ、桃太郎!何かその身に湧き上がってくる力はないかい!?」
桃(聖)「えっ!?急に何を言って…!?」
雉(春)「あんたが立っているのはまさに秘境の桃林がかつて群生していた場所…桃太郎の原点であり神聖なる力が間欠泉のように溢れ出すパワースポットだよ!譬え鬼どもに埋め立てられてしまったとしても、その地脈は衰えていないさね!さぁ、己の力を信じて立ち向かうんだよ!!」
桃(聖)「う…うおおおおお!!」
ナ(紘)「自らの原点に立ち真の力を解放した桃太郎は、ゴルフの腕と同じくらい鍛えてきた剣術を如何なく発揮させ、何十という鬼を物ともせずあっという間に斬り伏せていきました。こうして、ゴルフだけでなく純粋な力のぶつかり合いでも鬼を制した桃太郎は、見事ゴルフ場を鬼の支配から解放させることに成功し、地域の平穏を取り戻したのでした。そしてその後はゴルフ場の支配人として新たに着任し、誰からも親しまれるゴルフ場としての繁栄にその生涯を尽くしたのでした。…めでたしめでたし」
聖「終わったああ!?てか最終的に普通に武器で戦ってんじゃねぇか!?」
紘「おーし、一通り終わったわけだが…どうだった?」
千「なんか壮大なドラマになってて感動したわ。桃太郎のルーツを最後あんな風に絡めてくるとは恐れ入ったぜ!」
春「聖那は最後以外全然台本にないこと喋ってたけど、あれはあれでいいアクセントだったと思う」
石「ゴルフにも親しみをもってもらえるいいきっかけになるんじゃないか」
紘「よっしゃ、じゃあ明日もこんな感じで頼むわ!…どうした聖那、何か言いたそうな顔だな?」
聖「…なんていうか…今からでも普通の桃太郎の紙芝居セット探して買ってきた方がいいんじゃないかなぁ…」
翌日紙芝居を観た子供達は、芝居の内容はともかくとして、大袈裟な演技と聖那のツッコミで終始ゲラゲラ笑っていたという。
よくある桃太郎のパロディを何か書いてみようかなと思ったところ、「しば刈り」の「しば」って何だったっけ…とガチで疑問になってしまったのでぐぐったところから今回の話が出来上がりました。ゴルフも最近人気が出てきているようですね。ちなみに直ドラとは、普段ティー上にボールを載せて1打目に振るクラブであるドライバーを、2打目以降ティーを使わず直接芝の上にあるボールに対して使うことです。500y飛ぶボールがあれば、ロングホールもワンオンが狙えてロマンがありますね笑
一応時系列メモ
お爺さんが芝刈りの仕事に就く→仕事先のゴルフ場が鬼に占領される→鬼がコースを改造し、秘境の桃林が潰される→桃太郎の入った桃が下流へ流れる→桃太郎がお爺さんに育てられる→お爺さんは職場の鬼からの粗雑な扱いに対抗すべくKIBI-DANGOを拵える→打球事故でお爺さん逝去→桃太郎がゴルフ場にカチ込む
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