レヴィンは、姿を消したニコライを追おうと、祭壇の奥の部屋を隅々まで調べていた。
ちなみに、信徒達は、ナップサックに入れて持参した縄で手足を縛って転がしてある。
当然、幹部にしか解らない隠し通路があるのは、定番中の定番だろう。
奥の部屋は、雑然としていて、まるで物置のようになっていた。
「っかしーなぁ、普通だと隠し通路があるはずなんだけど……」
ほこりなどから見るに、この部屋の荷物はしばらく動かされた形跡がないように思われた。
部屋から出て、祭壇を挟んで反対側にある部屋にも入ってみた。
こちらは先程の部屋より広く造られており、テーブルと椅子、簡単な造りのベッドなどが備え付けられている。テーブルには木のコップや水差しが置かれている。幹部の控え室だろうか。
壁や床を慎重に観察しながら、でっぱりがあると、押してみたり、引っ張って見たりしたが何も起こらない。
そこら中の物を動かして回ったレヴィンである。
納得いかない顔をしながら、祭壇のある部屋へと戻る。
遠くから部屋を見渡してみると、違和感があった。
よくよく見ると、黒晶石でできた悪魔神の像が無くなっていることに気が付いた。
(あんなもん持って逃げたのか!?)
祭壇に近づいて像があった場所を探ってみる。
すると、その祭壇の下には、ズレた地下への扉があり、それをどけると、隠し階段が姿を現したのであった。
とりあえず、すぐ後を追う事に決めるレヴィン。
カゲユ達がすぐに解るように、祭壇回りを破壊して、隠し階段が見えやすくしておいた。
電撃でやられて動けない信徒達の無言の視線が刺さるが、一切気にしない。
ゆっくりと階段を降りていくレヴィン。
階段を降りながら一定間隔で、光球の魔法を放っていく。
よくこんなもの造ったなと感心しながら、壁を手で確認しつつ、階段を降りていく。
ほどなくして、少し広い空間になっている場所へとたどり着いた。地下水だろうか。どこからか水が流れており、滝のようだ。そして水がたまって泉のようになっている。
これも定番の回復の泉だろうか。が、んな訳ないと自分に突っ込んで、レヴィンは地面を調べる。
光球を辺りに放ちまくって確認すると、かすかに足跡のようなものが見える。
辺り一面、光球だらけで蛍光灯のような光量だ。
「探知」
ここで、念のため探知で確認しておく。しかし、反応はない。既にここから脱出してどこかに身を隠したのだろうか。ニコライは、電撃を喰らって、なお動く事が出来た。それは何故か。
先程、戦った合成獣と同様に自分を改造しているのか。はたまた、それ以外の理由があるのか。
人外に道を踏み外していても、あの悪魔神像を持って逃げるのは、難儀だと思われた。なら――。
「魔法探知」
(ビンゴッ!)
反応があった。場所は――。
滝のあるところだ。
「ニコライッ! そこにいるのは解っているぞッ!」
「貴様ッ……」
足を引きずって滝の裏から姿を現すニコライ。憎々し気な顔をしている。
「残念だったな。あとちょっとで逃げ切れたのに」
その言葉に憤怒の形相をするニコライ。
「その声……、レヴィンかぁーーーーーーーー!!」
「ご名答」
そう言って一応、被っておいた覆面目出し帽を取って顔を見せるレヴィン。
「おのれッ! おのれッ! おのれぇぇぇぇ!!」
ニコライは、怒りに満ちた表情で、乱暴に短剣を鞘から抜くとこちらに向けて構える。
こちらとの間合いを測りつつ、近づいて来る。しかし、片足を引きずっているのは雷撃の魔法のせいだろうか。
直撃は免れたが足に麻痺が残ったというところかも知れない。
レヴィンも、ヴァルガンダスを抜いて構える。
すると、一定の距離まで近づいたニコライは、懐から何かを取り出すと飲み込んだ。一つや二つではない。五つは飲み込んだようだ。
「鬼力だ。死ね!」
ニコライは人間離れしたスピードでこちらへ大きく飛ぶと短剣をレヴィンに突き立てる。
しかし、痺れまでは取れないのか、片足のみでの大ジャンプである。
強撃を何とかヴァルガンダスで受け止めるレヴィン。
剣撃を続け様に放つニコライにレヴィンは一方的に受け太刀する。
速すぎてさばききれない――
レヴィンは、大きく後ろへ飛んで間合いを取ろうとするが、ニコライも簡単には許さない。
タイミングを合わせて再び片足で大ジャンプして、レヴィンから離れない。
(くそたれ!)
