レヴィンの日常に再び休日が訪れた。
グレンによると先週の休日の後も何度かゴレナス草を取りに行ったそうだ。
そして北の都市、ラビスの医者に『鬼殺し』を大量に卸してきたという。
お陰で無事、伝染病は収まりつつあるとの事であった。
「父さん、今日は薬草採取に行くの?」
「今のところ特に必要な原料はないが……お前の勉強がてらポーション用のポー草を取りに行くか?」
ポー草のポーはポーションのポーだそうだ。なんて安易なネーミングセンス……。
グレンはレヴィンの冒険者活動に付き合ってくれるようだ。
休日しか外に出れない事をふまえて自分の事を考えてくれているのだなとレヴィンはとても嬉しくなった。
前と同じく南門から外へ出る。
徒歩で一時間とちょっと位の距離らしい。
「冒険者ギルドの薬草採取の依頼の多くがポーションのポー草か、日々の生活で必要な治療薬用の草とかだな。草自体は南の森の手前にも生えているから依頼はそれほど難しい訳ではない。まぁポー草自体は栽培可能なんだけどな。でも栽培してる奴はほとんどいないんじゃないか?」
「なんで栽培してる人が少ないの?」
「基本、技術は皆、隠しているものだ。単に知らないだけだったり、思いつかなかったりとそういうところだろう」
グレンは冒険者としての知識を教えてくれているのだろう。
淡々と話し続ける。
「南の森は通称、精霊の森と言われていてな。なんでも森の最奥には精霊が暮らしているそうだ。そんなでかい森でもないんだけどな。ただ、精霊術か何かで邪魔をされてたどり着ける事はほとんどないらしい。行った事があるって話は聞いた事はあるんだが……」
「精霊の森って言う位だから他の森とどこか違う部分があるの?」
「そこまで危険な魔物はでない。あと魔物の気性も割と穏やかなようだ。逆に王都から東に三日ほどの距離にある森は非常に危険だ。だが魔物の種類も数も多い事から冒険者の定番スポットでもある。ただ高位の冒険者でも油断したら死ぬ場所だ」
「ふーん。父さんも冒険者としてその森にも入ったの?」
「ああ、何度も行ったぞ。職業がアイテム士だったし必要とされる事が多かったな」
なるほど。回復専門職として白魔導士と共に活躍の機会が多いのだろうとレヴィンは考えた。
多くの国では職業変更が許されていないため、生まれもった職業で冒険者として勝負しなければならない。
職業別の割合とかも知れたらいいなと思う。しかしこういう事に対してはヘルプ君も役には立たない。
他にもグレンは色々教えてくれた。
銃の事を聞いたら彼も昔装備していた時期があったそうだ。
Cランクの魔石をはめ込む魔導銃を扱っていたという。なので、魔石はあまり売らずに取っておく癖があるらしい。先週狩った小鬼の魔石も売らずに持っているとの事だ。また、魔石には属性があるとも教えてくれた。その小鬼の魔石は赤い色をしており、火属性であるらしい。他にも青色は水属性、緑色は風属性、黄土色は土属性、銀色は光属性、黒色は闇属性だという事である。
「そう言えば父さんのレベルってどれ位なの?」
「うん? 今のレベルなんて解らないぞ? 鑑定士に頼めば解ると思うが、彼等は貴族などによって囲い込まれている。他のレアな職業についても同じだ。だから鑑定なんてしてもらう機会はない。ただ、若い頃、別の国で潜りの鑑定士に見てもらった時はLv23だったな」
「へぇ……じゃあ今はそれ以上なんだね。ところでレベルが上がったら解るものなのかな?」
「それは解るぞ。戦神様に祝福を受けるんだ。なぁに経験すれば解るよ」
一応、レベルアップの概念はあるようだ。さらに突っ込んで聞いてみると、職業レベルが上がった時も職業神による祝福があるとの事だった。そんなこんなで一時間近く歩いていると目的地に辿り着いた。ポー草を見せてもらう。なんの変哲もないただの草である。特に見た目に特徴がある訳でもなかった。一応判別できるようになっておこう。鑑定などできないのだから。
取りすぎないように注意し採集する。目的はあっさり果たされたが、すぐ帰るのもつまらない。
少し森に入って戦闘の一つもこなしてみたいとお願いするとグレンは思ったより簡単に許可してくれた。
自身の冒険者としての自信もあるのだろう。問題ないと考えたようだ。
