反逆正義(リベリオン・ジャスティス)

Phase One——Ten days in heaven(or in hell)
九十九零
九十九零

リボルト#07 闇を切り裂く稲妻 Part1 腕時計の真価

公開日時: 2021年5月28日(金) 18:52
文字数:6,175

【アバン】


秀和「ついにここまで来たか……それにしても『稲妻』ってなんだろう? 気になってしょうがないぜ」

菜摘「闇を切り裂くって、何か格好いいね! もしかしてついに必殺技の登場かな?」

哲也「うん、確かにそれっぽいタイトルだな。よかったじゃないか、秀和」

千恵子「これ以上は、詮索しないほうがよいのでは……? 作者様が困ると思いますよ」

秀和「ネタバレも程々にしてくれよ……まあ、この場合だと、作者が自分でばらしたいだけだろうな」

              リボルト#07 闇を切り裂く稲妻

             The lightning that slashes the darkness


 浜辺まで泳いで、ようやく無人島に上陸した俺たちは、海水に浸っていたせいで既にびしょ濡れだ。海風に吹かれて、全身に寒冷が走る俺たちは体を震わせる。

「ハクション! うう、寒いなぁ……」

 上着はシャツ1枚の菜摘は、腕を組んで体温の流失を防ごうとしている。

 震えている彼女を見て、俺は何とかしてあげたいと思った。すると、俺は自分の身に包んでいる制服のジャケットを脱いで、菜摘に渡した。


「ほら、これでも着るんだ。濡れてるけど」

「えっ、いいの? でもそれじゃ秀和くんは……」

 俺がこの行動に出るとは思わなかったんだろう、菜摘は急に目を見開いて驚いている。

「いいんだよ、気にするな。風邪を引いたら大変だろう」

 茫然として俺の服を受け取るのに戸惑っている菜摘を見て、俺は彼女の手を握ってこっちに引くと、少し強引に服を押しつけた。

 俺の服を持っている菜摘は、それをじっと見つめてしばらく黙っていた。そしてやっと決心がついたみたいで、菜摘はうんと頷き、頭を上げて俺の視線を合わせた。

「ありがとう、秀和くん。その気持ち、確かに受け取ったよ」

 そう言って、菜摘は嬉しそうに俺のジャケットを羽織った。そんな幸せそうな彼女を見て、俺の口元も思わず緩んだ。

 その時、哲也は後ろからやってきて俺に耳打ちをしてくる。


「ちょっといいか、秀和」

「なんだ?」

「菜摘の腰に、カーディガンを巻いているのを教えてなくてもいいのか?」

「やめてくれ。あれは彼女にとってオシャレの一部なんだ。それに、さっき一緒にマシンに乗れなかったことも申し訳ないし」

「なるほど、つまり罪滅ぼしというわけか」

「まあ、そういうことだ」

 菜摘はもうすっかり気にしていないみたいだが、やはりどうしても引っかかっちまう。これぐらいの罪滅ぼしをしないと気が済みそうにねえ。


「うふふっ、皆さん仲がよろしいですね。さすがは中学の頃に結ばれた絆といったところでしょうか」

 俺たちを見守っている千恵子は、クスクスと笑ってこの固い繋がりを称えた。

「……何だか羨ましいです」

 だが、その明るい笑顔は、一瞬だけ曇っていた。俺には、何だかその真意が分かるような気がした。

 俺は彼女に接近して、慰めようと肩をポンと軽く叩いた。

「大丈夫だ、千恵子もいずれ打ち解けられるぜ。さて、こんなところでグズグズしてないで、そろそろ行くぞ」

「狛幸さん……」

 千恵子に名前を呼ばれたが、今の俺にはもっと大事な問題を解決しなければならねえ。振り返らずに、俺は他のみんなを探すために真っ直ぐに進む。

 頭を上げてみると、ロープウエーの軌道がはっきりと白い雲に覆われている空に映えている。きっとあそこに違いねえだろう。

 重い足取りで足場の悪い砂浜に足跡を残しながら、俺たちはロープウエイのゴールにたどり着いた。そこには、既にマシンから降りた仲間たちが俺たちを待っている。


「菜摘ぃぃぃーー!!!」

 親友の姿が見当たらずずっと探していた美穂は、珍しく心配そうな顔を浮かべてこっちに走ってくる。そして二人が近付く瞬間に、美穂は大きなハグをして菜摘を抱き締めた。へー、ただの表向きだけの友達じゃないんだな。

「もう、姿がなかったから、もうやられたと思ってたのよ!? このバカ、心配かけちゃって……」

 顔を伏せている美穂の目には、何かが光って溢れそうになっている。声まで細くなって、菜摘は彼女にとって大切な存在ということはよく分かった。

「ご、ごめんね美穂ちゃん……って、あのね……」

 自分がやりすぎたことに後ろめたさを感じた菜摘は謝ったとたん、何故か急に呆れた表情に変わった。一体何があったのか?