「神霊烈攻」
まばゆい光が辺りを包み込む。魔霊界(アストラルサイド)からの一撃である。死霊などにも大打撃を与える魔法だ。人間でもかなりの苦痛のはずだ。
「ぐあぁあああああああ!!」
悲鳴を上げるニコライを、レヴィンの剣撃が襲う。
生かしたまま捕えたかったが、流石の幹部。それは無理そうだと判断して、レヴィンはニコライを殺しにかかる。
レヴィンの一撃が脇腹を裂き、右肩に突き刺さる。たまらず短剣を落として、大きく後ろに飛ぶと、懐から何か取り出すと光がニコライを包む。
「龍の祝福」
光が消えると、そこにあったものを一息に飲み干すニコライ。
嫌な予感がして、レヴィンは、致命傷を与える可能性のある魔法を放つ。
「空破斬」
不可視の圧縮された空気の刃がニコライの首を飛ばす――はずだった。
しかし、吹き散らされたのは、魔法の方であった。
(これは薬!? 薬師かッ!?)
再び、何かの能力を発動するニコライ。
「大精霊力」
そして、またしても、ニコライの手の中に出来る液体状のもの。
それを飲み干すと、魔法陣を展開する。
「氷錐槍()」
すると、氷の槍が数本出現する――はずだった。
現れたのは、十本以上の氷の槍であった。
(んな馬鹿なッ!)
「火炎障壁」
レヴィンの前に出来た炎の壁によって氷の槍は全て蒸発する。
連続して魔法陣を展開するニコライ。
反撃する隙を与えない気かッ!
「電撃」
何の魔法か魔法陣から推測したレヴィンは、発動の瞬間、横へ身を投げ出すようにして避ける。
何もない空間を電撃が、バチバチと音を立てて弾ける。
「火炎球」
ズガガアアアアアアアアアアン!!
レベルの低い方の黒魔法しか使ってこないため、レヴィンは生きながらえていた。
これが、上級の魔法ならば、今頃、レヴィンは地面に倒れ伏していたはずだ。
(ドーピングかよッ!)
明らかに普通の火炎球よりも高威力である。
炎が地面を舐める。そして這い寄ってくる。
「火炎球」
相殺するつもりの一撃だったが、予想以上の高威力にレヴィンを炎が襲う。
息を止めて炎から飛び出すと、泉へと身を躍らせるレヴィン。
多少焦げるだけで済んだのは幸運に過ぎない。
すぐに泉から這い上がると、魔法を発動する。
「爆撃風」
圧縮された空気が爆発的な威力を発揮して対象を吹き飛ばすはずだが、ほとんど効いていない。
予想していたレヴィンは、魔法を続ける。
「光弓」
流石にこれは、堪えきれなかったようで、光の矢の一筋がニコライの脇腹に穴を開ける。
口から赤い血を吐き出すニコライ。
「エクスポーション」
ニコライは、すかさず能力を発動して出来た液体を飲み干す。
「高速飛翔」
魔法戦だときりがないと判断したレヴィンは、魔法で一気にニコライの懐へ飛び込んだ。
剣を横薙ぎして腹を斬り裂いた――はずだったレヴィンをニコライは横から殴りつけると洞窟の壁に勢いよく叩きつける。
「かはッ」
壁に叩きつけられ、地面に倒れ伏したレヴィンの脳裏に最悪の未来がよぎる。
息ができない。いけない。早く立たなければ追撃がくる。
死の香り。
(んだよ……。薬師なんて反則じゃねーか……)
そう思うと、レヴィンの意識は暗転した。
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