「男の奴隷は必要ない」と捨てられた俺が、伝説の勇者になった件 ~俺たちの名は、エヴォリュート・ソル~

さぼてん
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アサヒ死す!?

公開日時: 2021年3月1日(月) 18:37
更新日時: 2021年3月3日(水) 03:17
文字数:2,821

――???

 

「ここは……?」

 

アサヒは困惑していた。

一瞬眩い光に包まれたかと思ったら、得体のしれない場所にいたのだから。

どれだけぐるぐると辺りを見回しても、わからないことだらけだ。

ただ一つのことを除いては。

 

「カグヤ、大丈夫か」

「……」

彼女も一緒に、ここにきてしまったということだ。

驚いているのか。それとも怯えているのか。少なくとも余裕がある風ではない。

いつもと違う彼女の表情に、アサヒの緊張はより一層高まる。

 

「ほら、手、握ってろ」

「……うん」

はぐれることのないように、彼女の手をしっかりと握る。

こうして二人は、ゆっくりと歩き出した。

 

 

しばらく歩き回ってみて、ようやく理解した。ここはあの帆船の中だ。

しかし、帆船に見えるのは外側だけ。内部は現代的、いやそれ以上といっていいぐらいに機械的なものだった。

まるでSF映画にでも出てきそうな――そこまで考えて、彼はある仮説に至った。

 

「宇宙船だ……」

「宇宙、船?」

「ああ。多分噂は本当だった……あのサイトを見た人間を、こうやって集めてるんだ」

「何のために?」

「わかんねぇ。けど……」

 

「俺がついてる」

 

彼女の顔をしっかりと見つめ、そう言った。

 

「……うん、そだね」

その言葉に、カグヤの表情は明るさを取り戻す。

 

「よーし!こうなったら宇宙人をこの目で見てやる!」

「おう!その意気だ!」

声を潜めながらも、二人は元気よくそう言いあった。

 

 

「!」

 

さらに歩き回っていると、何かの気配を感じた。

二人はとっさに物陰に隠れて、様子をうかがう。すると――

 

「しっかし、今回やたら収穫多かったな」

「ホントだよ。この惑星の奴ら、どれだけ現実から逃げたいんだか」

「ちょっと同情しちまうなぁ?」

「まったくだ」

 

通路の奥から、そんな会話をしている二人組の男――宇宙人だろうか――が歩いてきた。

体格は成人男性ぐらい、顔はすっぽりと仮面で覆われている。全身にアーマーを着込んだそれは、彼らの日常からは大きく剥離した存在だった。

 

「なんか、思ったより人間ぽいね……」

「そこ、重要か?」

「ちょっとは」

息を潜めながら、ひそひそとそんな会話をかわす二人。

幸いなことに聞こえてはいないらしい。

男たちはそのまま、通路を横切って行った――

 

 

かに、思えた。

 

 

「おいそこ、虫がいるぜ!」

「うげ、潰せ潰せ!」

 

アクシデントは、突然起こった。小さな虫が数匹、床を這っていたのだ。

男たちは足を振り下ろし、踏みつぶそうとする。

 

「おいこら、逃げんなっての!」

 

それだけならよかったのだが。

何の因果か、神の悪戯か。そのうちの一匹が、アサヒたちが隠れている物陰の方へと逃げてゆく。

そして。

 

「おい!」

「何だ、卵でも見つけたか?」

「いや……」

 

「人間がいた」

 

彼らは、見つかってしまった。

 

 

 

「がぁっ!」

「アサヒ!」

 

数分後。彼らは男たちにブリッジらしき部屋へと連行されていた。

床に投げ出され、顔面を強打するアサヒ。

部屋には、銃で武装した男たちが複数人いた。

 

「ったく、どっから忍び込んだんだぁ?」

「おい誰だよ!転送装置のスイッチ入れっぱなしにしてたの!これのせいだろ!」

「悪い悪い、それ俺だわ」

「悪いで済むかよ!」

「まぁまぁ、捕まえられたんだしよかったじゃねぇか」

 

がやがやと騒ぐ男たち。そんな様子に、

 

「何なんだよお前ら!いったい何が目的で!」

憤りが爆発し、立ち上がって怒鳴り散らすアサヒ。しかし、

 

「騒ぐなガキ!」

「ぐぁっ!」

ガッ!

