神様の願いを叶えて世界最強!! ~職業無職を極めて天下無双する~

最強の職業、無職(ニート)となり、混乱する世界を駆け抜ける!!
波 七海
波 七海

1-29 仄暗い部屋の中で

公開日時: 2020年10月8日(木) 20:30
文字数:4,030

 水が滴り落ちる音が聞こえるような気がして、うっすらと目を開ける。

 しかし目隠しされているのだろう。何も見えない。

 どうやら床に転がされているようだ。それは感覚で解った。

 ひどくかび臭く、空気は冷たい。

 体を動かそうとするが凄まじい倦怠感のため、それもままならない。


 耳元でキーキーと小さな鳴き声が聞こえる。

 おそらくネズミか何かだろう。


 状況を把握しようとするも、頭がボーッとしていて中々機能してくれない。

 確かあの時……声がして……魔法……そうだッ魔法による攻撃を受けたんだ。

 あの魔法は……。


 眠神降臨ヒュプノス


 相手を眠りに誘う魔法だ。付与魔法だが職業クラスレベルが低いのと魔法陣が解らないのとでレヴィンは使用できない。

 段々と自分の置かれている状態が把握できてくる。

 目隠しに猿ぐつわをされ、手足は縛られている。

 何もできそうにない。できるとしたら芋虫のようにウネウネ動く事くらいだ。


 そんな時、隣りの方からむーむーとうなり声のようなものが聞こえてくる。

 同じ状態の者が存在するようだ。

 すると、野太い声がかかる。


「気が付いたか……。でも何をしても無駄だぞ。お前らは今、芋虫状態だからな」


むむむむむむ。むむむッ!むむむみゅうむむむッ!縄を外せ、貴様ッ!この卑怯者がッ!


 誰かが必死に喚いているようだ。

 レヴィンは喚いても何にもならないと思い、静かにしている。

 レヴィンの隣りでもむーむー喚き続けているヤツがいるが。


 しばらくするとガチャッと扉が開く音がする。誰かが入ってきたようだ。


「おう。どいつがターゲットだ?」


「へぇ、こいつです」


 そんなやり取りが聞こえ、誰かが何人か近づいてくるのが解る。


「一応鑑定してみるか」


 どうやら鑑定士の能力を持つ人間のようである。


「どうです? 間違いないでしょう?」


「確かに。他にも貴族がいるな? そいつらも全員身代金を要求だ。」


「平民もいるようですがどうします?」


「ふむう。中学に通わせるほどだ。一応、要求しておけッ!」


 そう言うと、足音は遠ざかってい行き、ガチャンと扉が閉まる音がした。


「お前らも運が悪かったなぁ。まぁ仕方ないと思って諦めるんだな」


 見張りだろうか? まだ一人誰かが残っているようだ。


(誘拐か……こりゃ内部に仲間がいたな。それに身代金か。でもそれだけで済むとは思えないな)


 おそらく、身代金を払っても身柄が引き渡される事はないだろう。

 殺すか? いや金目当てなら奴隷にして売るという可能性もある。

 確か隷属化の魔法が存在したはずだ。使用するには、いくつかの制約の下でという条件があるが。


 レヴィンはここがどこで、敵の規模がどれくらいなのか考えていた。

 場所が解らなければ脱出できてもどの方角に逃げればよいか解らないし、そもそもあの扉の向こうには一体何人の敵がいるかも解らないのだ。何の考えもなく脱出を強行するのは蛮勇であろう。


 取り合えず魔法を使える状態にならなきゃいけない。しかし今はその時でない。

 何かの薬でも使われたのか体が思うように動かせないのだ。

 おそらく他のメンバーも同様だろう。

 とりあえず今できる事をしようと思い、レヴィンはヘルプ君に頼んで職業変更クラスチェンジを行い、能力を行使した。

 そしてすぐには殺されないだろうと予想して一旦眠りにつく事にした。




 どれくらい眠っただろうか?

 レヴィンは再び目を覚ましていた。

 体の倦怠感はまだ抜けきっていない。

 しかし猛烈に腹が減った。いったい捕まってからどれくらいの時間が経過したのであろうか?


(まったく食事も出さないのここんちは?)


