「男の奴隷は必要ない」と捨てられた俺が、伝説の勇者になった件 ~俺たちの名は、エヴォリュート・ソル~

さぼてん
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ソル奮戦

公開日時: 2021年3月10日(水) 08:09
文字数:1,304

「タァッ!」

掛け声とともに炎を纏うソルの足が、ブラードの鎌を横から蹴りつける。その威力の大きさにぐらつき、倒れるブラード。

 

「何……あれ」

間一髪のところで危機を脱したミズキは、突如現れたもう一つの異形に困惑する。

 

「タッ!」

ソルはしゃがみ込む彼女を守るように立ちふさがり、構えを取る。夜風が吹き、砂埃を散らした。

 

「!」

一瞬の静寂が終わると、事態は動いた。倒れ込んだブラードの上半身が伸び、地を這って襲い掛かってきたのだ。

《おおっと!》

それを真正面から受け止め、吐き出す溶解毒を喰らわないようその顔を捻り、横に向ける。

 

「タアァーーッ!」

彼が渾身の力を振り絞ると、全高60メートルはあろう巨体が宙に持ち上がる!

「ギエェェッ!」

ブラードは大地に勢いよく叩きつけられ、悶え苦しんだ。

 

(《プロミネンス……ストライク!》)

「トアァァーッ!」

そして間髪入れずにプロミネンスストライクを発射!直撃した光線は大爆発を起こし、

「やったの……?」

魔獣を粉砕した――かに思えた。

 

《何……!?》

なんと爆炎の中から、その体が少し傷ついただけのブラードの体が姿を現したのだ。

必殺の光線が通じないその様子に驚くソル。

 

(なるほど、高熱に耐性をつけてきたか)

それを観察していたルナは、心の中でつぶやいた。

彼の予想は的中していた。ブラードが強化されたのは戦闘能力だけではない。敗因となった超高熱による切断――それに対抗できるだけの耐熱性を付与されていたのだ。

 

「!」

直後、ソルは再び驚愕した。

ブラードの上半身から先が、地面に穴をあけ入り込んでいたのだ。

背後や足元からの攻撃に警戒し、辺りを見回す。

しかし――

 

ボゴッ!ボゴボゴッ!

 

「な、何!?何ですか!?」

その攻撃の矛先が向いたのはソルではなかった。岩陰に隠れていたユウキの真下の地面が、音を立てて盛り上がる。

 

「うわぁーっ!」

直後、地面が勢い良く吹き飛ぶ。岩盤と共に宙へ打ち上げられてしまうユウキ。

「シャアアア……!」

そんな彼を喰らうべく、魔獣の牙が迫る。

「ママァーーっ!」

ユウキの悲鳴が轟いた。もうだめだ、彼はぎゅっと目をつぶる。

(やばいっ!)

すぐさま飛び立ち、助けに入ろうとするソル。だが、遠すぎる。

間に合わない――だれもがそう確信した時。

 

「ルナ―――ッ!」

今まで静寂を保ち続けていた彼が、ついに動いた。

懐から短剣のような道具を取り出した彼はそれを掲げ、叫ぶ。

すると青い光が彼を包み、光の玉となって飛翔。

 

ガキン!

ブラードの顎が閉じる音だけが響き渡る。

 

「……はっ!」

光の玉はゆっくりと地面に着地。

ユウキが閉じていた目を開くと、そこには――

 

「……」

沈黙とともに立つ、青き勇者が立っていた。

彼は獲物を取り逃し口惜しそうに引き下がってゆくブラードの上半身を見つめていた。

 

《すまない、ルナ!》

「ふん」

駆け付けたソルは彼の横に並び、感謝の意を伝える。それを鼻で笑うように返すと、彼は言った。

「来るぞ」

彼が指さしたその方向には、上半身を元に戻し、地響きを立てて迫りくるブラードの姿。

 

《ルナ!》

「……ああ」

彼らは互いに視線をかわした後、魔獣を迎え撃つべく構えを取る。

今ここに、二人の勇者の共闘が始まろうとしていた――!

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