銃の後部で強く殴りつけられ、再び床に叩きつけられる。

 

「おい、あんまり乱暴にすんな。商品になるかもしんねぇんだからよ」

それを見ていた男の一人が、殴りつけた男を諫める。

 

「商……品……っ?」

「そ、お前たちは売られんの。奴隷ってやつ?」

奴隷。その単語を聞いた瞬間、アサヒとカグヤの背筋にひやりとしたものが駆け抜ける。

「甘い言葉につられて、ホイホイついてきて……ホントバカな連中だよ」

「どこへ行っても、現実から逃げられやしねぇってのに」

 

「「「ハハハハハハハ!!」」」

 

男たちは、下品にゲラゲラと笑いたてる。

 

「ふ、ざ、けんなあぁぁぁっ!」

直後。アサヒの怒りが爆発した。

 

「ぶっ!?」

「うあっ!」

素早く立ち上がると体をねじり、背後の男の顔面に左で裏拳を浴びせる。そのままの勢いで右の回し蹴りを隣の男の側頭部に食らわせ、大きく後退させる。

 

「んのヤロ!」

こうされては黙ってはいられない、と正面の男が殴り掛かる。が、

「オオ、ラッ!」

「うっ!?」

腕を交差させてそれを受け止め、右手で相手の右腕をねじり上げる。

そしてすぐさま腰を入れた左でのパンチを相手の腹部に叩きこむ。

男がよろよろと後ろに下がると、アサヒは肩で息をしながら構えを取る。

 

「お、おい……もう撃っちまおうぜ」

「けどよ……」

 

銃を使うか否か。男たちが揉めていた――そんな時だった。

 

パァン!

 

乾いた音が、部屋に響いた。

 

「あぁっ!」

瞬間、アサヒの右脚に激痛が走る。

おびただしい量の血液が流れだし、床へ倒れこみもだえる彼。

 

「まったく、何をやっているんだお前らは」

 

コツコツと足音が響く。

呆れた様子でそう言いながら歩いてきたのは、黒いスーツに身を包んだ、小太りの男だった。その手に持った拳銃の銃口からは、まだ煙が噴き出していた。

 

「隊長!」

 

隊長――そう呼ばれた男は、アサヒとカグヤを交互に見ると、横にいる男へ言った。

「おい」

「ハッ!」

「何故、男がいるんだ?」

「ハッ?」

意味が分からない、といった具合に聞き返す部下。

 

「何故男がいるんだ、と言っているんだ!」

「も、申し訳ございません!ですが、何か問題でも?」

「男の奴隷は必要ない!今すぐ廃棄しろ!」

 

その言葉に、部下がざわつき始める。皆、「何を言っているんだ」という様子だ。

 

「た、隊長!本部からそんな命令は受けていないはずでは……?」

「私の命令に……逆らうつもりか?」

「い、いえ!」

 

男に凄まれ、部下たちは渋々アサヒの肩を両側から担ぎ上げ、運んでいく。

 

「アサヒを離しなさいよっ、この宇宙人!」

「おおっと、君は別だ」

たまらず飛び出すカグヤだったが、男に阻まれてしまう。

 

「アサヒっ!アサヒいぃぃぃーーっ!」

室内に響き渡るカグヤの絶叫。しかし無情にも、アサヒの姿は閉まりゆくドアの向こうへと消えてしまった――

 

 

――船内 廃棄処理室前通路

 

「お前も災難だったなぁ。隊長の気まぐれで殺されちまうんだから」

「ぐぅ……」

朦朧とする意識の中、目線だけで男をにらみつけるアサヒ。

 

「よし、ここだ」

しばらくして、男たちの動きが止まる。そこには、厳重に閉じられた高鉄の扉があった。

 

「この先はブラックホールに繋がっている……宇宙の墓場さ」

「今からお前をここに放り込んで、おさらばさ」

言いながら、男はパネルを操作し、扉を人が入る程度まで開く。

真っ黒な暗黒の空間――そうとしか形容できない光景が、そこに広がっていた。

 

「おい早くしろ、俺たちまで巻き込まれちまう」

「そうだな」

男たちはアサヒをぐい、と前にやると、

 

「じゃあな」

 

そう言って、彼を突き飛ばした――

 

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