反逆正義(リベリオン・ジャスティス)

Phase One——Ten days in heaven(or in hell)
九十九零
九十九零

リボルト#07 闇を切り裂く稲妻 Part4 横行する毒針

公開日時: 2021年5月28日(金) 18:52
文字数:3,674

※このパートに残虐描写が含まれております。ご注意ください。

 しかしそんな俺たちを嘲笑うかのように、現実はそう甘くはなかった。悲惨に転がっているしかばねの山が、命はいかに弱いかを語っている。

 よく見ていると、死体はほとんど女子で、額に大きな穴が開いていて、流れている血が池のように溜まっていやがる。

 なんて猟奇的りょうきてきな殺し方だ。一体どこのどいつがやったんだ?

 俺は疑問を抱えているうちに、突然目の前の平地が黒い影に覆われて、一気に暗くなった。どういうことかを知るべく頭を見上げると、とんでもねえやつがやってきやがった。

 そいつは山のような、ドデカいサソリだった。そしてそいつが地面に落ちてきた瞬間に、地響きがゴゴゴと鳴り始め、俺たちの鼓膜を容赦なく冒していやがる。

 地響きが少しずつ収まっていき、やっとまともに立てるようになったが、ドデカサソリは既に俺の前に接近していやがる。しかしこいつは攻撃を繰り出さずに、ただ俺を見据えている。一体どういうことなんだ?


「な、なによこいつ! こんなのがいるなんて聞いてないわよ!」

 少し離れた場所に、他のクラスの女子がヒステリーに大声を出した。もちろんドデカサソリも無視するわけなく、すぐさま向きをそっちに変えた。

「しー! 声が大きいよー」

 彼女の近くに、もう一人の女子がいる。容姿端麗なヒステリー女子と違って、顔に雀斑そばかすがついていて、お世辞にもかわいい女の子とは言えない。

 そして何故か、ドデカサソリは目の前にいる獲物である俺を無視し、女子二人組に向かって走り出した。

「ちょ、なんでこっちに来るのよ! もう、逃げるしかないわね!」

「待って! おいてかないでよ~」

 ヒステリー女子は雀斑女子の手を繋がずに、自分の身だけを守ろうと先に逃げ出し始めた。出遅れた雀斑女子は、そそっかしい足取りで転びそうになるも、何とか走れた。

 しかしあのドデカサソリの一歩は、人間の20~30歩に相当する。そのため、ドデカサソリはすぐに女子二人組を追い詰めた。


「きゃっ!」

 雀斑女子は、急に足元が地面から離れて、大きくずっこけちまった。見る見るドデカサソリは、目の前にいる雀斑女子を見下ろしている。

「お、お願い……殺さないでぇ……」

 絶望の底に落ちる雀斑女子は、瞳が涙で潤っている。彼女は弱々しい声で最後の足掻きしようと、命乞いをしている。

 困っている人を助けるのは普通だが、戦慄せんりつが走っている俺は、どうすることもできなかった。それに距離もかなり離れているため、走っても間に合わねえだろう。

 あっという間に、ドデカサソリは素早く尻尾しっぽ毒針どくはりを前に突き出し、獲物に目掛けてトドメを刺す。

 だが、標的ターゲットは雀斑女子ではなかった。一方ヒステリー女子の頭がドデカサソリの毒針に貫かれたという惨状を、俺たちは目撃しちまった。飛び散る赤い血しぶきが、一気に拡散して周りの地面や樹木にべったりと付いてしまった。


 なるほど、あそこに倒れてた死体たちも、あいつの仕業ってわけか。けど、なぜあいつは目の前にいる雀斑女子を狙わずに、遠く離れたヒステリー女子を攻撃したんだろう? あいつは遠視なのか、仲間を見捨てたのを見かねて罰を与えようとしたのか、それとも……

「い……いやああああああああああー!!!」

 後ろから聞こえる悲鳴が、俺を現実に引き戻す。振り返ると、そこには尻餅をついている千紗がいる。彼女は頭を抱えて、情けなく泣き出している。でもまあ、こんな衝撃的な光景を見たら、泣くなと言われて泣かないほうがおかしいだろう。

「ダメよ千紗! こんなとこで泣き出したら……」

 優奈は焦って彼女をたしなめたが、もう手遅れだ。千紗の悲鳴に気付いたドデカサソリは、毒針に刺さっている犠牲者を乱暴に捨てると、凄まじい勢いでこっちに向かって突進してきやがる。

 こいつはまずいぜ。うちはヒステリー女子に劣らないほどの美少女が大勢いる。何とかしなければ、うちの女子全員が殺られちまう!


「お前ら、早く下がれ! ここは俺たち男子が食い止める!」

 俺は女子たちが前に出ないように、急いで腕を振るい、指示を出した。心得た女子たちは、森の中に隠れて身を守っている。

「気をつけてね、秀和くん!」

「もしわたくし達の力が必要なら、遠慮なくおっしゃってください!」

 菜摘と千恵子の頼もしい声援を耳にした俺は、感謝の意を示すために目線を送って頷いた。

「『俺たち』って……まさかオレも?」

 渋々前に出た聡は、俺の話の内容を確かめようと質問をしてきた。

「ああ、そうだ! 本物の怪物討伐だ、滅多めったにないチャンスだぜ? お前はこういうのが好きじゃねえのか?」

「冗談言ってる場合かよ! そんなの、ゲームだけで十分だぜ!」

 俺のブラックジョークを真に受けて、冷静を失った聡は大声で反論する。へー、意外と幻想ドリーム現実リアルをうまく分けられるやつだな。


 そんな会話が続いているうちに、ドデカサソリがだんだんこっちに近付いてきて、俺たちに攻撃を仕掛けてきやがった。

「危ない、秀和!」

 盾を構えている哲也は、見掛けによらず軽やかなステップで俺の前に出て、ドデカサソリの毒針を受け止めようとしている。

 体の一部しか防げない小型盾バックラーであんな大きな毒針を受け止めるには、さすがに無理はある。俺は哲也の安否あんぴを心配しているが、何故か毒針が盾に触れる直前に止まった。

 一体なんなんだ、このサソリは? 行動パターンがまったく見えねえぞ! だが、敵が止まった今はチャンスだ! その忌まわしい尻尾を、この俺が切り落としてやる!


