「出迎えご苦労! 私はエクス騎士団の副団長、ダミアーンだ」
「これはこれは、わざわざこのような村にご足労頂きありがとうございます」
村長が恭しくお辞儀をする。
「早速で悪いが、捕えた『南斗旅団』の元へ案内を頼む」
二十人の騎士と共に村の集会所に向う。
ダミアーンは手配書と本人を改めている。
手配は旅団の団長マクシミリアンと幹部のハヴェル、カシュパル、イェスタ、ブラッドリーにかかっているらしい。
マクシミリアンとイェスタ以外は死んでいるので、それを伝える。
「では、明朝出発する。この度、『南斗旅団』の壊滅に多大な貢献を果たした、ホンザ殿、冒険者『無職の団』の団員殿とイザーク殿、イーリス殿には首都エクスへご足労願いたい」
「なッ!? 何故私もなのでしょうか?」
ホンザが驚きに満ちた表情で質問する。
「貴殿は、この食糧難の中、危険を顧みず、この国へ食糧を運んでくれた。その功績により大公殿下より褒賞が下賜される故だ」
その言葉を聞いてホンザがより恐縮し、畏まっている。
そこへ村長が声をかける。
「それでは、ささやかながら皆様に料理を振る舞いたく存じます。どうか……」
それを途中で制するダミアーン。
「それには及ばぬ。食糧難なのだ。我々の事は気にする必要はない」
中々できた人物であるとレヴィンは感心している。
その後、騎士達は野営の準備に取り掛かり、村の施しを受ける事なく、朝を迎えた。
「それでは出発するッ!」
先頭をダミアーンと騎士四人が先導する。
その後に、馬車二台にホンザとレヴィン達が分乗し、捕虜達は護送車に入れられている。
護送車の両側を五人ずつが固め、最後尾をホンザの荷馬車と騎士六人がついていく形になった。
これだけの大所帯なので、街道を爆走する訳にもいかない。
旅はとても長引きそうであった。
ゆるやかに走る馬車の車窓から見えるのは一面の荒野である。
エクス公国は思ったほど豊かな土地ではないのかも知れない。
レヴィンは、窓の外をボーッと眺めながらぼんやり考える。
(この世界にジャガイモやトウモロコシってないのかな? イモっぽい食感の食べ物はあったような気がするけど)
心地良い揺れの中、いつしかレヴィンはウトウトし始める。
ずっと野宿が続き、極度の緊張状態の中で戦ってきたのだ。
それはアリシアなど、他のメンバー達にも言えた。
道中は、ほとんど眠って過ごした一行であった。
一行は、途中のコルチェの町を経由し、首都エクスへ進む。
コルチェの町は、カルマほどではないが、結構大きな町なのだが、その内部はひっそりとしており、あまり活気がない。
大通りにも人は少なく、寂れている印象である。
これも飢饉の影響なのだが、普段の町の姿を知らないので誤解してしまいそうになる一行であった。
食糧の徴発のイメージもあってコルチェ公の印象は最悪なのである。
コルチェでは久々に柔らかいベッドで寝る事ができた。
宿屋まで手配されているとは至せり尽くせりである。
本当に久しぶりの休息に感じて、レヴィン達は熟睡した。
コルチェから二日ほど経過した。
一行はドルグスキ山脈から流れる川に沿って南下している。
ここら辺は草原になっており、今まで見てきた荒野よりも大地にパワーを感じるレヴィンである。
豊かな大地が広がる場所には開拓村でも起こせばいいのにと思ってしまう。
レヴィンの隣りではアリシアとシーンが大公の話をしている。
平民である、彼女達が王族や貴族に会う機会はほとんどない。
学校で貴族の子弟に会うくらいだ。
どんな人物が出てくるか興味があるのだろう。
途中で、進行方向の右手から魔物が数体現れたようだ。
ハーヴェスト連峰の方角だろう。
騎士達がざわついている。
馬車の窓から何とか見えないかと様子を窺う。
先頭の騎士に護送車を警護していた騎士が合流し、魔物を狩っていく。
レヴィンは初めて見る魔物だったが、どうやらそれほど苦戦せずに倒したようだ。
直に進軍が再開される。
それからしばらくして、窓の外を眺めていたベネディクトが声を上げる。
「農地が広がっているね。もうすぐ到着するようだよ」
それを聞いた皆が窓の方へ体を近づけている。
外の様子を見たいようだ。
農地など見慣れたダライアスは一瞥すると、すぐに興味を失ってしまったようだ。
「どこの畑も同じさ」
ダライアスはそう言っている。
やがて城門に到着するが、止められたりすることはなかった。
騎士が掲げる紋章を見てすぐさま通過許可が降りたようである。
そのまま街の大通りを進む。
通りの両側には多くの市民が小さい旗を振って一行を見送っている。
まるで英雄達の凱旋を見守るような目をしている。
旅団を壊滅されたのはそれほどの大功なのだろうか?
「すごい歓声だね~」
アリシアが大きく目を見開いている。
歓迎される側になったのは、初めての経験なので、皆、目を白黒させている。
そして城へと続く城門も通過して、一同は馬車から降りるよう促される。
さすがは列強国の中の一国である。
その城は白亜の要塞を彷彿とさせ威厳がある、洗練されたデザインも目を引きつける原因だろう。
そして、控室に通されると、案内役がしばらく待つように言い残して部屋から出て行った。
「結構、待たなきゃいけないもんなの?」
レヴィンがベネディクトに尋ねると、彼は首を横に振りながら答えてくれる。
「いや、話は通っているはずだからすぐに謁見できるんじゃないかな? 時間も十分にあったはずだしね」
彼の言う通り、さほど待たされる事もなく、案内役が戻ってくる。
案内役に、儀式の進行と礼法を簡単に聞いて、いよいよ謁見に臨む事となった。
「ではこちらに」
案内されるがまま、着いていく。
先頭はホンザでその後にレヴィンのパーティが最後にイザークとイーリスが続く。
「それでは」
大きな観音開きの扉をそばに控える騎士が開く。
レヴィン達の視界に大きな広間とその両側に立ち並ぶ人々の姿が入る。
そして、一同は広間に足を踏み入れた。
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