マッカスの街を出発し、ドルトムット領の村を通過した後、いよいよドルトムットの街に到着しようかと言うところで不意に馬車が停まる。何事かと思って馬車から降りてみると、前を行くフレンダの馬車が停まっていた。
降りてくるフレンダとオレリア。
「レヴィン様、もうじきドルトムットに到着ですが、街を一望できる良い場所があるので、そこにご案内しようと思いまして」
「そうだったんだ。急に停まるから何事かと思ったよ」
「では、参りましょう。着いていらしてください」
後を着いていくレヴィン。
よく見れば、小高い山になっている。
レヴィンは、簡単なトレッキング感覚で歩き出す
そして、前を行く、フレンダの隣りに並ぶ。
「この辺りは、魔物とかは出ないんですか?」
「めったに出ないと思いますわ。わたくしもよくオレリアと気晴らしに散歩にきますもの」
そう言えば、この山道も割としっかり整備されており、上りやすくなっている。
ゆるい山道を上っていくと、上から下りてきた人とすれ違う。
挨拶してすれ違うレヴィン。
山歩きと言えば、挨拶だな、とレヴィンは一人で盛り上がっていた。
相手はと言うと貴族服を着て山歩きをする一行に奇異な視線を送っていたのだが、レヴィンは気づいていない。
時間は解らないが、しばらくすると、山頂に到着したようだ。
開けた場所になっており、柵も整備されている。展望台のようなところだ。
見ると、景色を楽しむ者や、ベンチに座って、食べ物を広げている者がいる。ピクニックだろうか。
そして、辺りを走り回る子供達。
「レヴィン様、こちらへ」
タタタッと小走りで柵の方へ向かうと、こちらを振り返って手招きするフレンダ。
近づいて、柵から身を乗り出さんばかりに下と見下ろすレヴィン。
そこには、素晴らしい風景が広がっていた。
ドルトムットの街が一望でき、いくつもの水路に囲まれた整然とした印象のある都市がそこにはあった。
海が広がっており、港にはいくつもの船舶が並んでいる。大型のものだけでなく、少し離れたところには、小型の船もある。
漁船か何かだろうかと当たりをつけて、レヴィンは、フレンダに聞いてみた。
「素晴らしい景色ですねッ! あの船は漁船でしょうか?」
指差しながら尋ねると、フレンダは嬉しそうに答えてくれる。
「あの小型船は漁船ですね。大型のは、貿易船や軍船でしょう」
「貿易船の中継地なんですねッ! 僕の領地も大きい港を造って貿易船を呼びたいと思っていたんです! それに軍船もいいですね。是非、技術支援して頂きたいです」
はしゃいでいるレヴィンを見て、フレンダが嬉しそうに微笑む。
「ふふふ。そんなにはしゃいでらっしゃるレヴィン様は初めてみますわ」
「えッ!? そうですか? 恥ずかしいです……」
レヴィンも自分の知らないうちにテンションが上がっていたのだろう。
ウォルターを見ると、「ニョホホ」と笑っている。
すると、レヴィンの視線を感じたのだろう。口に手を当てて笑うのを止めるウォルター。
しばらく少し潮の香りのする風を感じながら、景色を楽しんでいると、走ってくる足音が近づいてくる。
見ると、子供達がこちらに向かってくるのが見えた。
そして、手に持っていた何かをフレンダに投げつけたのだ。
「やーい。魔女は、いなくなれー!」
「魔女がなんでこんなところにいるんだ! 魔女は家に帰れー!」
レヴィンが間に入る暇もなく、フレンダに何かの果実が当たってその服を赤色に染めていく。
「こらッ! あんたらッ! 痛い目に合わせるわよッ!」
オレリアが叫びながら、果実を投げてきた子供を追いかけている。
「大丈夫ですか!?」
レヴィンもすぐにフレンダの下に駆け寄ると服についたままの果実を取ってやる。
「大丈夫ですわ……。慣れておりますもの。それに子供のする事ですから……」
自嘲気味にそう言うフレンダであったが、レヴィンは「親はどんな教育をしているんだ」と文句を言ってしまう。
「仕方ないですわ……。わたくしが魔女なのがいけないんです」
「魔女? 職業が魔女と言う事ですか?」
「ええ、そうですわ。子供の頃から、魔女と言うだけで遠ざけられましたもの」
レヴィンは天を仰いだ。
この娘は生まれてすぐに魔女として、拒絶されてきたのだ。
鑑定で魔女と解った時、彼女の家族はどう思ったのだろうか?
思わず、迷宮創士として不遇な人生を歩んできたオスカルの姿が脳裏をよぎる。
「魔女と言うレア職業なのに、何の根拠もなく差別されるなんて許せない」
魔女は魔人の女性バージョンだと思ってくれればよい。
『闇魔法』に加え、魔法を強化できる素晴らしい能力を秘めた職業なのだ。
「まぁ……珍しい職業なのですね。レヴィン様、ありがとうございます。そう言って頂けただけでわたくしは……」
「魔法の教育は受けさせてもらえたんですか?」
「よく解らない職業でしたし、ろくに習っておりませんわ。家庭教師には一般的な教養と剣術のみを教えられました」
その時、子供を追っていたオレリアが戻ってきた。
「申し訳ございません。お嬢様。取り逃がしてしまいました……」
「いいのです。さ、領都に向かいましょう」
そう言うと、全員揃って山道を下っていく。
レヴィンはムスッとして下り坂をズンズン降りて行った。
レヴィンの脳裏には、この才能を埋もれさせたフレンダの周囲の連中をどうしてくれようかと言う考えしかなかった。
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