 俺は設置していた拳銃のバッジを両手剣のバッジに交換し、質量を持った剣を手にすると、ドデカサソリの尻尾に飛びかかってそれを斬ろうとする。

「覚悟しろ、このサソリめ! 自慢の尻尾がなけりゃ、どうすることもできねえだろう!」

 俺は掲げていた剣を、勢いよく振り下ろす。これでドデカサソリも、ただのカニになる……ゑっ?

 なんと、ドデカサソリの尻尾がはがねのように硬く、剣のやいばがそれにハマって抜けねえ! おいおい、マジかよ……

 だがヤバいのはこれだけじゃなかった。痛みを感じているドデカサソリは、剣を握っている俺ごと尻尾を振り回しやがった。普通の人間である俺は、その絶大の力に勝るはずがなく、反抗するすべも見つからないまま、ただ回されるしかなかった。


「おーい、いい加減にしてくれよ! 目が回る~」

「ジェットコースターじゃないんだぞ、秀和!」

 恐怖を紛らわすために俺は叫び出したが、哲也は持ち前のジョークセンスで俺にツッコミを入れた。

 このまま投げ出されるのかと思ったその時に、奇跡が起きた。突然ギザギザした緑色のリングが飛んできて、ドデカサソリの堅固な尻尾を真っ二つに切り刻んだ。その結果、俺は尻尾による拘束から解放され、宙に浮いた。

「今だ秀和! アイツにトドメを刺してやれー!!!」

 下から響いたのは、聡の熱い叫び声だった。彼の片手に一台のスマホが握られて、先ほどのリングと同じ緑色の光を放っている。

 なんだ、案外やる気あるんじゃねえか、こいつ。そんな彼の情熱を応えるためにも、俺も頑張らねえとな。

「サンキュー、聡! よし、覚悟しろ、この化け物サソリめ! おりゃああああああーーー!!!」

 俺は刃が下に向くよう、剣の取っ手しっかりと握り締めた。そしてそれを頭上に持ち上げた後、すぐに力強く下ろしたままで、体を重力に任せて急下降する。

 俺とドデカサソリの距離は、少しずつ縮んでいく。そしてついに、この刃がドデカサソリの頭に直撃した!


「キュルルルルルルルーー!!」

 ドデカサソリは耳障りな鳴き声をした後、力尽きてぐったりと伸びやがった。にじみ出る毒々しい緑色の液体を見ていると、思わず鳥肌が立つ。

「大丈夫か、秀和?」

 俺の状況を心配している哲也は、息を切らしながらこっちに走ってくる。

「ああ、なんとかな。ふー、とんだスリリングな体験だったぜ」

「派手にやったじゃねーか! そのまま動くなよ、今写真撮るから!」

 熱い心を持っている聡は、こんな俺の勇姿を脳裏に焼き付けるために、スマホを構えてシャッターを切る準備に入った。

「あっ、待って! 私も撮る撮る~」

 そしていつの間にか、森に隠れていたはずの菜摘もデジカメを構えて、ベストアングルを探し始めた。

「うわっ!? まったく、しんしゅつきぼちゅ……やべえ、噛んじまった」

 失態をした聡は、照れ隠しに目線を逸らした。しかしその瞬間に、思わぬ事態が発生しちまった。


 死んだはずのドデカサソリが、最後の力を振り絞って大きなハサミを振るい、聡に攻撃を繰り出しやがった!

 こいつ、まだ生きてたのかよ!

 あまりにも急展開だったので、誰もがそれを阻止する余裕がなかった。聡に至っては、表情こそ強張っているものの、体が完全に固まって、さっきのすげえ攻撃を出すことは不可能に近いだろう。

 くそっ、早くもうちの脱兎組ランニング・ラビットに初めての犠牲者が出るのかよ! それじゃみんなとの約束、果たせねえじゃねえか!

「やめろおおおおおおぉぉーー!!!」

 焦りのあまりに、俺は思わずそう叫んだ。人間の言葉が分からない化け物に対して、この虚しい叫びに意味がないと知りながら。

 だが、そんな俺の思いが天に伝わったのか、この救いのないと思われた展開に、またしても変化を遂げた。

【雑談タイム】


聡「おいおい、ウソだろう? 早くもオレは出番なしかよ!?」

秀和「今までありがとう、聡。お前のこと、決して忘れねえからな」

聡「勝手に殺すなー!」

秀和「まあ、あの作者のことだ。きっと何とかしてくれるだろう」

聡「マジで? それならいいけどよ……この状況で起死回生できる方法はあるのか」

秀和「ある!」(キリッ)

聡「なんでそう言い切れるんだよ!」

秀和「俺は作者と一心同体だからな~というのはウソだけど、さすがにここでネタバレしたらまずいからな」

聡「やっぱそう来るのかよ……つまんねーな」

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