何事もなく、王都への旅路はいたって順調であった。
暇なので色々考え事をしながら荷馬車の横を早足で歩いている。
順調なのは旅路だけでなく、他の職業や上級職業への職業変更の解放条件達成もそうである。
レヴィンの現在の職業レベルは、見習い戦士Lv2、アイテム士Lv2、戦士Lv2、騎士Lv2、弓使いLv3、狩人Lv2、黒魔法Lv5、白魔法Lv2、時空魔法Lv2、付与術士Lv1、獣使いLv2である。弓使いがLv3なのは狩人に職業変更可能になって、狩人の能力『五月雨撃ち』を習得したかったという理由ある。しかし、途中までレベルを上げた時点で、やはり優先は魔法だと思い直し方向転換した次第であった。
今の職業レベルの段階で、ここから新たに職業変更できる職業は、剣士、盗賊、幻術士、神官……etcがある。
ちなみに天界で最初に選択した職業の大魔導士は、黒魔導士Lv5、白魔導士Lv5、時魔導士Lv5にしないと解放されない。
まだまだ先は長いのだ。
ある程度、強い職業の能力を得る事ができれば、いざと言う時に、レヴィンの固有職業である無職になって戦い、戦況を有利に運ぶ事も可能になるだろう。その時にはレベルもかなり高くなっているかも知れないが、今から楽しみである。
しかし魔法優先に方向転換したはいいが、魔法が効かない敵とかここら辺に存在するのだろうか?
いるとしたら脅威である。無難に騎士系の職業レベルも上げておくべきだろうか。これは悩む。
そんな事を考えていると、前方から敵襲との声がかかる。
こんな事を考えていると、大抵ロクな事が起こらないものだがさてさて。
急いで前方に向うレヴィン。
荷馬車の進行方向に現れたのは見た事のない魔物だった。
のっぺりとした質感で、まるでバーバパ○のような外見をしている。
とても柔らかそうな感じがする。ゴムのようなものだろうか?
護衛の冒険者達が遠巻きにその魔物を取り囲んでいる。
先生! 攻撃が可能ですッ!
じゃなくて先制攻撃が可能であった。
「空破斬」
レヴィンの魔法が魔物に向かう。
そして魔物はあっさりとその体を両断される……はずだった。
しかし予想に反して圧縮された空気の刃は吹き散らされるように消え去ったのであった。
(空破斬で斬れなかったのは初めてだ)
「危ないだろッ! 魔法を使うなッ!」
怒声にも似た指示が飛んでくる。
どうやら周囲にいた人達はちょうど魔物に斬りかかろうとしていたところだったようだ。
「魔導士は後ろに下がっていろッ!」
再度、指示が飛んでくる。
こちらに逃げてくる魔導士然とした冒険者に事情を尋ねてみた。
「あの魔物はなんて言う名前なんですか?」
「お前、知らないのか!? あれはノマジアと言う魔物で魔法が一切効かないんだ!」
「そうなんですか? ランクは?」
「ランクはCだ。ったくこれだから初心者はッ!」
逃げてきた魔導士が吐き捨てるように文句を言ってくる
魔法が効かないのであれば、レヴィンに手の打ちようがない。
後方で戦いを見学していると、三人一斉に斬りかかったにも関わらずのらりくらりと剣撃がかわされている。
(本当にランクCの魔物かッ!? ランクCの冒険者が翻弄されているッ!?)
戦いは長期戦になりそうだ。
こちらの攻撃はかわされるか、当たってもかすり傷程度しか与えていないように見える。
一方、ノマジアの攻撃はゴムのような打撃で、かなり強力な一撃のようだ。
ためが長い分、かわし易いが、当たるとダメージは大きいように思える。
回復役から回復魔法が放たれる。
攻撃役が斬りつける。槍使いが強烈な突きを放つ。
ノマジアの打撃が戦士の体を吹っ飛ばす。
再び、回復魔法がかけられる。
一進一退の攻防が繰り広げられていた。
「くそッ! なんでこんなところにノマジアなんかが出るんだッ!?」
横にいる魔導士がごちる。
そんな事言ったって出てきちゃったものはしょうがない。
その戦いを見てレヴィンの中に疑問が芽生える。
「ノマジアってのはなんで襲ってきたんでしょうね? 豚人とかなら略奪なんかが考えられますけど、あいつはそういう感じじゃないんじゃあ……」
「そんな事は知った事じゃないッ!」
その時、前衛二人がまとめて吹っ飛ばされ、回復役の女性を巻き込んで三人共に動かなくなってしまった。
慌てて他の剣士や盗賊がフォローに入る。しかし彼等はランクDの冒険者だ。
吹っ飛ばされたのはランクCの冒険者である。
(勝負は決まったんじゃねーの?)
案の定、いきなり不利な感じになっている。
レヴィンは商人のボドワンに一旦荷馬車を捨てて脇の林の中に避難するよう進言した。
特殊な魔物みたいだし、積荷が目当てでないならどこかに行ってくれるかも知れない。
しかし返ってきたのは無情な言葉であった。
「そんな事ができるかッ! 冒険者ならなんとかしてくれッ!」
まぁ正論ではある。そのために冒険者を雇ったのだから。
そんなやり取りをしているうちにも新たに四人ほど気絶させられてしまったようだ。
しかし、思った通り、気絶している者には攻撃を仕掛けてこない。
あと三人か……。速く行けよ先輩!
レヴィンは口の悪い隣りの魔導士に心の中で毒づいた。
ノマジアは荷馬車と気絶した冒険者をスルーしてこちらに向ってくる。
距離を取るレヴィン。良かった。やはり荷馬車はスルーされたようだ。中に隠れている商人達と一緒に。
仕方ない。
(職業変更!)
近づいてきたノマジアは魔導士の一人を殴りつける。
その魔導士は地面に叩きつけられゴロゴロと転がっていった。
最後の一人はそれを見て戦意を喪失したのか背中を見せて逃げ出した。
(これで目撃者はいない)
レヴィンは時空防護を使用し、ミスリルソードを手に取る。
『閃裂剣』
レヴィンは騎士剣技を発動すると、ノマジアのどこからが顔でどこからが胴体なのか解らない体を両断した。
すると両断された体が塵となり、風に溶け消えた。
後には魔石のみが残されていた。
レヴィンはふうっと大きなため息を吐く。
うむ。無職最強!
敵を倒した彼は、ミスリルソードを時空防護にしまうと、とりあえず気絶している全員に治癒をかけて回った。
そして黒魔導士に職業変更する。
そして、荷馬車に隠れていた商人に魔物討伐を報告すると、気絶している人達をひきずって並べておく。
まったく予想外の敵との遭遇だった。魔法偏重主義は修正しないとなとレヴィンは心の中でため息をつく。
「さて、皆が気づくのを待ちますか……」
街道に一陣の風が吹いては消えていった。
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