森に分け入る二人。
最初に見つけたのは鳥の魔物だった。
ログハイネという鳥らしい。羽が非常に美しく、よく装飾やペンに用いられるそうだ。
近づくと威嚇してきたので、二人して飛びかかったのだが、飛んで逃げられてしまった。
「銃を持ってこればよかったな」と、グレンはつぶやいていたがどうしようもない。
次に見つけたのはワイルドボアだった。要は大きな猪である。
「俺がひきつけるから、レヴィンは横へ横へと回り込めッ!」
グレンから指示がでる。猪の猛進を避けつつ横へ回り込みダガーで攻撃を加え、すぐに離脱する。
蝶のように舞い~蜂のように刺~す! レヴィンは一撃離脱戦法だ。
グレンは少し動きの鈍ったワイルドボアを反対側からナイフで突き刺す。
そして力に任して押し倒す。すごい力だ。
「レヴィンッ! 首に突き刺して止めをさせッ!」
言われた通りにワイルドボアに近づくと首筋に刃をたてる。
思ったより容易に刃を突き立てる事ができた。
ボアはバタバタと暴れていたが、グレンに抑え込まれているため動くに動けない。
そのうち出血がひどくなりワイルドボアは力尽きた。
その瞬間、心の内に神が舞い降りた。
「おめでとうレベルアップだ」
何故かそこは森の中ではなく、死んだ後に来た天界のような場所であった。
状況が呑み込めず突っ立っていると目の前の男が話しかけてきた。
「藤堂貴正君、久しぶりの天界へようこそ」
最初にあった金髪碧眼の男ではない。
黒髪に黒い瞳をした男であった。
「最初のレベルアップの時呼んで様子を見るように言われたんだよ」
「あ、別にレベルアップの度に呼び出される訳じゃないんですね?」
「うん。毎回呼び出されても面倒くさいでしょ? 今回は俺がパシらされたって訳。ほらあの創造神様ちょっとアレだから……」
おそらく最初にあった男の事だろう、神様か。うん。確かに頭おかしかった。
あの時の事を思い出して若干イラっとくる。
「でさー俺も願いを叶えて神様になった訳よ。でも待っていたのは全然面白い仕事じゃなくてパシリに使われる毎日……そりゃ新人だからってさー」
「なんか天地創造とかさ。そういうでかい仕事を期待してた訳だよ。それなのに調整調整また調整……まわってくるのは地味な仕事、パシリ……」
「なんかもうあぁぁぁ!って感じよ? もう一回受肉化して地上に降臨したいわ……」
よほど日頃の鬱憤がたまっていたのだろう。目の前の神様は愚痴をこぼし続ける。
そんな虚ろな目をした神様に同情の目を向けつつ、レヴィンは言った。
「それにしても、この世界ってゲームのようでゲームでない、なんだか痒いところに手が届かない微妙な世界ですね」
「やっぱしそう思う? そうなんだよなー俺が人間の時からそうだったもんなー。でもウチらが自らこの世界の進化・深化に手を貸すのは禁じられてるからさー」
「改変時にもっと細かいところまで調整しておけばこんな変わった世界になってなかったし、後で調整に追われることもなかっただろうに……」
「職業と実際の稼業と言う意味での職業とかも呼び方が紛らわしいですよね」
「そう思う? やっぱそうだよねぇ。こっそり直しちゃうかな。あーでも権限に引っかかるか?」
その後も愚痴は延々と続き、体感で二、三時間たったのではないだろうかと思っていた頃。
「この世界、職業変更ができないから不便ですよね。簡単にできるのって転生者だけなんですか?」
「自分で職業変更できるのは転生者だけだねえ。後の現地人は転職士にお願いしなきゃいけない。でも貴族や王族なんかに囲い込まれてるみたいだし? 法でも決まっているでしょ? バレたらやっかいだよねえ」
「そうですよね。なんとか転職した事を隠せて、少なくとも自分の状態は確認できるようになれればいいんですけど……」
「あ、それくらいだったらこっそりいじってあげようか?偽装のソフ、じゃなくて調整してさ」
「え!? いいんですか!?」
「いいよいいよ。愚痴に付き合ってくれたお礼だよ。でもステータスの数値なんかは解らないよ? パラメータ自体が可視化されてないから。鑑定の簡易版て感じだけど」
「おお。ありがとうございます!」
「うん。状態開示って言う魔法を創って覚えさせておくよ。魔法神の先輩と仲良くしてもらってるし。じゃあ、愚痴を聞いてくれてありがとうね。元気でやんなよー」
