昨日、冒険者ギルドで飲んだくれていた、エイベルとアニータに調査を依頼していたので、報告を聞きにギルドへと行かなければならない。朝九時に約束をしているので、まったりと準備して、ゆっくりと向かった。
ちなみに今日は、ドルトムット家の邸宅で平民服に着替えて行ったので、皆の視線が刺さって痛かった。
マイセンもレヴィンと同じ頃にどこかへと消えて行った。
こちらはウォルターに任せているから大丈夫だろう。
冒険者ギルドに入ると、そこそこの人が依頼確認をしていたり、受付にならんでいたりしている。
辺りをキョロキョロと見回していると、横手から声がかかった。
「レヴィンくーん、こっちこっち」
声がした方を向くと、ひらひらと手を振るアニータの姿があった。
隣りにはエイベルもいる。
ギルド内の飲食店に入り、それぞれ飲み物を注文すると、早速、話を切り出すレヴィン。
店内はざわざわと騒がしい。
「それで何か解りました?」
アニータは持って来た紙を確認しながら、話始めた。
「ドルトムット卿の事から離すわね。デイヴ・フォン・ドルトムット伯爵、年齢は55歳。先妻との間に嫡男マイセンが生まれるが、先妻は13年前に病死。側室として迎えた現在の夫人との間に、四人の子供がいる。次男セグウェイ、三男ロマーノ、長女フレンダ、次女ルビー。職業は不明。父親が病死したため、35歳でドルトムット家を継ぐ。内政手腕に優れ、貿易の規模を先代の時よりも大幅にあげ、海賊対策として水軍の整備にも力を入れた。これと言った悪評はなし。ただ、長女フレンダを遠ざけているらしく、その点については批判する人がそこそこいたわ。市民はフレンダに同情的な感じかな」
そこまで話すと、店員が三人の飲み物を持ってやってきた。
アニータはそれを飲んで一息つくと、話を続けた。
「夫人の方も特に悪い評判はないわ。一時期はフレンダを生んだせいでマグナ教から弾劾されていたけど、すぐに次女のルビーを生んだお陰でそれもなくなったわ。すごい手の平返しをされたみたいね」
「夫人とマイセンさんの仲はどんな感じか解りますか?」
「んー特筆すべき事はないわね」
本当のところは知らないが、少なくとも表面上は取り繕っている感じかとレヴィンは思った。
まぁ、昨夜の事は本音が漏れたのだろうと考えておく。
「嫡男のマイセンは、23歳で職業は神官騎士ね。素行はあまりよくないみたい。街中での横暴な振る舞いが時々見られるそうよ。それにフレンダの悪口を放言しているって話。後は、神殿によく足を運んでるみたいね。まぁ職業も神官騎士だしマグナ教に帰依しているのかしら?」
「ドルトムット家は何を信仰しているんでしょう?」
「創造神ソリスだと思うわ。特にマグナ教を保護してるって話も聞かないし」
この辺は、レヴィンの想像通りのようだ。
葬儀の様式もマグナ教のそれではなかった。
「次は次男のセグウェイね。17歳で、現在王都の大学校に通っているわ。現在は春休みで帰省中。こっちは品行方正で通ってるようね。悪い話は聞かないわ。後、職業は騎士ね」
昨晩、彼が死亡した事はまだ公にはなっていないようだ。
「三男のロマーノは、先日、病死したらしいわね。享年12。昔は元気な子だったそうだけど、いつの頃からか病気がちになって伏せる事が多くなったそうよ。この子の事はもういいわね」
「なんの病気か解りますか?」
「解らないわね。医者を何人も変えていたようだけど……」
「なるほど。医者に接触しましたか?」
「してみたんだけど、患者の情報は教えられないって突っぱねられたわ」
まぁ医者としては至極当然な対応だわな、とレヴィンは心の中でつぶやいた。
「じゃあ、次はフレンダね。この娘の事はドルトムットでは知らない者はいないんじゃないかしら。魔女として有名だからね。彼女が生まれてから、ドルトムットには不幸が続いたって話よ。いつも彼女を弾劾する光景が広場で見られるわ。現在13歳だけど、王都の中学には行っていないようね。家庭教師に見てもらっているみたいよ。家庭教師も中々決まらなかったみたいだけど、今の人は長い事続いているようね。ちなみに名前はバーバラ」
レヴィンは、言葉にあった、ドルトムットの不幸について聞いてみたが、神殿で聞いた話と大差ない内容だったので少しがっかりする。
「バーバラさんの事はあまり解らなかったわ。この街で一人暮らししている女性って事くらい。家庭教師の帰りを待ち伏せして接触したけど、ノーコメントを通されたわ。ガードは堅いようね」
フレンダにオレリア以外の味方がいるんだなと少し安心するレヴィン。
「後は……ルビーかな。彼女は聖人として有名ね。神殿から熱心なラブコールがあるみたい。ドルトムット卿は神殿に入れる気はないみたいだけど。彼女はあまり表に出てこないから情報はほとんどないわね。今日のところはこんな感じかしら……」
「ありがとうございます。すごく参考になりました」
「そう言ってもらえると嬉しいわね」
「それでは、今度は明日までにマイセンさんの事を詳しく調べておいてもらえますか?」
「え? マイセン限定でいいの?」
「ええ、次期当主のマイセンさんの事はよく知っておかなきゃならないので」
「わかったわ! 私達に任せておいて!」
そう言うと、エイベルとアニータは飲み物の会計をして出て行った。
何故かレヴィンの飲み物代も払ってくれたようだ。
レヴィンは、エイベルさんは一言もしゃべらなかったな、と思いつつ、冒険者ギルドを後にした。
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