【アバン】
秀和「さーて、ついにやってきたぞ我が教室へ! ここにはどんな連中がいるんだ~?
ワクワクしてきたぜ……ん、お前は!?」
千恵子「あら、もしかしてお知り合いですか?
こんな不気味なところにお友達に出会えるのは、やはり心強いですね」
秀和「あっ、てめえは俺から金貸してまだ返してない山田じゃねーか!
やっと見つけた……ボコボコしてやるからそこを動くなよ!」
千恵子「……前言撤回です」
リボルト#02 新たな出会いは、そこに絆がある
There's a bond in a new encounter
ギギっと扉が軋む音と共に、俺は千恵子の案内で教室の中に足を踏み入れた。
目に見えるのは、現代の高校とは桁違いの教室だった。赤い床には、黒い天井が映っている。高級感の溢れる色合いは、心を落ち着かせてくれる。
そして向かって右手にあるのは、大きなホワイトボードがある。水色の枠がついていて、眩しい輝きから近未来感が漂っている。しかもところどころデフォルメされたキャラクターが動いている。スクリーンセーバーみたいなものかな。
でも、一番大事なのは……
そう、左手にある、5行と5列に並んでいるの机と椅のセットだ。そこには俺のクラスメイトが座っている。一体どんなヤツがいるんだ?
ぱっと頭を回して見ると、またしても派手な赤と黒に視線を奪われてしまう。今度は制服の色か。
いや、色だけじゃない。色合いこそ同じだが、形はみんなバラバラだ。千恵子の袴と違って、ブレザーやセーラーなど見慣れたものもあれば、まったく見たことのないパーカーやドレススタイルもある。なかなかセンスがあるじゃないか、この学校は。俺も早く着てみたいな、あの制服。
そして25の椅子の中には、約半分が空席になっていて、少し寂しく見える。それにみんなの座り方もバラバラで、どこか散漫くさい。まあ、よく言えば緊張感がなく、気軽に振る舞えるってことか。
どれどれ……お喋りをしてる女子が約5人と、ゲームをしてる男子が約1名。何気にフリーダムだな。
「はい皆さん、お静かに」
千恵子はパンパンと手のひらを鳴らし、暇そうなクラスメイトたちに注意を促す。
「突然ですが、こちらは本日転学してきた狛幸秀和さんです。まだまだ新入生なので、色々馴染んでいないとは思いますが、皆さんはこれからも仲良くして差し上げてくださいね」
片手を上げて俺を紹介している千恵子は、その顔には美しい微笑みが浮かんでいる。やはり心からは、俺の到来を喜んでいるのか。よかったよかった。
でもその眉間に寄っているしわは、とても意味深だ。聞きたいことは山ほどあるが、ここは我慢したほうがいいよな。
「あ~あ、また一人の犠牲者が出たのか。気の毒に」
一番後ろの行に座ってゲームをしてる男子は、突然何気ない一言を投げてくる。スカーフで口元が隠れているため、彼の表情が読み取れない。
それはどういう意味だ? 憐れみか、それとも皮肉か。出会い頭にそんなことを言ってくるとは、さすがの俺にも予想外だ。
だが、これは俺の予想を遙かに越えた展開の序の口にすぎなかった。
「狛幸……秀和?」
「ねえ、もしかしてあの人って……」
「ああ、間違いない。あのツンツンしている赤い髪、あの時とまったく変わっていない。懐かしいな」
ゲームをしている男子の前に座っている、少し真面目そうな青髪の男子と、モデルっぽい金髪の女子がひそひそと話している。
なんであの二人が、俺のことを……? いや待て、もしかして……!
何か大切なことを思い出した俺は、思わず前に出て、会話をしてるあの二人に近付ける。
「こ、狛幸さん……?」
千恵子の呼び掛けを無視して、高ぶる気持ちに支配されている俺は前に歩き続けた。
「よう、久しぶりじゃねえか、哲也」
俺は少し意地悪そうにニヤリと笑い、目の前の青髪男子に声をかけた。
こいつは光橋 哲也、俺の中学のクラスメイトにして親友だ。凛々しいながらも親切さを失わないこの素晴らしい顔立ちのおかげで、かつて俺よりモテる時期もあった。
ただしこいつは大の常識人であり、俺と正反対と言ってもいいだろう。それでも俺たちは喧嘩したことがほとんどなく、仲良く付き合っている。まあ、こいつは俺のペースに巻き込まれることが多いけどな、ははは。
「秀和! 覚えてくれてるのか」
「あったりめーだろう。親友を忘れるほど無情なヤツじゃないぜ」
哲也の満面の笑顔を見てると、こっちまで嬉しくなってくる。あまりの嬉しさに、俺たちは抱き合いはじめた。
「まさかここで会えるとは……奇遇だな」
「まったくだぜ。これほど嬉しいことはねーな!」
俺たちは真剣な眼差しで、お互いをじっと見つめ合う。その視線には、友情という名の橋が繋がっている。
だが、あんまりにも目立ちすぎるため、周りの人たちがこそこそ喋り始めた。
「男子二人が抱き合っているわ! 都会の男子ってそこまで大胆なの……」
「は、激しすぎる……いくらなんでも教室の中でこんなことは恥ずかしすぎるよ……!」
セーラー服の女子Aと、ボレロ風の制服を着ている女子Bがこっちに見ている。どうやら俺と哲也の肉体言語に興味津々のようだ。
「ゴホン! あの、盛り上がっている途中で申し訳ありませんが、皆さん見ていますよ……」
俺たちの情熱の満ちた交流は、こうして無情にも遮られてしまった。振り返ってみると、何故か千恵子の顔が赤かった。
仕方なく、俺は哲也の体を抱きついた手を放した。そして哲也の後ろに隠れていた金髪の女の子が、身を乗り出して俺に声をかけた。
「ねえねえ、私は誰か覚えてる?」
いきなりだな。でもこういう質問をするなら、きっと面識がある人に違いない。でもこんな派手な髪色をしている、モデルのようなかわいい女の子に会ったことがあったっけ?