「ん? なぁに菜摘」

「お尻を触るの、やめてくれたら嬉しいかな~って」

「うげっ、バレたか」

 菜摘に指摘された美穂は、先程の真剣な泣き面が豹変して、しまったと言いそうな顔になった。ブレねえな、おい。


「今の見てたぜ、秀和! とんでもねえことをしたじゃねーか」

 後ろから聞き覚えのある、がさつな声が響く。俺は頭を振り向いて声の源を探すと、そこには聡や他のみんながいた。

「まあな。火事場の馬鹿力なんだけどさ」

「それでもすげーじゃん! オレならぜってームリだぜ。こんなの、てっきりゲームの世界でしか見れねえと思ってた」

「へっ、たまにはチャレンジャー精神も必要なんだぜ。夢を夢のままで終わらせたらもったいねえだろう?」

「ははっ、言えてるぜ、秀和」

 話が盛り上がってる途中に、聡もテンションが上がって手を俺の肩に置いた。

 しかし空気を読まない化け物どもが、俺たちの会話に割り込んできやがった。


「はいはい、おしゃべりはここまで~」

「ほう、まさかこんなに生き残ったやつがいるとは……これは実に面白そうだ」

「まあ、こっからは本当の生き地獄だけどなぁ。どうせ後でオレに狩られるだけだぜ」

「ピッチピチの女子だァ……どいうもこいつもうまそうだぜェ……いひひひひィ」

「確かにそうじゃな。あぶるほうがうまいか、それとも丸焼きしたほうが……ぶひっ」

「なんという下郎どもだ……こういうのは実験材料に使うのに決まっているだろう、うえっへっへ」

 やつらは俺たちを貪るようなイヤらしい目付きで、なめるように視線を動かす。今更だけど、こいつらは一体どういう脳みそをすればこんなことを考えられるんだよ。

「うわ、相変わらず気色悪い連中ね」

 化け物どもの人間離れした顔が視線に入って、思わず嫌そうな顔をする美穂が、容赦なく彼らの到来を歓迎するはずもなかった。

「うんうん」

 小声で愚痴を零した美穂に、菜摘も無意識に頭を縦に振って賛成の意を示す。


「では、まずは生き残った諸君に、おめでとうと言わせてもらおう。君たちには、次のステージに参加する権利を与えよう」

 また上から目線かよ。言われなくてもやるしかねえだろうが。

「参加者742名の中に、先程のステージで120名があんまりにもバカだったので脱落した。なんて嘆かわしいことだ、うえへっへ」

 何笑ってんだよ、こいつ。人が死んでるっていうのに……

「へっ、あのクソガキどもに邪魔されなければ、全員ぶっ殺せたのに」

 おい、やはりそれが目的なのかよ! 先に死ぬなって言ってなかったのか、てめえ!

「そうね~まさかヘルメットを外すなんて、これは完全に反則じゃないの。でも、こういう悪い子は、先生は嫌いじゃないわぁ。むしろぞくぞくしちゃう」

 ドレス女は少し頬を膨らませた後、何故かすぐ流し目を使ってこっちに見てきやがった。もしかしてこれって、ドレス女攻略フラグ成立……いやいや、さすがそれはねーだろう。

 

「反則も何も、ヘルメットを外しちゃいけないってルールはなかったじゃねえか」

「うわ出た、こういうルールの穴を突く人間の屑! 言われなけりゃ、勝手にやってもいいと思い込んでやがる! これだからクソガキは大っ嫌いだぜ」

 20代ヤンキーは、力を込めて地面を踏み付けると、吐き捨てるように負け惜しみを言い始めた。

 おいおい、そっちが無実な生徒たちを殺してるくせに、よく言うぜ。まあ、こういうやつに限って、一番ルールを破りそうだけどな。反論してもキリがない上に、逆にこっちが大人げなく見えるから、無視すればいいんだよ。

 突然、後ろから殺気を感じる。あっ、このパターンはまさか……


 俺は振り返って見ると、千恵子、菜摘と冴香の三人は、目に涙を浮かべながら20代ヤンキーを睨みつけている。どうやら俺が侮辱ぶじょくされたことを怒りを覚えているようだ。

 やれやれ、なんて愛おしい子たちなんだ。俺のために怒ってくれるのは嬉しいけど、騒ぎが大きくなって彼女たちを巻き込むのはごめんだ。というわけで、俺は彼女たちに目線を送って、「気持ちは嬉しいけど、ここは一旦落ち着こうぜ」という意を示した。最初は納得行かず心配そうな顔をしていた三人だったが、すぐに状況を理解し、お互い顔を見合わせて頷いた。

