「男の奴隷は必要ない」と捨てられた俺が、伝説の勇者になった件 ~俺たちの名は、エヴォリュート・ソル~

さぼてん
さぼてん

変貌

公開日時: 2021年3月4日(木) 15:37
文字数:1,467

「ハァ……ハァッ……!」

横殴りの大雨の中、アサヒは身一つで森の中を走り続けていた。

 

「俺、探しに行ってきます!」

「私も行こう」

「ダメです、ティムさんはここにいてください!」

「何故だ?私はあの子の父親だ!」

「だからです!探しに行ってあなたが巻き込まれでもしたら、ユウナちゃんはどうなるんですか!?」

「とにかく、貴方はここで待っていてください!」

「アサヒ君!」

 

――半ば強引に話をつけて飛び出したはいいものの、予想以上の豪雨、そして強風で、彼の歩みはなかなか進まない。

しかし、向かうべき場所は何となくだが察しがついていた。

彼女の向かいそうな場所、それはただ一つ――あの湖だ。

 

「頼むぜ俺の勘、当たっててくれよ……!」

 

 

「何だよこれ……!」

 

――数十分ののち。やっとの思いで湖にたどり着いたアサヒが見たのは、想像を絶する光景だった。

空は分厚い雲に覆われ、そこからいくつもの電が降り注いでいる。

水面は激しく、かつ大きく渦を巻いている。

岸辺のあちこちで竜巻が発生し、木々の一部をなぎ倒している。

まるで、世界の終わりのような光景だった。

 

「いたっ!ユウナちゃん!」

そんな光景の中に、一人佇む少女――ユウナを発見したアサヒは、急いで彼女のもとに駆け寄る。

「アサヒさんっ……!」

「何でいなくなったりしたんだ!……とにかく、早く帰ろう!ティムさんが心配してる!」

そう言って彼女の手を握り、引こうとするアサヒ。しかし、彼女は動こうとしない。

 

「……もしかして、ヌシ様が心配で?」

アサヒの言葉は大当たりだった。ユウナはその言葉に無言ながら強く、頷いた。

そんな時だった。

 

「グオォォォォーーン!」

 

大気を揺らすほどの雄叫びが轟いた。そして同時に、水面が大きな水柱を立て、そこから巨大な何かが飛び出した。それは――

 

「ヌシ……様っ?」

全身を機械仕掛けの拘束具、いや鎧で包まれたような、真っ赤な瞳の魚の怪物。

ヌシ様の変わり果てた姿――奇械水棲獣アイアンスが現れた。

「んだよ、これ……!」

《アサヒ、奴の額を見ろ!》

ソルが叫ぶ。アサヒがアイアンスの額に目をやると、そこには――

 

(あのマーク……!)

《間違いない、奴らの仕業だ》

天使を思わせる、一対の翼のレリーフ――この世界に来る途中、ソルから教えてもらった次元奴隷商のシンボルマークが、刻まれていた。

 

(あいつらっ……許せねぇ!)

アサヒが怒りの炎を燃やした、その瞬間。

 

バシュン……ッ!アイアンスの口から、彼らめがけていきなり光弾が放たれた。

「危ないっ!」

アサヒはとっさにユウナを抱きかかえて飛び、なんとか回避に成功する。地面に直撃した光弾は、大きく大地をえぐり取った。

 

「ヌシ様っ、やめて!私たちがわからないの!?」

「きゃあっ!」

「うわっ!」

少女の悲痛な叫びを意にも介さず、次の攻撃を放つ怪物。

もう、黙ってはいられない。

 

《アサヒ、戦うんだ!》

(……ああ!)

アサヒは腕輪を天に掲げ、叫ぶ。

「ソル――――ッ!」

宝石が眩い輝きを放ち、アイアンスの、ユウナの眼がくらむ。

そして光がやんで現れたのは――

 

「ハアァァ……」

 

『太陽の勇者』――エヴォリュートソルだった。

彼はユウナの方へ顔を向けると、「逃げろ」という旨のジェスチャーをする。

それをのみ込んだ彼女は、森の奥へと走ってゆく――

が。

 

「!」

そんな彼女を狙うかのように、アイアンスの口からまたしても光弾が放たれる。

 

「トアッ!」

しかし、ソルもまた手のひらから光弾を放ち、それを空中で撃ち落とした。

赤い瞳がぎょろり、と彼を見た。彼を『敵』だと――そう認識したのだ。

ここに、戦いの火ぶたが切って落とされた――

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