俺は目を閉じて、過去の記憶を探る。色んなシーンがプロジェクターのように、次々に浮かんでくる。そして瞬く間に、俺はすぐ目を開ける。
髪ばかりに集中して、危うく気付かなかったところだったが、その顔は見覚えがある。そしてこの聞くだけで元気になれるような声も、忘れようがない。
「もちろんさ。菜摘だろう? まったく、髪型変えたから、すっかり別人に見えたぜ」
「せーいかい! まあ、これだけ付き合いが長いもんね」
俺が菜摘と呼んだ子は、愛おしい笑顔を見せながら、明るい声で喋った。ウェーブのかかった長い金髪は、千恵子のに負けないぐらいの輝きを放つ。
この子は端山 菜摘、同じく中学の頃にできた友達の一人だ。昔は結構地味な格好をしてたから、よく他の女子にいじめられてたけど、ちょうどある日俺と哲也がそれを目撃し、彼女を助けたんだ。あれから俺たちは強い友情に結ばれて、「鋼の大三角」と呼ばれたことも。そういえば、今では異性で仲のいい友達は、あんまりいないもんな。
それにしても、まさかここまで変化があったとは……確かに中学を卒業した時は、彼女はモデルになると言ったけど、いくらなんでも早すぎだろう。どうやらその決意は本物のようだな。でもまあ、せっかくこんないいスタイルをしてるから、モデルをやらなきゃもったいないよな。
「いやー、でもまさか君たちに出会えるとは驚いたな。もしかして君たちも親に転学させられたのか?」
再会の感動に浸っている中、俺は自分に置かれている立場に再び意識した。そう、ここは生徒たちを親の思う通りに築き上げるところだ。だとすると、この二人も俺と同じ理由で転学させられた可能性は高い。
「まあな。父さんと母さんが『もっと臨機応変な人間になってほしい』って、うるさくてな……知っているだろう、僕がどれだけ真面目な人なのかを」
「ああ、俺とまったく同じだな。理由がまったく逆だけど。で、菜摘は?」
「私? いや~、それがね……」
言いよどむ菜摘は、眉間にしわを寄せながら、苦笑いを浮かべている。なにやら深い事情がありそうだ。
「僕が説明しよう。どうやら菜摘の両親は、この派手な格好をしている彼女のことを気に食わないらしいんだ。いつものあの大人しい菜摘じゃなくなった、とな」
真面目な哲也には、隠し事が許せないようだ。彼は菜摘の代わりに真相を教えてくれた。しかしそれを聞いた菜摘は、急に顔が赤くなって、駄々っ子みたいに軽い連続パンチを、素早く哲也に浴びせた。
「もーう、哲也くんのバカ! 私はすごく真剣に悩んでるのにー!」
「そんなの、隠してもしょうがないじゃないか。顔に書いてあるし……それに、秀和なら教えてもいいと思ってさ」
「まあ、秀和くんなら大丈夫かな」
何事もなかったように、二人はまた笑顔を浮かべてこっちに見せている。
少し恐縮だが、中学時代の親友だし、ここまで信頼されるとやはり嬉しいものだ。
【雑談タイム】
(いわゆる「キャラクターオーディオコメンタリー」みたいなもので、
ここで話したことは本編とはあまり関係がありません)
秀和「いやー、まさかここで出会うとは思わなかったぜ。この確率は宝くじで1等賞が当たるより低いだろうな」
哲也「ははっ、相変わらず面白いことを言うじゃないか、秀和。まあ、僕は1等賞の方がよほど低いと思うけどな」
菜摘「そして秀和くんのペースについていっちゃうのも、哲也くんらしいよね~二人とも変わってないな~」
秀和「そうだな~君たちに出会えるのはいいけど、新しい連中に馴染めるかどうかまだ未知数だな」
哲也「まあ、みんな悪い奴じゃない……かな?」(汗)
菜摘「うん、そう……だよね」(苦笑)
秀和「なんで疑問形なんだよ」
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