「ちっ、無視かよ……なめられてんだから、もっと悔しそうな顔をしてろよ……」

 ほらな。思う通りにならなかった20代ヤンキーは、舌打ちをして愚痴ぐちを漏らしたぞ。実にいい気分だぜ。


「くっくっく、そう落胆する必要はないぞ、石田。まだ宴会パーティは始まったばかりではないか」

「へっ、確かにそうだった! そうだな、これから一人ずつ殺ってけばいいんだぜ! そうしねえとオレの気が済まねえ! ははははははっ!」

 鬼軍曹の一言で、20代ヤンキーの狂気付けとなって、殺戮の快感に浸らせた。

 こいつら、マジで病気だな……色んな意味で。

「おいおい、さっさと茶番を終わらせてくれよ。このままじゃ日が暮れちまうぜ」

 痺れを切らした聡は、白目で化け物どもを見ながら、話を進めるようと促した。ナイスワークだ、聡。


「そうだよ! 早く帰りたい、ここから出してよ~悪夢なら覚ましてー!」

「武器がないんじゃドンパチもできやしねえ! 早く武器を渡せ! 渡せってんだよ!」

 聡の言葉は爆薬ダイナマイトの導火線となって、他の生徒たちも黙っていられなくなった。

「いいだろう、今から説明する」

 またしても狂科学者が、両手を白衣のポケットに突っ込んだままで、感情の起伏がない声を出した。そして彼はまたしてもリモコンを取り出して、遠くの地面に向かってボタンを押すと、なんと石が横に動き出した。そしてすぐさま倉庫らしきものは、地底からゆっくりと姿を現す。


「ルールは至って簡単だ。この倉庫の中にある武器を好きなだけ取って、森の奥にいるボスを倒すだけ。難しくはないだろう? うえへっへ」

 狂科学者が何かを隠しているみてえだな。その不気味な笑いに何か深い意味がありそうだ。

 だが、そんな狂科学者をよそに、早くここから出たくてしょうがない生徒たちはすぐに倉庫に向かって走っていく。


「やっと武器を手に入れられるぜ! どけどけどけ!」

「ちょっとそこのお前、邪魔なんだよ! 早くしねえと一番いい装備がなくなっちまう!」

 我先に走り出す生徒たちは、いい武器を手に入れようと邪魔者を次々と押し退けていく。倒れる生徒たちは、苦しそうな顔をして悲鳴を上げる。その光景は、まるでこの前に見たEクラスの惨状みたいだ。そういえば、あの狂科学者は確かEクラスの担任だったな。なかなかやるじゃねえか。

 そんな生徒たちを見やると、狂科学者はまたしても醜い笑顔を浮かべる。


「うえへっへ、やはり欲望には正直な愚か者だな。自分さえよければ、他人の気持ちも顧みず、そうやって蹴落としていく。もはや原始人同然だな。まあ、共食いカニバリズムしないだけでまだマシなほうか」

 狂科学者の恐ろしい言葉に俺は思わずぞっとしたが、確かにこいつの言う通りだ。今目の前に起きているこの滑稽こっけいな出来事を目にして、俺は言い返せずにただ黙っていた。

 そして次の瞬間に、更なる俺の心を冷ますハプニングが起きてしまう。


「おいなんだよこれは! バッジしかねえじゃねーか!」

「武器はどこだ? 早く武器を出せ!」

 目当ての兵器が見当たらないのか、生徒たちは怒りに任せて大声を出す。名作のシリーズ最新作がクソゲーだと分かった時のクレーマーかよ、お前ら。

「うえへっへ、予想通りにならないと、すぐこうやっていらつく。実に見苦しい」

 確かにそうかもしれねえけど、どうせてめえもいつかこうなるんだろう。調子をこいていられるのも今のうちだぜ。てめえの死に際に絶望する顔が楽しみだぜ、うわはっはっは。

「さて、ここに突っ立っていてもしょうがないし、僕たちもそろそろ行こうか」

 後ろにいる哲也は、側に通りかかった瞬間に俺の肩をポンポンと叩いて、そのまま倉庫に向かっていく。

「ああ、そうだな」

 俺は相槌を打って、哲也の後についていく。


 倉庫の中に入ると、すぐに眩しい光が俺たちの視線を奪い、思わず目を閉じてしまう。しばらくして目が明るさに慣れて、俺たちは周りの様子を確認できた。明かりのついた部屋の中に、様々なキレイなバッジが光を反射している。それに対して、生徒たちは暗い顔をして、足音に感付いたこっちに凄まじい形相でにらんでいる。

