反逆正義(リベリオン・ジャスティス)

Phase One——Ten days in heaven(or in hell)
九十九零
九十九零

リボルト#05 不平等条約 Part3 ギルティ・セブン

公開日時: 2021年4月20日(火) 18:31
文字数:3,103

「諸君、この校舎の地下に謎の空間があることを、知っているかね?」

「何だそれは。そんなの知るわけが……」

「やはり、知るわけがあるまいな! 能天気な貴様らはずっと教室の中にいるから、もう使い道はないと思っていたが、ついにこの時が来たようだな!」

「おい、無礼至極ぶれいしごくだぞ、貴様」

 ウザいドヤ顔を浮かべている鬼軍曹に会話を遮られた広多は、血眼ちまなこで鬼軍曹を凝視している。その瞳に映る怒りは、きばのように目の前にいる憎き相手を食べてしまいそうだ。


「その空間には、様々な世界へと繋ぐゲートがある。貴様らにそこで我々と戦ってもらう」

「ちょっと待ってください! 校則では暴力行為は禁止のはずでは……?」

 何かを思い出したかのように、大きな声を上げて質問する千恵子。やれやれ、まだそんなことくだらないルールに引きずっているのか。

「大丈夫だ、千恵子。あれはあくまで校内に限った話だろう? 校内じゃなかったら何の問題もねえぜ」

「えっ、そうなのですか?」

「君だって早くここから出たいんだろう? いちいちそんなことを考えてたらキリがねえぞ」

「そ、それもそうですね」

 俺に論破された千恵子は、頷いて納得する。


「だが、武器はどうする? 丸腰では、こんな化け物達に勝てると思えん」

 未だに敵意が漂う目線を送っている広多は、大事なことを指摘した。確かに戦うには武器は必要だな。

「それなら心配はいらん。明日のサバイバルバトルにて、指定した場所で武器庫を設置する予定なのだ。好きなだけもらっても結構だぞ」

 ワーオ、意外と太っ腹だな。こいつは派手にやれそうだ。

「もっとも、貴様らがいかなる武器を手にしたところで、勝ち目はないのだがな」

 前言撤回ぜんげんてっかい。やはりこいつはムカつく野郎だぜ。


「矛理、あんまり調子に乗らないことだ。貴様はこの俺が最初に潰してやる」

 教師にあるまじき挑発を連発している鬼軍曹に対して、広多はとっくに敬意というものを捨て、宿敵を殲滅せんめつする宣言を発した。

「ほう、言ってくれるじゃないか。それはとても楽しみだ。貴様の死にぎわがな」

 そう言うと、鬼軍曹は筋肉野郎のように、自分のケツからデカいサソリの尻尾を生やして、俺たちを見下ろすように先端を空に掲げていやがる。さすがに冷静沈着れいせいちんちゃくな広多も動揺を隠せず、緊張のあまりに眉間を顰めた。

「うわ、なんじゃそりゃ! さっきからなんなんだよ、おまえら!」

 いかにもゲームにいそうなモンスターっぷりに、聡は思わず驚きの声を上げた。その声は興奮か、それとも恐怖か。


「うえへっへ、いい質問だ。そんな求知心のあるいい生徒たちに、ちゃんと教えてやらないとね」

 狂科学者は不気味な笑い声を発しながら、椅子からゆっくりと立ち上がる。

「見ての通り、ボクたちは人間じゃないさ。まあ、もともとは人間だったがね」

 うわ、とんでもねえカミングアウトだな。ますます胡散臭くなってきやがったぞ、こりゃ。

死骸むくろだったものが現世に生きておる……もしかして転生か?」

 宵夜は手をあごに当て、俺たちには知るはずのない知識をうまく運用し、このような結論に至った。

 信じがたい話だが、鬼軍曹の返答は、宵夜の推論は正しいと証明した。

「おやおや、小娘こむすめの割にはよく知っているのではないか。実に気に食わんが、正にその通りだ。我らブラック・オーダーは、校長の命令を受け、生徒たちにあのような授業を受けさせたのだ」

 ブラック・オーダー? なんじゃそりゃ? 俺はそう聞こうとしたが、やつらの隙間のない発言は俺にそれを口にする余裕を与えてくれやしなかった。


「そして中でもっとも実力の強い七人である七宗罪ギルティ・セブン、すなわち我々は、貴様ら2年の担当をしているわけだ! Aクラス担任、『傲慢の矛プライド・パイク』、矛理ほこり 光輝こうき!」


