今のところ追手はない。
と言っても、城門を通過してから左程時間も経っていないのだが。
先頭をフレンダの馬車が、次に御者だけが乗る風神仕様の馬車が、そして最後尾をレヴィンとウォルターが乗る荷馬車が走っている。
街道を少し早いペースで進んでいる以外、特に変わった事はない。
レヴィンは荷馬車の中で、マイセンの部屋からパクってきた闇魔法の本を読んでいた。
現在、大魔導士の職業レベルが4まで来ている。後1上がれば念願の魔人に職業変更できる。その時、困らないように魔法陣を覚えておくのだ。
それから、1時間ほど経った。
乗り心地の悪い荷馬車に乗って本を読んでいるため、少し酔ってきた上に、お尻が痛い。
レヴィンは本を閉じて、しばらく休憩する事にした。
しかし、ただじっとしているのも暇である。
レヴィンは捕虜にした男にちょっかいを出す事にした。
「なぁ、襲撃の詳細だけど、話す気になった?」
「なんだ……突然だな……」
「ちょっと疲れたからな」
「ふッなんだその理由は……」
「知ってるか? 王都には職業が拷問官のヤツがいてな……その拷問がすごいのなんのって、なんでも泣く子も黙るって話だ」
「なんだよそれ? 拷問なんてされたら泣く子なんてもっと泣いちまうだろ」
「ははッ! 違いないな。王都の拷問官については俺も最近知ったんだが、そいつに拷問されたら誰でも言う事を聞いてしまうそうだ。お前も速く口を割った方がいいぞ?」
「……」
「報復を恐れてるんだったら、俺の領地で匿ってもいいぞ?」
そこへ、後方を監視していたウォルターが会話に割り込んできた。
「レヴィン様、お話しのところ申し訳ないのですが、追手です」
「来たか……」
レヴィンも荷馬車の幌をめくって後方を確認する。
そこには馬に乗って街道を爆走する者達の姿があった。
その速度は馬車をはるかに上回っている。
追いつかれるのも時間の問題だろう。
「近づいてきたら、広範囲雷撃魔法でも喰らわせるよ」
レヴィンは少し面倒臭そうにしながらも、幌から顔を出して追手が射程範囲に入るのをじっと待つ。
すると、ウォルターが何かに気づいたようで、レヴィンに話しかけてきた。
「レヴィン様、あの先頭の者ですが、マイセン殿ではありませんか?」
「うえッ!? 自らお出ましか?」
レヴィンは再びじっと先頭を見つめるが、誰だか判然としない。
この距離で見えているウォルターがすごいのだろう。
彼は幌をまくって後方の視界が利くように抑えてくれている。
「ウォルター視力いいんだな」
そう言っているうちにも差がどんどん縮まっているのが解る。
先頭はウォルターの言う通りマイセンのようだ。
何か口をパクパクさせている。
何か叫んでいるのだろう。
爆走する馬車の音にかき消されて何を言っているのか聞こえないが。
そして、マイセンと荷馬車の距離が1馬身差ほどになった時、レヴィンは魔法を虚空に描写した。
「亜極雷陣」
「馬鹿め! 魔法耐性を持つ俺には通用せんぞッ!」
バチバチバチバチバチッ
ドンガラシャッ
電撃の魔法を喰らって範囲内にいた全ての馬が崩れ落ち、騎乗していた者も落馬する。
「馬鹿か。馬に耐性なんてないだろが……」
それにしてもマイセンは魔法耐性を持っていると言った。
おそらく加護がそうなのだろうと考えるレヴィン。
加護は地味だが、有用な物が多い。
ちなみにレヴィンの加護は『究極無職』である。
効果は、全ての能力500%アップ、全魔法強化、全魔法耐性で、レベルアップで解放される項目がまだあるとヘルプ君が教えてくれた。能力が上がると言っても詳細なパラメータがマスクデータのため、確認する事ができないのだが。
レヴィンは、追手がついてこない事を確認すると、荷馬車の中に腰を落ち着けた。
「あんたの魔法……えげつねぇな……」
捕虜の一人がレヴィンに話しかけてくる。
他の捕虜も若干引いているようだ。
「そうかな? まぁ、そこらの魔導士よりは強いかもね」
平然と言うレヴィンに捕虜はため息をついて押し黙る。
「んで、神殿の誰が黒幕か教える気になった?」
「ああ、前向きに検討することにしたよ……」
捕虜の瞳には何故か、恐怖の色が現れていた。
読み終わったら、ポイントを付けましょう!