「ど、どうする?」
ノエルが聞いてくる。俺に聞くなよと思いつつ、レヴィンは少し考えてから思った事を口にする。
「もしかしたら中から何かの合図をすると外から鍵を開ける……みたいな流れなのかも知れないな」
「とりあえずノックしてみるかい?」
ベネディクトがノックする振りをする。
(うーん。ふん縛ってるヤツらを起こして聞き出すのもな。騒がれそうだし、勢いでいくか?)
「そうだね。ノックしてみて、隣りの部屋の一人が近づいてドアを開けたら押し入ってそいつを仕留める。それで後は予定通り行こうか?」
全員が同時に頷く。異論はないようだ。
単に考えるのが面倒なだけかも知んない。
「じゃあノエル、ノックよろしく。後、ベネディクト、もう一度、探知をお願い」
ノエルが言われた通りに二度扉をノックする。
そしてベネディクトも探知を使用した。
「ん。反応があったぞ。近づいてこないな。お。一人上に向っているぞ……。あッ上から十人くらい降りてくるッ」
あいやー。裏目ったかぁ!
「しゃーないッ! ちょっと魔法を撃つから扉の両側に身を隠してくれッ!」
レヴィンは扉に手を触れると魔法を発動する。
「火炎球」
その声にこたえて火炎球が出現する。
扉の向こう側に。
するとレヴィンは扉から手を放すと扉の右手に移動する。
ドゴォオオオオオオオオオオオオ!!!
扉の向こう側で火炎球が炸裂した。
と同時に扉が内側に吹っ飛んだ。
煙で視界が利かない。何も分からないのでもう一発お見舞いする。
ドッゴオオオオオオオオオオオン!!!
再び炸裂音が聞こえる。
うーん。もう一発。
ズゴゴォォォオオオオオオン!!!
「探知」
すかさずベネディクトがもう一度、探知を発動する。
おッ解ってるねえ!よッ大統領ッ!
「お。何人も動かなくなってるぞ! 何人かは上に向ってるッ!」
ここで睡眠を発動する。
「いや二発目から睡眠でよかったんじゃあ……」
ケミスが力なく突っ込んだ。
気のせいである。
ほどなくして煙が晴れてくる。
しかしすごい熱気が伝わってくる。
まだ、隣りの部屋には移動できそうもない。
「隣りの部屋に動く者はいないな。上で三人ほど固まってる。下の階の様子を窺っているのかも」
「向こうもこっちも部屋に入れないみたいだな。氷の魔法でもぶち込んだら冷えるんじゃないか?」
ノエルが提案する。うーん。脳筋。
「今度は霧で視界が利かなくなるよ」
ベネディクトが突っ込んだ。
「さっきみたいに隣りの部屋の天井に魔法を撃って天井を壊したらどうだ?」
「天井が崩壊して生き埋めになるだろ……」
今度はケミスが突っ込んだ。
うむ。突っ込みが多いと楽でよい。レヴィンは良いパーティだと自分達に太鼓判を押す。
未だ熱気で部屋に入る事もできず時間ばかりが過ぎてゆく。
「ん?」
探知で様子を見ていたベネディクトがつぶやいた。
「なんか上の階に人が集まってきたみたいだぞ?」
「敵の増援かな?」
「騒ぎに気づいて外の人が入ってきたとか?」
皆が口々に予想をする。
「ここがどこかの街中なら有り得るかもな。一階への扉が空いていればあの轟音も外に聞こえたかも知れないし」
敵の増援か、はたまた味方の救助か、レヴィンは迷っていた。
「どうする……」
そのつぶやきは誰かに届いただろうか?
◆◆◆
轟音とすごい振動が付近を襲ったと通報を受けた、メルディナの警備隊は出動の準備をしていた。
スラムにほど近いところに住む人からの通報であった。
一報は同時にこの都市に滞在していた、マッカーシー侯爵の私兵10名にももたらされていた。
メルディナは王直轄領である。
これは国王がスラムの存在に心を痛めており、スラム問題に心を砕いていたため、その方針が末端まで行き届いていたという証でもあった。これが他領での出来事ならば、スラムの厄介事に首を突っ込むのはゴメンだとばかりに警備隊が出動する事はなかったであろう。
警備隊長のビルドは、部下12名を三班に分け、通報のあった付近に聞き込みして周っていた。
王都の冒険者ギルドやマッカーシー侯爵から誘拐事件の事を聞いていた事も大きい。
轟音の元はすぐに特定された。
ビルドの班はすぐにそこに向い扉をノックする。
「いったい何事だッ?」
ビルドを出迎えたのは見るからに不機嫌な顔をした中年の男であった。
「ここで爆発音のような音を聞いたと通報があった。中を改めさせてもらいたい」
「拒否する。ここがどこだか解っているのかッ?」
この家は、ここら辺のスラム一帯を牛耳っているゲラルド一家の拠点であった。
それを知っていたビルドは緊張した面持ちで答える。
「そんな事は承知の上で言っている」
「でかい口を叩くなッ! 刃向うようならお前らの家族はただでは済まんぞッ!」
しかしビルドは持前の正義感から諦める事をしない。
双方の間で押し問答が開始された。
しかし、時間が経過するにつれ他班の部下達が集まってくる。
段々と増える警備隊の人数に中年男は顔色を悪化させていった。
押し入ろうとする警備隊に扉を盾に全力で反抗するゲラルドの一味。
「やましい事がないなら中に入れろッ!」
周囲には騒ぎを聞きつけた周辺住人達が集まってきていた。
まだ夜の二十時頃である。少し大きな通りにはまだまだ人が大勢歩いていた。
その通りをマッカーシー侯爵の私兵が駆け抜けて行く。
それがさらに人々の野次馬根性に火を点けた。
付近には、人がどんどん集まってきていた。
そして、ついにその人数の圧力で扉をこじ開け、中になだれ込む警備隊達。
そこはバーのような造りになっており、カウンターやビリヤード台が置かれていた。
そこには大柄な赤髪の男がいた。
ゲラルドである。
「貴様らッ……」
憎々し気に睨むゲラルドであったが心なしか顔色が悪い。
それもそのはず、この大きな空間にいたのはたったの三人であった。
流石に分が悪いと感じ取っているのだろう。
その時、凄まじい音と共に、カウンターの向こう側で何かが弾け飛んだ。
吹き飛ばされた扉のようなものと一緒に光線が天井にぶち当たり、ガラガラと音を立てて崩れていく。
「な、何事だッ!?」
カウンターの方に恐る恐る近づく警備隊とマッカーシーの私兵たち。
そこに大きな声が聞こえてくる。
「助けてッ!!」
ビルド達が地下室への入り口を発見し、上から見下ろした先には、倒れ伏す十数人の男達と助けを求める六人の少年がいた。
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