 そんな心の声が届いたのか、再び扉が開いた。

 そして足音が近づいてきて錠前が外される音がした。

 ここは独房か何かなのかも知れない。


「おい、飯だ! 起きろッ!」


 強引に上半身を起こされて猿ぐつわを外される。それ以外はそのままだ。


「今から飯と水を与えてやる! 魔法を使おうとするなよ? 使おうとしたらぶっ飛ばすぞッ!」


 そう言うと、口の中にパンのようなものがねじ込まれる。

 必死に咀嚼して飲み込もうとするも口の中がカラカラに乾いており飲み込めない。


「み、水……」


 小さくうめくと、今度が水を口の中に流し込まれた。

 むせそうになりながらも何とか飲み込む事ができた。

 他にも何人かの声が聞こえてくる。

 レヴィンと同様に食事が与えられているのだろう。

 足下でキーキー生物が鳴いている。おそらく前と同じネズミなのだろう。

 パンクズを目当てに近づいてきたのかも知れない。レヴィンはその存在に安堵する。


「ちッ! しッしッ! こっちくんな!」


 食事を持って来た男が追い払おうと声を上げている。

 無駄だろうが、レヴィンはその男に声をかけてみた。


「今、何日の何時ですか?」


「ああッ!? 余計な口聞いてんじゃねぇ! ぶっ殺すぞッ!」


 怒鳴られて、再び猿ぐつわを噛まされた。




 それから何度か眠り、時間だけが過ぎてゆく。

 しかし、おかげで倦怠感も消え、今なら動けそうである。

 ただ一つ気になるのが日課になった食事の時間だ。

 感覚的にはもうじきやってくるような気がするのだが……。


 しばらく考え事をしながら待っていると、扉が開く音が聞こえた。

 複数人の足音が近づいて来る。

 それは予想通り食事係のものであった。

 いつも通りに乱暴に猿ぐつわを外され、パンを口にねじ込んでくる。

 食事の係と言っても嫌々させられているだろう。

 目隠ししていてもそんな様子が感じられた。

 そして食事が終わり、そいつらは部屋から出ていく。


 よしチャンス到来だ。

 レヴィンは再び、獣使いの能力である『獣を操る』を発動する。

 対象は近くにいるネズミ(仮)である。

 後ろ手に縛られている縄をネズミ(仮)にかじってもらう。

 レヴィンは壁を背後にした体勢をとっているのでおそらく見つかるまい。


 思ったより時間がかかったが無事に手を拘束していた縄を解く事に成功した。

 そして目隠しを少しズラして室内の様子を覗き見る。

 思った通り、独房が向い合せに二つあり、入口の扉の近くには見張りが二人座って何かをしている。

 こちらには全く注意を払っていないようだ。

 近くには案の定ネズミのような生物が静かに佇んでいる。

 もう面倒くさいのでネズミと呼ぶ事にした。

 そして口をふさいでいた猿ぐつわを外すと魔法を放つ。


睡眠スリープ


 効くかどうか不安だったが、見張りの二人は急に頭を垂れてテーブルに頭をぶつけた。

 ゴンと鈍い音が響くが、たいした音ではない。

 気づかれる事はないだろう。起きる気配もない。

 後は独房の鍵だが、これはネズミにでも取って来させるか。

 そう思ったが、よく考えると魔法でぶった斬った方が楽だと気づいたので、職業変更クラスチェンジで黒魔導士に戻る。

 職業変更クラスチェンジしたのは黒魔導士でいた方が魔法の威力が上がるからである。


空破斬エアロカッター


 刃が簡単に鉄格子を斬り裂いた。

 本当に使い勝手の良い魔法である。

 レヴィンは独房から出ると眠っている二人が腰に佩いている剣を奪う。

 そして元居た場所に戻る全身をふん縛られて転がっている残り二人の縄を全て断ち切り、目隠しと猿ぐつわを外していく。

 もちろん、静かにするようによく言い聞かせた上でだ。

 最初に解放したのは同じ独房にいたベネディクトとノイマンだ。


「すごいね。一体どうやったんだい?」


 ベネディクトが尊敬のこもった眼差しで問いかけてくるが言葉を濁してごまかした。

 次は向かいの独房である。同じように鉄格子を斬り裂き残りの三人を解放する。

 奪った剣は戦士ファイターのケミスと騎士ナイトのノエルに持たせた。

 レヴィンが持っていてもうまく扱う事ができないからだ。

 それから眠っている二人の付近を調べたが何もなかった。

 レヴィン達がしていた装備はここには置いていないようである。

 この二人はレヴィン達を縛っていた縄で手足を縛って転がしておいた。


 さてこれからどうするかが問題だ。

 この扉の向こうがどうなっているのか、敵が何人いるのか全く分からない。


「そう言えば、皆、体に不調はないか?」


 全員、首を横に振る。


「俺はうんこを我慢しているくらいだな」


 ノエルが真顔でそう言った。

 確かにもう何日たったのかは不明だがトイレには一切行っていない。

 ノエルも場を和ませようと言ったのだろう。

 そうだよな?


「後は扉の向こうの様子が解ればな……」


 レヴィンが困ったようにつぶやくと、ベネディクトが事もなさげに答える。


「ああ、任せてくれ。僕は探知ディテクションが使える」


(まじで!? どこを探しても記載されている本が見つからなかったんだぞ?)


 驚いた顔を見て何やら納得したのだろう。ベネディクトが続ける。


「探知魔法は、普通の書物には載っていないからね。でも実際は低級の黒魔法なんだよ?」


 後で教えて欲しいというとあっさりと了承してくれた。

 ベネディクトはさわやかな笑顔でこちらを見ている。


「おいおい。後でって、ここから脱出してから言えよ……」


 ケミスが呆れて突っ込む。




探知ディテクション


 ベネディクトが魔法を使用し、続けて状況を語り始める。


「扉を出てすぐ辺りに一人いる。隣りの部屋の中央付近に四人だな。隣りの部屋の上の方にもいくつもの反応がある」


「なるほど。この部屋には窓がないし、地下室なのかも知れないな」


 探知の魔法を使った場合、どのように状況が伝わってくるのだろう。

 解ればより綿密に脱出計画を立てられるだろうにと残念に思う。

 言っても仕方のない事なのだが……。


「とりあえず扉を開けて睡眠スリープの魔法を全体に使う。と同時に、剣を渡した二人が相手に突っ込む。それで眠らなかった奴は剣と魔法のどちらかで制圧しよう。その場合殺すのをためらうなよ?」


 レヴィンは扉を開けた後の事を各自に指示すると、懸念事項を言葉にした。


「しかし、ここがどこなのか知りたいな。このままじゃ、どこに逃げればいいかも分からない」


「まぁそれは眠ったヤツか痛めつけたヤツに聞くという事で……」


「ケミス、痛めつけるのは悪手だな。一撃必殺のつもりでいこう。相手の実力も解らないんだし」


 レヴィンはケミスに注意しておく。

 そして先頭を行く予定のノエルが扉のノブに手をのばし、それを回す……。


「……」


「……」


「……」


「鍵かかってる……」


 ええ……。どうしようもない脱力感が彼等を襲う!

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