レヴィンは、事前に聞かされていた通りに行動する。
こちとら平民なんだぞ、と心の中で威張りつつ黙々となんちゃって礼儀を取るのであった。
頭を下げて少し前方の地面を見つめていると、大公の出座が伝えられる。
すると、広間の空気が変わったように思えた。
横目で両側に並んでいた人々を見ると、頭を垂れているのが解った。
大公が入ってきたのだろう。
そして、頭上に声がかかる。
「面をあげるがよい」
その言葉に一同が顔を上げる。
しかし彼を直視したりはしない。そうしないように注意を受けていたからだ。
直視できないながらも観察していると、大公から労いの言葉がかけられる。
大公は、通称フルベアードと呼ばれる立派な髭を蓄えた五十代くらいの壮年の男性であった。
まずはホンザが何やら褒美を受けるようだ。
「商人ホンザよ。この度は我が国の食糧難を助けるべく、危険を顧みず大量の糧食を持って駆けつけてくれたという。儂はこの恩に報いねばならぬ。よって勲章と褒賞金を与える。受け取ってくれ」
「ははッ! 有り難きお言葉、恐悦至極に存じます」
「こちらもエクス公国出身と言うだけで、食糧の用意を頼ってしまい、申し訳なく思っておった。こちらこそ礼を言うぞ」
「はッ!」
ホンザは平身低頭している。
そんなホンザを近くに呼び、直接勲章をつける大公。
(大公が直接勲章をつけてくれるのか。そう言うものなのかな?)
次にレヴィンとイザーク、イーリスが呼ばれる。
「貴殿らは、我が国を悩ませていた『南斗旅団』を壊滅に追い込んだと聞いている。その武勇は天下無双の名にふさわしく、よってここにエクス公国の名誉貴族の称号を与え、褒賞金を与える。もちろん旅団にかかっていた手配金も支払われる故な」
「ありがとうございます」
勲章と褒賞金を恭しく受け取る三人である。
「あと、レヴィン殿の冒険者パーティ『無職の団』の団員にも褒賞金を与える。力を合わせ旅団を倒した功績は大きい。礼を言うぞ!」
アリシア達も礼をしている。
ベネディクトは貴族なので流石に優雅に振る舞っている。
全ての儀式が終わって、大公は退出したようだ。
レヴィン達も言われて通りに広間を辞し、先程の控室へと戻ってくる。
戻るや否や、ダライアスが満面の笑みを浮かべながら話しかけてきた。
「褒賞金だってさ! やったぜ! 護衛を受けて良かったなッ!」
「かなり危険な任務を勝手に受ける事にして皆には迷惑をかけた。ありがとう」
レヴィンは皆に改めてお礼をした。
もちろんイザークとイーリスにもだ。
「上手くいったんだから、もう言いっこなしだ。装備も新調できるしな!」
ヴァイスも破顔している。
アリシアとシーンも微笑んでくれている。
「それにしても名誉貴族だってよ。顔が利くようになんのか?」
イザークが疑問を述べる。
功績は周知されるそうなので、名前は公国に響き渡るかも知れない。
「まぁ特に義務が発生するとかじゃないらしいので、もらっておいて損はないのでは?」
レヴィンが適当に思った事を口にした。
「これで名誉貴族になった訳だけど、アウステリア王国の貴族になる件はどうするんだい?」
「レヴィン、王国の貴族になるのッ!?」
ベネディクトの言葉に驚きの声を上げるアリシア。
こっちは義務が発生するんだようなぁと、レヴィンは面倒臭そうな顔をする。
「まぁ、その話は受ける事にするよ。マッカーシー卿によろしくお伝えして欲しい」
家族にも相談していないが、仕方ないだろう。
半分脅迫みたいな感じだったぞ。アレは。とレヴィンは当時の事を思いだしていた。
皆、思い思いに会話を楽しんでいると、控室の扉がノックされる。
ホンザが返事して、扉を開けるようだ。
すると、入ってきたのは、華美な中にも嫌みのない装飾を施し、センスある貴族服に身を包んだ銀髪の女性であった。
「ホ、ホッジス公ッ!?」
ホンザは驚きの声を上げる。
彼女はルドミン・バジナ・ドラン・ホッジス公爵、ホッジスの町とゴズ村、チェシャ村の領主である。
「ホンザ殿、突然すまぬな。我が領の村に食糧を運んでくれたと聞く。是非お礼が言いたくてな」
「いえ、滅相もございません。私も各村にはお世話になった事がありました故……」
「予定が空いていれば、是非我が領へ足を運んでくれぬか? もてなしたいのだ。ホンザ殿だけでなく、貴殿らもな」
ホンザだけでなく、レヴィン達にもお誘いがかかっているようだ。
「この食糧難の時期ですから、ありがたい申し出ではございますが、ご辞退させて頂きます」
レヴィンとイザークもホンザのように断った。
「そうだな。また、折を見て招待させてもらおうか。旅団壊滅の武勇伝も聞きたいしな」
そう言うと彼女は部屋を出て行った。ホンザが彼女について教えてくれた。
彼女は若くして公爵になっているが、娘を第二公子に嫁がせているのだという。
その他にも優秀な子息を持ち、聡明で慈悲深い女領主として名を馳せているらしい。
食糧を徴発していった、印象が最悪のコルチェ公爵と勢力を二分しているそうである。
ちなみに大公は、フィリプ・ドフナーレク・ウリス・ガルフ・エクセリアという名前だそうだ。覚えられるか自信がないレヴィンであった。
「ではそろそろお暇しましょうか」
ベネディクトがそう告げると、一行は城から退去する。
ちなみに、荷馬車に乗せられていた、食糧とお宝は引き渡し済みである。
もちろん、武器や魔石は少しばかり頂戴したのだが。
ホンザとは城を出た後、報酬をもらい、別れた。
しばらく、エクスに滞在して他国に売れる物を探すそうだ。
エクス公国出身だが、この国に拠点を持っていないホンザは、いずれ首都エクスか、ホッジスの町に拠点を置こうと考えているという。
「レヴィン君には本当にお世話になった。あの時、見捨てないでいてくれたおかげだ。また、何かあったら依頼するよ」
そう言い残して去って行くホンザ。
本当に長い任務だったなと、レヴィンは思い起こす。
「とりあえずカルマまで戻るんだろ? 一緒に行こうぜ」
「そうですね……。今回は本当にありがとうございました。僕達だけでは死んでいたでしょう」
「今更だな。まぁ気にすんな」
「はい。では行きましょうか」
そう言って一同は歩き始めた。
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