「Bクラス担任、『嫉妬の美ジェラシー・ビューティ』、葉界はかい 幌美ほろびよぉ」


「Cクラス担任、『憤怒の拳ラース・フィスト』、石田いしだ けんだぜ! いつつ、足がまだいてえ……」


「Eクラス担任、『強欲の金アバーリス・ゴールド』、瓶貿びんぼう 底田そこださ。もう何もかもおしまいだよ、君たちは。うえへっへっへ」


「Fグハス……んぐ……がんぎん……『暴食の穴グラトニー・ホール』……おご……大具井おおぐい 貿飾ぼうしょくじゃ。ぶひっ」


「Gクラス担任、『色欲の手ラスト・ハンド』、能近のうきん 助平すけべえだァ! よォく覚えてろよ……いひひひひィ」

 化け物どもは一人ずつ、先生のように勝手に自己紹介を始めやがったが、俺たちにとってただのお芝居にしか見えねえ。

 そして、やつらは一つ大事なことを見落としてるぜ。


「おいおい、七人って言ったのに六人しかいねえじゃねえか。うちのクラスの担任はどこだよ」

「くっくっく、そうやって無意味なツッコミを入れて、我々を気まずい思いでもさせる作戦は、既にお見通しだ。答えてやろう、貴様らの担任は現在、リハビリ中である!」

 おいおい、マジかよ。化け物にもリハビリがあるのかよ!?

 ……と、色々ツッコミたいところだが、理解に苦しんでいる俺はクラクラしている頭を抱えて、心ここにあらずの状態で適当に流した。


「そ、そうか……リハビリなら仕方ねえな」

「あら、苦しそうな顔をしてるわね。まあ、無理もないかしら。いきなりこんな変なことをいっぱい聞かせられたら、ね」

 あったりめーだろうが。考えれば分かる話だろう!

「ふん、なんなら今日はここで切り上げるとしようか? 私も鬼ではない、休みぐらいはくれてやる」

 黙れ鬼軍曹。

「わし、朝は弱いじゃのう……もぐ……サバイバルバトル、明日あすの朝11時にせんか……ぱくっ……どうじゃ、わしは優しいじゃろう、ぶひっ」

 突然の人間アピールはやめてくれ。そんなことを言ったところで、俺たちはてめえに対するイメージは変わったりしねえよ。ってかまだ食ってんのかよ!

「はっ、そういうこった。正直オレは今からてめえらをぶん殴りたくてしょうがねえけど、お楽しみはとっといてやるよ」

 あれか、見せかけで超ビビってるな? だらしねえし……


「決まりだね。それじゃ君たち、明日あしたの午前11時に、1階の玄関で集合したまえ。異論はないね?」

 11時か……まあ、その方は時間的にも余裕だし、いいんじゃねえか。

「オッケー、そうしようぜ」

 俺は首を縦に振り、化け物たちの提案に同意した。そしてまばたく間に、俺は後ろに振り向くと、振り向かずに突き進む。

 必要な情報はもう手に入れた。これ以上こんなイカレたやつらと話してると、マジでどうかなりそうだぜ。


「ちょっと待ちたまえ」

 後ろから狂科学者の声が聞こえる。俺の足は条件反射で、自分の意思に違背いはいして動きが止まった。

「何を考えているかは知らないが、この戦いはゲームではないぞ。下手したら、命に関わる危険に繋がるかもしれん。これは脅しではない」

 ふん、敵の分際で忠告してくれるのかよ。その親切さはありがてえけど、それで俺たちは退しりぞくとでも思ったら大間違いだぜ!

「ご親切にありがとうよ。けど一つだけ言っておいてやる。俺たちの心配をするより、まずは自分の心配でもしてろ! 勝つのはてめえらじゃなく、俺たちの方だからな! 行くぞ、みんな!」


 あー、スッキリした。化け物どもの面食らった顔を見てると、もう既に勝ったかのようにいい気分になりそうだぜ。

 そして遠くにいる化け物たちは、既に人間の皮を剥がして、本性を現していやがる。

「健闘を祈らねえぞ、このクソガキども! てめえらのせいでこの足を踏まれちまったんだ、この借りは忘れるんじゃねえ!」

「ふん、所詮は子供だ。どの道一週間以内で全員潰れるだろう」

「若くておいしそうな女の子もたくさんいるぜェ……こいつぁ期待できそうだァ! いひひひひひィ」

「ダメよ能近。あの子たち、私の獲物よ。おいしい血をたーっぷり吸い尽くすんだから」


 人外としか思えない発言を耳にした俺たちは、全身に悪寒が走り、体を震わせずにいられなかった。

 恐ろしいぞ……やはりこいつらは化け物だ!

【雑談タイム】


秀和「はぁ……やっと一段落付いたな」

哲也「一段落付いたというより、君が一方的に終わらせただけだといったほうが妥当だね。

   しかし、君の選択は賢明だと思うぞ」

千恵子「一体何でしょうか、あの方々は……とてもマトモとは思えません」

秀和「知るかよ……考えてもしょうがねえだろう。とりあえず明日に備えて、新しい作戦会議を始めるぞ!」

菜摘「そうだね……もう頭の中がぐちゃぐちゃだよぉ」

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