その言葉を最後にレヴィンの意識は現実に引き戻された。
「おいッ! レヴィン?」
現実に戻って最初に聞いたのはグレンの声であった。
「んあ。なんかレベルアップしたみたい」
「そうか。やったな!」
グレンはよくやったと褒めてくれた。
そしてワイルドボアの血抜きを行い、皮を剥いでゆく。
その時、グレンが作業を止め、立ち上がって辺りを見渡し始めた。
どうやら血の臭いに誘われて再び魔物が現れたようである。
「エアウルフかッ!」
エアウルフはグルルと低いうなり声を上げて威嚇しつつ、二人を包囲しながら近寄ってくる。
全部で五匹だ。レヴィンはこのまま距離を詰められると不利になると思い、覚えたての魔法を放つ。先制攻撃だ。
「空破斬」
文字通り圧縮された空気の刃がエアウルフを首をかき斬る。
そして魔物はドウッと地に倒れ伏す。
続けざまにもう一発放つが、そちらはエアウルフの体に大きな切傷をつけるも今度は倒しきれない。
グレンとレヴィンは背中合わせに魔物の群れと対峙した。
一匹がグレンに飛びかかる。グレンはワイルドボアをさばいていた物とは別のナイフを取り出すとその個体を牽制する。
その隙に他の二匹がレヴィンに迫った。どうやら彼が狙われているようだ。
前まわり受け身の要領でくるりと回転しつつ攻撃をかわすと魔法を放つ。
「電撃」
それはレヴィンを狙っていたうちの一匹に当たり、その体をビクンと震わせる。
残りは空破斬で怪我を負った一匹と無傷の二匹だ。
無傷の二匹は同時に地を蹴って大きく飛ぶとグレンとレヴィンに一気に距離を詰め襲いかかる。
しかしレヴィンは余裕を持って魔法を発動する。
「空破斬」
魔法陣が展開し、突撃してきた一匹を葬り去る。
するとグレンに飛びかかっていた一匹がレヴィンの方へ大きく飛ぶ。
レヴィンの背中はガラ空きだ。
グレンはとっさにフォローに入ると、エアウルフに斬りつける。
その一撃は体にダメージを与えるも倒しきれない。
そしてその爪でレヴィンを攻撃する。その爪は何とか避けようとしたレヴィンの太腿を大きく傷づけた。
血がほとばしる。出血が大きい。太い血管でも傷つけたようだ。
グレンはそのエアウルフのがら空きになった背後から首筋にナイフを突き刺した。
(痛てぇ……ぬかったッ)
「レヴィンッ!大丈夫かッ!?」
駆け寄ろうとしたグレンを手で制し、もう一匹に集中するようお願いする。
「ポーションを使うから!」
レヴィンは、ローブのポケットにしまってあったポーションを飲もうとする。
が、飲むことができない。
(なんで!?)
レヴィンは混乱した。
グレンはレヴィンの言葉を無視して背後を警戒しつつ彼の側に駆け寄った。
「ポーションなんか持ってたのか? ほれこっちのポーションを飲め」
そう言うとグレンはレヴィンに懐から取り出したポーションを飲ませる。
今度は飲むことができた。
レヴィンの太腿の傷が塞がってゆく。
その時背中を向けたグレンに最後の一匹が飛びかかった。
グレンは振り向きざまにエアウルフに一撃をくらわせると、さらに追撃して馬乗りになるや、止めを胸の辺りに突き刺した。
「ふう……。低級の魔物でも群れるとやっかいだな」
彼はそういうとナイフを引き抜き、レヴィンの方へと歩いてくる。
「大丈夫か?」
怪我をした太腿辺りを確認し傷が塞がっている事を確認すると、安堵してレヴィンに言葉をかける。
「馬鹿だな。アイテム士でもないのにマジックアイテムなんか使えないだろ」
「アイテム士以外はアイテムを使えないの!?」
レヴィンの疑問になんだそんな事といったような表情を浮かべて答える。
「そうだよ。言ってなかったか? 母さんもアイテム士がいないと大変って言ってただろ?」
「肉は全部持ちかえれそうにないな。ワイルドボアの肉だけ持って帰ろう」
グレンは血抜きが終わっていたワイルドボアを解体し、大きな葉っぱに肉を包んだ後、背負っていたバッグに入れた。
作業が終わると彼は立ち上がって言った。
「さぁ、今日は帰ろう。出血したんだし家で休むんだぞ!」
痛みを伴ったが得るものは大きかった。
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