 それでも狂科学者はまったく動じず、両手を広げて余裕の顔を見せていやがる。

「おや、どうしたのかね、皆揃って怖い顔をして」

「武器があると聞いて期待してたのに、何なんだよこれは! ただのバッジばっかじゃねーか!」

「そうだそうだ! こうなんでどうやって戦えってんだ! お前の脳みそは7歳のガキかよ!」

 男子の2人は、棚に置かれているバッジをぶらぶらとぞんざいに扱って、狂科学者に文句を言い出す。その不敵な態度が狂科学者の逆鱗に触れたのか、あっという間に2人の腕時計から激しい電流が走る。

「ぶほぉぉぉおぉぉぉー!!!」

「うぎゃあぁぁぁあああー!!!」

「君たち、もう少し目上の人に敬意を払うこともできないのかい。まったく不愉快だ」

 淡々とした狂科学者の言葉に、憤怒ふんどが静かに潜んでいる。もしかしたら、あのバッジはこいつが作ったものなのか?


「さて、このバッジについてだが、武器の絵が入っているのは分かるだろう?」

 俺は適当にいくつかバッジを手に取って比較してみた。剣や斧、そして銃や爆弾……色々あるんだな。けど、いくらなんでもこんなので戦うのが無理があるみたいだな。

「このバッジを君たちが装着している腕時計の上に設置すると、それが本物の武器に変わるんだ」

 へっ、このやべえ腕時計がそんなに強え効果があるのかよ!? こいつは驚いたぜ……

「そうだ、ちなみにこの腕時計はちゃんとした正式名称オフィシャル・ネームがあるのだよ。その名も貯蔵時計ストレージ・ウォッチである!」

 突然、狂科学者が得意げに両手を上げて、Yの字のようになっている。やはりこんな狂科学者でも、自分の作品を語るとまるで別人になるよな。


「へっ、何が貯蔵時計ストレージ・ウォッチだ、バカバカしいぜ! 処刑時計トーチャー・ウォッチと呼んだほうがよほどマシだぜ!」

 さきほどの電撃ビリビリの刑を喰らっていた男子の一人が、いつの間にか既に長い取っ手のついた斧を手に握り締めて、狂科学者を目掛けて走り出した。

「油断したな、ハゲジジィ! これでオレの勝ちだ……うおおおおおおおっ!?」

 自分の勝利を確信した男子は斧を振りかざした瞬間、急に体が浮いて飛んでいきやがった。そして遠くから何かが水に落ちた音と、男子の悲惨な叫びが聞こえる。彼の体に付いているカロリーやタンパク質が、無残にも鮫たちの食事の一部になったのだ。


「やれやれ、最近の若者は本当に困ったものだな……やはり誰かが犠牲にならないと、大人しく黙らないのか」

 片手にリモコンを握っている狂科学者は、頭を横に振りながら溜め息をついた。一体なんなんだよ、あのリモコンは。万能すぎるだろう。

「念のために言っておくが、君たちの今のターゲットはあくまでこの森の奥にいるボスであって、ボクたちではない。まだド素人同然である君たちには、ボクたち七宗罪ギルティ・セブンを倒すなんてまだ10億兆年早いのだよ」

 何だこの少年マンガの定番セリフは。なかなか面白いやつじゃねえか、気に入ったぜ。だが俺は情けをかけて、最後に殺すとは限らねえ。敵である以上、いつか絶対に全力でぶっ潰してやるぜ。


「さて、説明は以上だ。早く戦いたくて血に飢えている戦士諸君、今から行動しても構わない」

 狂科学者はそう言うと、くるりと振り返って倉庫を立ち去り、まだ状況を飲み込めていない生徒たちを残して姿を消した。さてと、どうしたものか。

【雑談タイム】


菜摘「あの石田って先生、本当にムカつくよね……秀和くんにあんなひどいことを言うなんて!」

千恵子「賛成です。狛幸さんがあんなに苦労していらっしゃったことも知らずに、よくあんなことが言えるんですね……」

冴香「はい! いくらなんでも、あんな言い方はないと思います……」

千恵子「どうしましょうか? 今度激辛のお料理でも作って差し上げましょうか?」

菜摘「そんなの甘いよ九雲さん! ひっそり部屋に潜入して、服を全部切り落とすのが一番だよ!」

冴香「いいえ、私にいい考えがあります。スピーカーで大ボリュームの音楽を流して、眠れないようにすればいいんですよ!」

秀和「そこまでするのか、君たち……女って本気を出すと案外恐ろしいものだぜ。

   でもまあ、一応俺のために怒ってくれるんだし、良しとするか」

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